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MoonLit  作者:
Once In A Blue Moon
55/105

第6話「カイルは、静かに怒り」

読んでいただく方に、合う作品であることを祈りつつ。

「この妖気、まさか……メイヲールか!」


 メイヲールの妖気が移動し、それがカーライル城に向かっていると気付いたカイルは、慌てて引き返す。


 気付かれても構わん!

 ヤツよりも先に!


 ドラキュラ界に生まれた大器を失わないために、周囲の大人たちが、必死でカイルの存在をメイヲールに気付かせないようにしていた。

 カイルもまた、メイヲールの存在を知ってから、気をつけるようにしていたのだった。

 だが、今は弟を守るため、カイルは全開で飛ばす。


「急がなければ、アルベルトを失う訳にはいかない!」


 メイヲールよりも早く着くことが出来たカイルは、すぐに妖気を消し、城の中を駆け抜ける。

 一直線にアルベルトの部屋へと向かい抱き上げると、止まることなく執事室へ向かい、その扉を蹴り開けた。


「ど、どうされました、坊ちゃん?」


「エッカルト! メイヲールが来る!」


「メ、メイヲールですと!」


 その時、轟音と共に城が揺れる。


「来たか! お前はアルベルトを連れ、バルバドの城まで逃げろ!」


「ぼ、坊ちゃんは?」


「お前らが逃げるまで、メイヲールを止めてみせる」


「いけません! それなら、私や他の者が……」


「無理だな、あれを止められるのは……私とエミ……チッ!」


 そこに在る筈の妖気は既に感じられず、エミリアは絶命した後だった。

 カイルが舌打ちをしたのは、アルベルトを逃がすまでの時間稼ぎが出来る一人として、数に入れていたからだ。


「グズグズするな行け! それから、バルバドには『王位はれてやる』と伝えろ」


「死ぬおつもりなのですか!」


 カイルは、死を覚悟するしかなかった。

 メイヲールが、強い者を探しているのは周知の事実で、目の前に立てば間違いなく標的ひょうてきにされ、仮に今回逃げられたとしても、いずれ戦うことになるのは明らかだった。

 しかし、自分がメイヲールの前に立たなければ、アルベルトを逃がす時間を作ることなど、他の誰にも出来ない。


「私のあるじは、カイル様だけ御座います。どうか、わたくしめに、そのお役目をお与えください」


 涙ながらにエッカルトは訴えたが、カイルは静かに怒り、


「エッカルト、これは命令だ! 守らなければならないのは、アルベルトの命、唯一ただひとつ、他に選択肢などない!」


 そうめいじて、部屋を去った。



 メイヲールは、失望した。

 それは、失踪しっそうしていた最強のドラキュラが、ヴァンパイア領に帰ったと聞き、一番大きな妖気を辿って来てみれば、そこに居たのは、最強の戦士ではなく、すさんだ情婦だったからだ。

 こんな相手の為に、此処まで来させられたのかと、怒りのおもむくままに、エミリアを葬った。

 しかし、まだ物足りないメイヲールは、横に居たカーライルに目を付ける。


 カーライルは、決して弱い存在ではなく、歴代のドラキュラ王と比べても5本の指に入るほどだった。

 しかし、メイヲールとは比べるうつわが違う、まして、自分より強いエミリアを瞬殺したのだ、カーライルは怯え、必死で逃げた。

 つかめる物なら、全て掴んで投げつける、まるで子供のような抵抗で逃げ惑い、キャンドルまで投げてしまったことで、城が炎に包まれてしまう。

 手をもぎ取られ、足を折られ、それでも逃げ続けた。


「蚊ノ族長トハ、ソンナモノカ?」


 この発言は、単純な強さだけを意味するだけではなく、こんな醜態しゅうたいを晒すのがヴァンパイア王を名乗るのかという皮肉も込められていた。

 だが、その頃カイルは、そんな王を初めて称賛していた。


 良い時間稼ぎをしてくれる。


 メイヲールが、その遊びに飽きたと思われた頃、カイルがその姿を現した。

 まるで時を止められたのか感じるほど、メイヲールは驚いた。

 そこに立つ少年は、誰よりも強く、覇気まで備わっていたからだ。


 ソウカ! 我ガ追ッテイタノハ、コイツカ!


「来るな! カイル! アルベルトを連れて、逃げろ……」


 この発言によって、メイヲールの時が動き出す、既にカーライルに興味の無くなったメイヲールは、一瞬にしてカーライルの身を真っ二つに切り裂いた。


 最期は、父親らしい態度だったな。

 感謝するよ父上、ここまで時間を作ってくれたことを。 

 さぁ次は、私の番だ。


 カイルは、隠していた妖気を解放する。


 不思議だ、怖くない……

 そういえば、アイツ《グレイス》の方が怖かったな……


 カイルが覚悟を決めた一方で、メイヲールは悩んだ。


 惜シイ……


 その時のカイルは、エミリアの妖気を超えていなかったからだ。

 もしも、カイルがエミリアを凌駕していたなら、迷わず闘っていたかもしれない。

 だが、そこまでだったことが、逆に『成長するかもしれない』という考えを芽生えさせ、この少年が待つにあたいするか試すことにした。


 メイヲールは、ゆっくりとカイルへと近づき、その右の拳を振り下ろした。


 カイルはまたたくこともせず、また、その拳が鼻先をかすめたにも関わらず、けようともせず、メイヲールから目を離さなかった。 


 メイヲールは、地響きするほどに笑い、


「楽シミハ、残シテオクカ」


 そう言い残し、飛び去った。



 カイルは、アルベルトを迎えにバルバドの城へ向かう。


「カイル、よく生きて帰ってこれたな」


「メイヲールは、私の成長を待つそうだ」


「そうか、目を付けられたか……王位はどうする? 継ぐか?」


「ん? エッカルト、言わなかったのか?」


「ま、まだ、急ぐ話ではないかと考えまして……」


 そう言って、エッカルトは冷や汗を流す。


「そうか……バルバド、王位はけいが就くのが相応ふさわしいと、私は考えているのだが、如何かな?」


「妖力ではカイル、お前の方が上ではないか? なのにわしなのか?」


「ご冗談を……私のようなガキに、務まるものではありませんよ」


 その言いようで、よく自分をガキなどと。


 バルバドは笑い、一つの提案を持ちかける。


「では、摂政せっしょうということで、預かろうか?」


何故なにゆえ、王をこばまれる?」


 一番強い者が王でなくて、誰が認めるものか!

 どうせお前は、いつでも取り返せると思っているんだろ。


 と、口から出そうな気持ちを抑え、在りもしない理由を語る。


「君の父上には、借りがあったからな」


「では、それでよろしくお願いします」


 アルベルトが王位に就く、その時まで。


読んでくださって、ありがとう。


――母さん、僕、強くなるよ。


次回「グリンウェルは、嘆き悲しみ」

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