第26話「LunarEclipse 前篇」
読んでくださる方に、合う作品であることを祈りつつ。
2018/03/30 加筆修正。
まるで天変地異が起こったような錯覚をさせられるほど、突如として現れた者の妖気は凄まじく、その城に棲んでいた生物は、獣、鳥、虫に至るまで、一斉にその場を離れた――否、逃げた。
空間を裂いて現れたのは、身の丈15mほどの、黒い山羊の顔をした魔人。
「な、なんだ……コイツは!」
「コイツの名は、メイヲール。かつて、俺、カイル、アルベルト、グリンウェルの4人で封印した魔人だ!」
突然目の前に現れた巨大な生命体に、誰もが呆然と立ち竦む中、一人だけ、声を張り上げた者が居た。
「メイヲール! いい事を教えてやる!」
呼ばれた方向を見下ろすと、下半身の無いドラキュラがそこには在った。
「アノ時ノ、蚊ノ一匹?」
メイヲールは、徐にグリンウェルを掴み上げ、苦痛で歪む顔を楽しみながら握り潰そうと、指に力を入れたその時、グリンウェルが鷹也を指差して叫んだ。
「メイヲール、あいつの持ってる剣は、お前の角だ!」
「ナ、何ダト……」
確かにその剣は、無生物にあるにも関わらず、異様な妖気を纏っており、その大きさは己に匹敵している。
しかも、よく見ればその剣を握っているのは、自分の角を叩き折ったドラキュラではないか。
「我ガ……角?」
己の生命力を考えれば、未だに再生されないということは有り得ない。
だが、気になったメイヲールは、それが在るべき場所へと手を伸ばした。
しかし、在る筈の物がそこには無く、折られた根元の感触だけが、二度と元へは戻らないことをメイヲールへ伝えるのだった。
アルベルトの開発した転移装置は、原子分解を行い、転移先で再構築されるという代物で、つまりは、分解を行った際に、角の無い生物としてデータが保存されたのである。
「我ガ角ヲ……アノ様ナ、玩具ニ!」
メイヲールの怒りは、まず掌の中に在る者から向けられた。
怒りの赴くままに、グリンウェルを握り潰し、指の隙間から血が飛び散る。
更に、その手に残った肉塊を激しく地面へ叩きつけ、そして踏み潰した。
「許サン! 許サンゾォォォーーーッ!」
大気を震わせる咆哮が、城中に鳴り響く。
鷹也は、蛇に睨まれた蛙のようになっていたが、鼓膜を破るようなその叫び声によって、我に返る。
ヤツが動く前に、勝負を決めなければ!
鷹也の分裂は、一気に16人まで増え、メイヲールを取り囲む。
「笑ワセルナ!」
その言葉と共に、メイヲールは激しく左腕を振った。
その攻撃は、大きく空振ったのだが、それから発せられた衝撃波が、鷹也の分身を一つ残らず、消し去った。
本体である鷹也も例外なく、その衝撃波で体勢を崩される。
その瞬間をメイヲールは、逃さなかった。
分厚い右の掌で、鷹也を地面へと叩き落とすと、更に地面で横たわる鷹也を踏みつける。
なんとか転がることで、それを躱したものの、壁面まで追い詰められ、已む無く、剣で受け止めた。
背にする地面が割れるほどの圧力が、鷹也を襲う。
「此ノ儘、潰シテクレル!」
押し上げ逃げようと、歯を喰いしばるものの、メイヲールの体はビクともしない。
メイヲールは、更に踏みつけている右足に体重を掛け、力を籠めた。
伸ばした腕がその圧力に耐えかねて、顔の間近まで来た時、攻撃している筈のメイヲールから苦悶の叫び声。
ウォレフが、左のアキレス腱を爪で切り裂いたのだった。
「此ノ、犬畜生ガ!」
ウォレフを殴りにいったことで体が傾き、それによって鷹也は一気に足を押し上げ、メイヲールはバランスを崩して、その場に倒れた。
すかさず、ウォレフはメイヲールの胸へと駆け上がる。
まだ、爪に薬は残っている。
如何に貴様が化物でも、これを直接心臓に突き刺せば、ただでは済むまい!
「届けぇぇぇーーーっ!」
メイヲールの両手が、ウォレフを挟むように迫って来る。
これを避けていては、この最大のチャンスを逃してしまう!
ウォレフは、それを避けることなくメイヲールの心臓目掛け、爪を突き立てた。
しかし、それが心臓に到達するよりも早く、メイヲールの両手で挟まれ、血飛沫が舞う。
「ウォレフ!」
鷹也は、メイヲールの右手首を斬り落とし、ウォレフを挟んだ手から解放する。
メイヲールの胸へ倒れゆくウォレフを抱え、その胸を蹴って飛ぶと、翼を広げ、城の端まで大きく離れた。
「ウォレフ! 大丈夫か! しっかりしろ!」
血塗れのウォレフは、鷹也の頬に手を伸ばした。
「メイヲールの再生能力は速い……」
「喋らなくていい、生きることだけに気を張ってくれ」
「鷹也、すまない……逃げろと言いたいが、あれを……メイヲールをこの城から出してはいけない」
「解った、だからもう喋るな、生きてくれ!」
「鷹也……世界を救え……」
香織……
鷹也を死地へと向かわせる俺を
きっと、お前は許してくれないだろうな。
お前のように、俺もまた、鷹也の父で在りたかった。
なぁ、香織……
そっちなら……俺のプロポーズ、受けてくれるよな?
ウォレフは、静かに目を閉じた。
「ウォレフーーーッ!」
第27話「LunarEclipse 中篇」へ つづく
更新が開いてしまったので、一旦区切って、次回は中篇にしたいと思います。




