第20話「王の器」
読んでくださる方に、合う作品であることを祈りつつ。
2018/03/30 加筆修正。
グリンウェルの住む城が、その昔『メイヲール』と言う魔人が暮らしていた城であった事は、その時代に生きていたヴァンパイアにとって、物語でもなければ伝説でもない、記憶に刻まれた事実であるのだが、その魔人メイヲールを狩ったのは、キリストだと思われていた。
4人が、メイヲールを退治した事実を公表する事はなかった。
それはメイヲールが居なければ、カイル・アルベルト・ウォレフ・グリンウェルの4名が、地上に生きる全ての頂点に立っているのは、周知の事実だったからである。
殆どのヴァンパイアは、メイヲールが死してもなお、彼に対する恐怖が抜けず、未だに城さえ近づく事が出来ない。
その当時に、生まれていなかった者を除いては――。
「出て来い! グリンウェル!」
「何の用ですか?」
「借りを返しに来た」
「ほぅ、私とヤルと言うのですか? たった"二人"で?」
二人という言葉を強調し、ニヤリと厭らしく笑った顔が、弟オズワルドの死を笑っているようだった。
「貴様程度に、レイリアの手を借りるまでもない!」
そう言うと、グリンウェルへと飛び掛り、その怒りを沸き上がらせる顔面へと鋭い右の拳を放った。
しかし、拳がその場所へ届くよりも前に、それが所有する左手によって遮られた。
「もう、貴様を生かす価値は無いな……」
「何様のつもりだ!」
「王だよ、この世界の!」
右足でグリンウェルの左脇腹を蹴りに行ったが、グリンウェルはガーランドの右拳を離す事なく、左の肘で蹴りに来た右足を撃ち墜とした。
幾千もの攻撃を繰り出したが、その右拳が放される事はなく、レイリアが加勢して漸く解放された。
今まで格下だと考えていた相手だっただけに、その強さが不気味に思えた。
「なるほど、バルバドの爺が貴様に一目置いていた訳だ」
ガーランドは、怒りの赴くままに妖気を高める。
「やはり、その程度か」
「何だと?」
「勘違いしているようだから教えといてやる。私が本当に恐れていたのは、カイルとアルベルトだけだ。貴様ら3兄弟と闘いを避けていたのは、万が一、ウォレフと組まれては、厄介だと考えていたからだ」
一言一言発する度に、妖気が膨らんで行き、それはガーランド達の予測を遥かに越えて、
「ア、アルベルトを凌駕している!」
レイリアが言葉にするほど驚いたのは無理もなかった。
通常でグリンウェルが放っていた妖気は、高くてもガーランドの3分の2ほどしかなく、今はガーランドの倍近くまで上がっていた為だった。
何故、比べる対象がカイルではなく、アルベルトなのか?
それは、カイル・アルベルト・グリンウェル・ウォレフが妖気の最大値を隠していた為、ジークの封印が解けた後に生まれたヴァンパイアや人間にとって、5つの都市を破壊した時のアルベルトの妖気が、誰よりも高いものだったからである。
「レイリア逃げろ!」
「安心しろレイリアは殺さん。レイリアは女の中で一番妖気が高い……私の子を産むに値する母胎だ」
「ふざけるな!」
怒りのままに出された左拳は、グリンウェルの内から外へ振った右拳によって、まるで爆発したかのようなに破裂した。
以前、ガーランドが鷹也によって切り落とされた右腕のように、切り離された部分が残っていれば、傷口を合わせる事により、10分もあれば元に戻るのだが、今回のようにその部分自体が無くなってしまうと、如何に再生能力の高いドラキュラといえども、完全に再生するのに半日は掛かる。
もちろん、完全に再生するまで痛みを伴うのだが、ガーランドが悲鳴をあげる事はなかった。
精神力の強さでもあるが、怒りによる興奮状態が痛みを忘れさせているようだった。
本来放つ筈の悲鳴は、怒声へと変貌し、ガーランドに攻撃を続けさせていた。
グリンウェルの注意がガーランドに集中してる間に、レイリアは逃げる振りをしてグリンウェルの死角をつき、背後から蹴りを浴びせようとした。
後ろに目が在るのではないか?と感じるほどに、グリンウェルはレイリアの蹴りが当たる寸前で、ガーランドを壁面まで弾き飛ばし、振り向きながらレイリアの蹴りに来た右足を捕まえ、一回転してガーランドの居る壁面まで投げ飛ばした。
「何をしている! 逃げろと言っただろ!」
兄の声は届くものの、その意味する答えには届かず、尚も妹は加勢しようとしてた。
しかし、その結果『妹を逃がさなければ』と言う思いが、ガーランドに冷静を取り戻させた。
どうする?
胸クソ悪いが、奴の方が上なのは明らかだ。
逃げる事は……出来そうに無いな……
せめて、レイリアだけでも……
待てよ?
レイリアは殺さんのだったな……
確か『ウォレフと組まれては厄介だ』とも言っていた。
ガーランドは、レイリアに近づき耳打ちする。
「このままでは、二人とも殺られる。だから、お前は此処を出て、エクリプスとウォレフを連れて来い」
「兄さんは?」
「安心しろ、俺はお前が戻るまで耐えてみせる」
ガーランドは、弟を殺した鷹也に力を借りる気など毛頭なかった。
このまま妹を戦わせない為の嘘だったのである。
例え、戻って来た時に己が息絶えていたとしても、エクリプスとウォレフが居るのであれば、妹が死ぬ事はないと考えた。
「いいか、よく聞け! 奴はお前を殺すことはないから、思いっきった攻撃に行け。俺は、お前を利用すると見せ掛けた攻撃を幾つか仕掛けて行く。少しずつ攻撃範囲を広げて、お前と奴との距離が20m以上離れたら、此処を脱出しろ! いいな!」
レイリアは、兄の言葉にシッカリと頷き、視線をグリンウェルへと向けた。
「作戦時間は、終了か?」
余裕のあるグリンウェルにレイリアが突進し、ガーランドもそれに続く。
顔面へ目掛けて右回し蹴りを繰り出すも、いとも容易く左腕でブロックされたのだが、レイリアの股間を抜けて来たガーランドが左脇腹をエグるように殴り、その身を10mほど飛ばした。倒れるまでには至らなかったが、さしものグリンウエルも顔を歪めた。
「妹を盾にするとはな……兄として恥ずかしくないか?」
言葉で心を乱そうとしたが、兄妹は返答する事なく、畳み掛けるように攻撃を続けた。
しかし、幾ら目を暗ますような攻撃を繰り出しても、本気になったグリンウェルに致命的な攻撃を与えることはなかった。
もし、オズワルドが居たならば、もう少しマシに戦えたのかも知れない。
だが、本気になった事が、ガーランドの意とする答えへと導いた。
力の入った攻撃は、レイリアを弾き飛ばし、その距離を30m近くまで離した。
「行け、レイリア!」
妹は、振り返ることなく兄の言葉に従い、全速力で外へと飛び出した。
「これで、心置きなく死ねると言う訳か?」
第21話「守るべき者」へ つづく




