最終話「LunarEclipse 後篇」
読んでくださる方に、合う作品であることを祈りつつ。
2018/03/30 加筆修正。
メイヲールの再生速度を目の当たりにした鷹也は、逃げ過ぎることも、攻め過ぎることもせず、ただ、間合いに気をつけながら、倒す術を探していた。
こうやって時間を稼いで、陽が昇るのを待つか?
如何に規格外の化物と言えど、太陽光が弱点のヴァンパイアであることに違いは無い。
天井を破壊し、陽光の下に晒せば、ローブの在る自分が生き残れると考えた。
しかし、そのローブの存在が戦術を否定する。
否、駄目だ……もし、それが出来ていたなら、父さんがやっていた筈だ。
4人掛かりで、封印するなんて手段を選ぶ筈が無い!
恐らく、陽光による損傷よりも、再生速度が速いに違いない。
やはり、手足を切断して……ッチ、羽もか……流石に、そこまで闘いに付き合ってはくれないだろうな。
何か、何か他に手は無いのか……。
考えに集中し過ぎてしまい、メイヲールの蹴りを中途半端に受けてしまう。
しまった!
掬い上げるようなその蹴りは、鷹也の身を浮かす。
逃れるために翼を広げようとしたものの、既に遅く、メイヲールの右手に捕まってしまった。
メイヲールは、更に左手を添え、渾身の力を込めて、両手で握り潰しにいく。
ウォォォォォォォォォォーーーッ!
強烈な圧迫の前に、抵抗と苦痛が入り混じった叫び声をあげたその時、突如として、その手から解放される。
メイヲールは、まるで飛んできた虫を嫌うかのように、左手で鷹也を払い飛ばした。
握り潰す、叫び声、この2つのキーワードが、メイヲールに"ある記憶"を呼び起こしたのだ。
カイルによる手の破裂。
それが切っ掛けとなり、封印まで至った記憶が嫌悪を抱かせ、無意識にそういう行動をさせたのだった。
「アノ様ナ……小サキ蚊ニ……惧レヲ……」
生まれて初めて味わう、認め難き屈辱に怒りで震え、大地が揺れるほどの雄叫びをあげながら、本能の赴くまま、それはまるで荒れ狂う嵐のような猛威で、再び、鷹也に襲い掛かる。
冷静を失っている今なら!
鷹也は、妖気のある剣を捨て、破れた筈の分身を始める。
一度は、考えが過ぎったものの、技が破られているだけに、安易に使えば致命傷になりかねないと考え、躊躇っていた。
だが、再生の速いメイヲールを仕留めるには、ウォレフのように心臓を串刺しにするか、首を刎ねるような一撃に賭けるしかなかった。
グリンウェルの別ルート、分身を残すことを考えなければ、俺にもやれる筈だ!
「無駄ダ!」
即座に反応したメイヲールは手を振って、風圧で分身を消してゆく。
メイヲールの視界から外れる瞬間、鷹也は妖気を消し、メイヲールの頭上、更に天井まで飛んだ。
天井を蹴り勢いをつけ、メイヲールの頭目掛け、一直線に降下する。
脳天から股下まで、切り裂いてやる!
「同ジ手ガ、何度モ通ジルト、思ウナーーーッ!」
鷹也が手刀に妖気を籠めた瞬間、メイヲールの角が鷹也を貫いた。
そこから噴出すように血が流れ、メイヲールの顔を赤く染める。
ここでメイヲールの言った"同じ手"とは、鷹也が最初に出した分身を指すのではなく、アルベルトがメイヲールの角を叩き折った時のもの。
メイヲールは大きく首を振って、鷹也を地面に叩き付ける。
鷹也の右脇腹は、直径30cmほどの穴が開き、肋どころか、背骨までも折れ、最早動けなくなっていた。
メイヲールは、自分の勝利を確信し、鷹也に止めを刺す。
「終ワリダ、狡賢キ、弟ヨ!」
血……
血が、足りない……
何処だ?
血は、何処だ!
在るじゃないか、目の前に!
メイヲールの右拳が、鷹也を捕らえた、否、捕らえたように見えた。
それは、まるで羽毛を叩いたかのように殴った感触がなく、拳が当たる直前で風に流されたかのようにフワリと浮かぶと、そのまま拳に纏わり付いて、手首に歯を立てた。
「往生際ノ悪イ、蚊メ!」
振り払おうとするも、歯が食い込んで外れない。
メイヲールは、まるで停まった蚊を潰すように、左手で右腕に停まる鷹也を叩きにいったが、今度は左腕に移られ、再び、血を吸われる。
ならばと、銜えさせたまま、その左腕を城の壁に叩きつけた。
しかし、それすらも擦り抜け、左腕に沿って首筋を狙い迫ってくる。
「血を遣せ!」
間一髪、右手でそれを掴んだが、気味悪がって遠くへ放り投げた。
ゆらりゆらりと立ち上がった相手は、まるで亡霊のようで、その眼は真紅に染まり、そして……、
「馬鹿ナ……」
その腹に開けられていた筈の大きな穴が、既に無くなっていた。
ドラキュラにも、再生能力は在る。
そんな事くらいは、メイヲールも知っている。
だが、それは余りにも速過ぎた。
自分の血がその影響を与えたのかもしれないが、そうだとしても、自分以上の速さを感じたのである。
全く……よく生きていられるもんだ。
アイツもバケモンだが、俺も変わらねーな。
さて、どうする?
流石に、まだ死なない俺を見て、少しは警戒してるようだな。
不気味にさえ感じる相手に、無敵を自負していたメイヲールでさえ、間合いを取らざるを得なかった。
それは、鷹也が再び剣を拾う姿を目で追いかけても尚、警戒するほどだった。
しかし、よく観察することで、一つ解った事がある。
「貴様……アノ時ノ、弟デハ無イナ? ナ、何者ダ!」
「我が名は、エクリプス。月蝕の刻だ」
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