第9話「品種改良」
読んでくださる方に、合う作品であることを祈りつつ。
2016/10/19 時間軸が行ったり来たりになるため、話の順番を変更します。
2016/10/20 大幅に修正いたしました。
カイルは、天賦の才という言葉を信じてはいなかった。
それを言われ過ぎたというのも、一つの要因ではあるが、実験的な結果で生まれた自分が強くなるのは当然の結果で――。
500人を擁しても、メイヲールを狩れなかったことから、強き者を作る決意をした時の王レーベレヒトは、ある実験を試みる。
それはまるで、サラブレッドを作るかのような血統に重きを置いた、品種改良の先に生まれた女性だった。
極めて妖力が高いものの、血が濃すぎたためヴァンパイアでありながら身体が弱く、歩くことさえ不自由だった。
名をエレーナと言い、後にカイルの母となる女性である。
レーベレヒトにとって、エレーナは不出来な仮の器でしかなかったが、幾度と無く繰り返されたものの、生まれることさえ困難で、仕方なくエレーナで時期ヴァンパイア王を作ることを決意する。
ドラキュラは皆、肌が白いのだが、エレーナの肌は病的に感じるほど青白く、また、骨が見えるほど細かった。
まさか自分が、そんな女性に宛てがわれようとは思っていなかったカーライルは「ドラキュラというよりも、ゾンビだな」と罵っていた。
そんな或る日、事件は起こる。
父レーベレヒトさえ認めていた、妃候補のエミリアが失踪したのである。
他にエミリア級の女性ドラキュラは居らず、父の命に背くことが出来なかったカーライルは、仕方なく結婚することとなる。
生理的に嫌っていた為、結婚したにも関わらず、契りを交わしたのは、唯の一度きりで、その一度で身籠ったことを喜び、カーライルは「種としての役目は終わった」と、その後、エレーナに近づこうともしなかった。
身体の弱いエレーナは、子を産むことで全ての生気を使い果たし、その子を抱くことなく、命の灯を消すのだった。
王であり、赤子の祖父であったレーベレヒトは、力の備わった子が生まれたことを大変喜び、その子にカイルと名付けた。
そして、カイルが歩き出した頃から、王としての教育が始まる。
それは教育とは名ばかりの、拷問のような訓練だった。
特に、息子のカーライルを甘やかしてしまったことに悔いがあるレーベレヒトは、アンデッドだからと、カイルを瀕死になるまで追い込んだ。
こうして時は過ぎ、日常と化した訓練の或る日に。
「殺す気で来い!」
その言葉を受け、カイルはレーベレヒトの攻撃をかわして、胸を貫いて心臓をもぎ取ると、何の躊躇いもなく、それを握り潰した。
苦痛で歪む表情とは裏腹に、レーベレヒトは涙を流し喜んだ。
「素晴らしい、まだ5つだというのに……いいぞ、カイル。お前こそ王だ」
そう言い残し、絶命する。
レーベレヒトに呼ばれ、見に来ていたバルバドは絶句する。
レーベレヒトから「いずれ、カイルは俺を殺すだろう」と聞いてはいたものの、こんなにも早く訪れるとは思わなかったからだ。
更に驚いたのは、カイルは祖父の死に、憎しみも、怒りも、悲しみも、喜びも、何の感情も見せなかったことだった。
「今のは、王の遺言として……」
「おいおい、エッカルト。ガキに王をやらせるつもりか?」
「し、しかし、若……」
「では、カーライル、お前が継ぐのか?」
「お前だと? バルバド、誰に口を利いてるつもりだ?」
バルバドは呆れ、嫌味を言う。
「もう王様気取りか?」
「なんだと!」
カーライルは、椅子から立ちあがり、バルバドを睨みつけた。
おいおい、この程度で激昂か?
これなら、王を譲っても短命だな。
まだ、あのガキの方が、肝が据わって恐ろしいよ。
「お止め下さい、まずは王の葬儀を行いましょう。次の王を決めるのは、その後でもよろしいでしょう」
葬儀の後、ドラキュラの実力者たちによる会議が行われる。
「王の遺言で……」
そうエッカルトが切り出したところで、エバンスが口を挟んだ。
「遺言があるのか? 書面は?」
この"書面"と聞いた事でバルバドは、既にこの会議がカーライルの手中にあると気づいた。
「いえ、口頭で……」
「聞いたのはお前だけか? 他には?」
だが、やり方が気に入らないバルバドは、エッカルトに乗る。
「儂も聞いたぞ」
エッカルトは、その援護を受け、遺言を伝える。
「カイル様です。レーベレヒト王が時期王に選ばれたのは、カイル様で御座います」
会議室は、失笑で溢れ返った。
「何の冗談だ?」
一緒に聞いた筈のカーライルが、笑ってそう言う。
「冗談などでは、御座いません! カーライル様もお聞きになられたでしょう?」
それに対しカーライルは、何の事かと言わんばかりに小首を傾げた。
「何を言ってるんだ、カイルとカーライルを聞き間違えたんじゃないのか?」
エバンスのこの発言で、会議室のほぼ全てが、その推理に納得する。
「バルバド卿!」
エッカルトは、バルバドに助けを求めたが、既に手遅れだと首を軽く横に振った。
この時の賛同が原因で、バルバドは遠方に飛ばされることとなる。
こうして、カーライル王が誕生したのだった。
そして時は過ぎ、カーライル王が亡くなった事で、今再び、カイルが王位継承最有力候補として、名を挙げられたのだ。
まだ少年とはいえ、王のご子息。
そして、あのメイヲールを追い返したのだ。
何処の誰が、反対しようか?
ようやく、エレーナお嬢様のお子が王に。
エッカルトは元々、エレーナの執事だった。
今すぐにでも、エレーナの墓に向かい報告したいほどだったが、それをカイル本人が拒否をする。
カイルは、王座自体に興味は無かったが、だからと言って、自分より弱い者の下に就く気にもなれなかった。
そうなると、自分以外に他は無く、親でさえなければ、今すぐにでも父カーライルと、代わっても良いとさえ思っていた。
まして、妾の子に譲る気など、微塵もなかった。
しかし、初めてアルベルトに会った時、その衝撃は計り知れず、存在さえも否定していた筈の言葉『天賦の才』を生まれたばかりの弟に見たのである。
カイルもアルベルトが成人するまでは、自分が即位と考えていたのだが、メイヲールに目を付けられ、更には青い髪の男も居る。
「坊ちゃん! 何故です?」
「私はメイヲールに狙われているのだぞ、王などやってる暇は無い」
「メイヲールに狙われているのは、全てです。坊ちゃんだけではありません! せめて、せめて、名前だけでも王に成られては如何ですか?」
「諄い!」
「どうしてアルベルト様なのです! あれは妾の子ですぞ!」
「エッカルト! 二度とアルベルトを妾の子と呼ぶな!」
こうして、王位は保留のまま、バルバドが摂政となったのだった。
しかし、一つだけは王の代理として、バルバドに約束させたことがある。
それはエミリアとの約束、グリンウェルの居場所を作ったことだ。
土地的な意味でもそうだが、地位的な意味も兼ね備えていた。
その甲斐あって、グリンウェルが差別を受けるようなことは以後無くなる。
最早、メイヲールに隠す必要のなくなったカイルは、誰に遠慮することもなく、修行に励んだ。
復讐するには、あれを越えなければならない……。
グリンウェルもまた、それを追うように、厳しい訓練をするのだった。
読んでくれて、ありがとう。
役者は、揃った。
さぁ、第二幕を開けようじゃないか!
次回「再び、幕は上がる」




