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MoonLit  作者:
Once In A Blue Moon
58/105

第9話「品種改良」

読んでくださる方に、合う作品であることを祈りつつ。


2016/10/19 時間軸が行ったり来たりになるため、話の順番を変更します。

2016/10/20 大幅に修正いたしました。

 カイルは、天賦てんぷの才という言葉を信じてはいなかった。

 それを言われ過ぎたというのも、一つの要因ではあるが、実験的な結果で生まれた自分が強くなるのは当然の結果で――。



 500人を擁しても、メイヲールを狩れなかったことから、強き者を作る決意をした時の王レーベレヒトは、ある実験を試みる。

 それはまるで、サラブレッドを作るかのような血統に重きを置いた、品種改良の先に生まれた女性だった。

 極めて妖力が高いものの、血が濃すぎたためヴァンパイアでありながら身体が弱く、歩くことさえ不自由だった。

 名をエレーナと言い、のちにカイルの母となる女性である。


 レーベレヒトにとって、エレーナは不出来な仮のうつわでしかなかったが、幾度と無く繰り返されたものの、生まれることさえ困難で、仕方なくエレーナで時期ヴァンパイア王を作ることを決意する。


 ドラキュラは皆、肌が白いのだが、エレーナの肌は病的に感じるほど青白く、また、骨が見えるほど細かった。

 まさか自分が、そんな女性に宛てがわれようとは思っていなかったカーライルは「ドラキュラというよりも、ゾンビだな」と罵っていた。


 そんな或る日、事件は起こる。

 父レーベレヒトさえ認めていた、妃候補のエミリアが失踪したのである。


 他にエミリア級の女性ドラキュラは居らず、父のめいそむくことが出来なかったカーライルは、仕方なく結婚することとなる。


 生理的に嫌っていた為、結婚したにも関わらず、契りを交わしたのは、ただの一度きりで、その一度で身籠みごもったことを喜び、カーライルは「種としての役目は終わった」と、その後、エレーナに近づこうともしなかった。


 身体の弱いエレーナは、子を産むことで全ての生気を使い果たし、その子を抱くことなく、命のともしびを消すのだった。


 王であり、赤子の祖父であったレーベレヒトは、力の備わった子が生まれたことを大変喜び、その子にカイルと名付けた。

 そして、カイルが歩き出した頃から、王としての教育が始まる。

 それは教育とは名ばかりの、拷問のような訓練だった。

 特に、息子のカーライルを甘やかしてしまったことに悔いがあるレーベレヒトは、アンデッドだからと、カイルを瀕死になるまで追い込んだ。


 こうして時は過ぎ、日常と化した訓練の或る日に。


「殺す気で来い!」


 その言葉を受け、カイルはレーベレヒトの攻撃をかわして、胸を貫いて心臓をもぎ取ると、何の躊躇ためらいもなく、それを握り潰した。

 苦痛で歪む表情とは裏腹に、レーベレヒトは涙を流し喜んだ。


「素晴らしい、まだ5つだというのに……いいぞ、カイル。お前こそ王だ」


 そう言い残し、絶命する。

 レーベレヒトに呼ばれ、見に来ていたバルバドは絶句する。

 レーベレヒトから「いずれ、カイルは俺を殺すだろう」と聞いてはいたものの、こんなにも早く訪れるとは思わなかったからだ。

 更に驚いたのは、カイルは祖父の死に、憎しみも、怒りも、悲しみも、喜びも、何の感情も見せなかったことだった。


「今のは、王の遺言として……」


「おいおい、エッカルト。ガキに王をやらせるつもりか?」


「し、しかし、わか……」


「では、カーライル、お前が継ぐのか?」


「お前だと? バルバド、誰に口を利いてるつもりだ?」


 バルバドは呆れ、嫌味を言う。


「もう王様気取りか?」


「なんだと!」


 カーライルは、椅子から立ちあがり、バルバドを睨みつけた。


 おいおい、この程度で激昂げっこうか?

 これなら、王を譲っても短命だな。

 まだ、あのガキの方が、肝が据わって恐ろしいよ。


「お止め下さい、まずは王の葬儀を行いましょう。次の王を決めるのは、その後でもよろしいでしょう」



 葬儀の後、ドラキュラの実力者たちによる会議が行われる。


「王の遺言で……」


 そうエッカルトが切り出したところで、エバンスが口を挟んだ。


「遺言があるのか? 書面は?」


 この"書面"と聞いた事でバルバドは、既にこの会議がカーライルの手中にあると気づいた。


「いえ、口頭で……」


「聞いたのはお前だけか? 他には?」


 だが、やり方が気に入らないバルバドは、エッカルトに乗る。


わしも聞いたぞ」


 エッカルトは、その援護を受け、遺言を伝える。


「カイル様です。レーベレヒト王が時期王に選ばれたのは、カイル様で御座います」


 会議室は、失笑で溢れ返った。


「何の冗談だ?」


 一緒に聞いた筈のカーライルが、笑ってそう言う。


「冗談などでは、御座いません! カーライル様もお聞きになられたでしょう?」


 それに対しカーライルは、何の事かと言わんばかりに小首をかしげた。


「何を言ってるんだ、カイルとカーライルを聞き間違えたんじゃないのか?」


 エバンスのこの発言で、会議室のほぼ全てが、その推理に納得する。


「バルバド卿!」


 エッカルトは、バルバドに助けを求めたが、既に手遅れだと首を軽く横に振った。

 この時の賛同が原因で、バルバドは遠方に飛ばされることとなる。

 こうして、カーライル王が誕生したのだった。



 そして時は過ぎ、カーライル王が亡くなった事で、今再び、カイルが王位継承最有力候補として、名を挙げられたのだ。


 まだ少年とはいえ、王のご子息。

 そして、あのメイヲールを追い返したのだ。

 何処の誰が、反対しようか?

 ようやく、エレーナお嬢様のお子が王に。


 エッカルトは元々、エレーナの執事だった。

 今すぐにでも、エレーナの墓に向かい報告したいほどだったが、それをカイル本人が拒否をする。


 カイルは、王座自体に興味は無かったが、だからと言って、自分より弱い者の下に就く気にもなれなかった。

 そうなると、自分以外に他は無く、親でさえなければ、今すぐにでも父カーライルと、代わっても良いとさえ思っていた。

 まして、めかけの子に譲る気など、微塵もなかった。

 しかし、初めてアルベルトに会った時、その衝撃は計り知れず、存在さえも否定していた筈の言葉『天賦の才』を生まれたばかりの弟に見たのである。

 カイルもアルベルトが成人するまでは、自分が即位と考えていたのだが、メイヲールに目を付けられ、更には青い髪のグレイスも居る。


「坊ちゃん! 何故です?」


「私はメイヲールに狙われているのだぞ、王などやってる暇は無い」


「メイヲールに狙われているのは、全てです。坊ちゃんだけではありません! せめて、せめて、名前だけでも王に成られては如何ですか?」


くどい!」


「どうしてアルベルト様なのです! あれは妾の子ですぞ!」


「エッカルト! 二度とアルベルトを妾の子と呼ぶな!」



 こうして、王位は保留のまま、バルバドが摂政となったのだった。


 しかし、一つだけは王の代理として、バルバドに約束させたことがある。

 それはエミリアとの約束、グリンウェルの居場所を作ったことだ。

 土地的な意味でもそうだが、地位的な意味も兼ね備えていた。

 その甲斐あって、グリンウェルが差別を受けるようなことは以後無くなる。


 最早、メイヲールに隠す必要のなくなったカイルは、誰に遠慮することもなく、修行に励んだ。


 復讐するには、あれを越えなければならない……。


 グリンウェルもまた、それを追うように、厳しい訓練をするのだった。


読んでくれて、ありがとう。



役者は、揃った。

さぁ、第二幕を開けようじゃないか!


次回「再び、幕は上がる」

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