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MoonLit  作者:
Lunar Eclipse
35/105

第17話「山羊の魔人」

読んでくださる方に、合う作品であることを祈りつつ。


2018/03/30 加筆修正。

 時を遡ること、およそ2千年。


 光が届かないほどの深い森の中に、カイル・アルベルト・ウォレフ・グリンウェルの4人は居た。

 その先には山が在り、その身は天まで届くほどに高く、山頂の雪は解けることを知らなかった。

 この山の中腹には、この世を支配する王が住んでおり、恐怖と言う名の下に、世界は統一されていた。


 王の名は、メイヲール。


 身の丈が15mほどの巨体で、山羊の顔をした魔人であった。

 その力は、この世界に住む全ての生物とは次元そのものが違い、その身から発せられる妖気は、星の反対側まで感じられる程に強く、彼の名を口にすることさえ、恐れる者も少なくはなかった。


「何シニ来タ?」


「メイヲール……君を狩りに来たんだ」


 アルベルトは、笑顔でそう答えた。


「蚊ノ分際デ、我ヲ狩ルダト? 冗談トシテモ、我ヲ狩ルニハ随分ト、足ランナ」


「いーや、僕らだけで充分だよ」


「会ワヌ内ニ、愚カニナッタカ……」


「別れの挨拶は、これまでだ」


 カイルの言葉にメイヲールは鼻で笑いながら、鋭く右手を内から外へと振った。

 カイル達との距離は十分にあり、その手が届く筈はなかったのだが、メイヲールにとっての"その距離"は、射程距離だった。

 まるで竜巻のような風圧が4人を襲い、壁まで吹き飛ばす。


「口ダケデハ無ク、少シハ楽シマセテミセヨ」


「アルベルト! 本当に勝てんだろうな!」


 あまりの力の差を目の当たりにして、ウォレフはアルベルトに再度確認した。



 一週間前。


「あんなバケモノに、どうやって勝つんだ?」


 ヴァンパイアがヴァンパイアに対して、バケモノと呼ぶことに可笑しさを感じるものの、それを表現したウォレフを笑うほどの違和感はなかった。

 アルベルトは、ポケットから手の中に収まるほどの小さな機械を3つ出し、テーブルの上に置く。


「何だそりゃ?」


「これは、転移装置の試作品なんだ」


 アルベルトが開発していた転移装置とは、物質を原子レベルで分解した後に、転移先へデータを送り、再構築すると言う代物しろものだった。


「機械が3つなら、3人で充分なのではないですか?」


 できれば、参加したくないグリンウェルがそう言うと、


いや、この機械がレーザーを放って形成する三角錐さんかくすいに3分間入っていないと、原子分解が始まらないんだ。奴だって馬鹿じゃない、当然動く……つまり、メイヲールを抑える役が必要って訳さ」


「抑えるって……無茶言うなよ、誰が抑え……」


 そう嘆くウォレフに、カイルが即答する。


「私だ」


「おいおい、カイル、お前が強いのは認めるよ、だがな……」


「兄さんもグリンウェルと同じように、本当の力を見せてないんだ」


「え?」


 隠してた力を最大限に引き出せば、カイルに並ぶと思っていただけに、グリンウェルはショックだった。

 思わず声が漏れ、不自然に口を抑えてしまほどに、動揺を隠せないでいた。

 届いたと思っていたゴールが遠のく感じがして、軽い目眩めまいすら起こしそうになっていた。


「とは言え、メイヲールを越えるほどじゃない。抑えると言っても、2分が限界だ」


「ダメじゃねぇか!」


「ウォレフ……兄さんだけを闘わせるつもりか? メインで闘う兄さんを僕らがサポートするんだよ。そうすれば、残り1分は補える」


「質問があります。メイヲールは、何処へ転移されるのですか?」


 ようやく冷静を取り戻したグリンウェルが口を開いた。


「オイ、グリン! やる気なのか?」


「遅かれ早かれ、闘わなくてはイケナイ相手ですからね。勝てる見込みがあるのなら、それに賭けた方が……」


 山羊の魔人メイヲールは闘いを好み、同族さえも狩り続けた。

 しかし、度が過ぎて絶滅まで追い込んだ種族も数多く、カイル達が生まれる凡そ200年前、危機を感じたドラキュラ族は、500匹を越える部隊を構成し派遣したものの、一人として帰る者は居なかった。

 そして、敵対しようと考える者さえ失ったのである。

 このまま破壊を繰り返しても、楽しみが減ると考えたメイヲールは、破壊行動を年に一度一都市と決め、自分を狩りに来る勇者の出現を待っていた。


「転移はさせない。何故なら、星の外へ出したとしてもメイヲールが死ぬとは言い切れないからだ。つまりは、何処へも飛ばさず、奴をこの中に封じ込める」


「では、もう1つ。アルベルト……貴方が考える、今回の勝率は?」


「3割と言ったところだ」


「3割? もっとメンバーを増やした方が、確実じゃないのか?」


 ウォレフの意見は、もっともだった。

 ただでさえ、死を覚悟しなければならないのに、それが死ぬのが7割と聞けば尚更だった。


いや、増やせば返って警戒され、勝率は1割にも満たなくなるだろう。奴に勝つには、奴の油断こそが、最も必要なんだ」


「で? いつ殺るんだよ?」


 ウォレフは諦め、溜め息混じりに、その期日を聞く。


「シミュレーションを充分に重ねた上で、実行に移りたいから……一週間後かな?」


  ・

  ・

  ・


「行くぞ!」


 カイルの掛け声と共に、4人はメイヲールを囲むように四方に分かれ、高速で飛び交いながら、メイヲールに対してヒット&アウェイを繰り返していった。


「ソレデハマルデ、蚊ト云ウヨリモ、蝿ダナ」


 メイヲールは、そう表現した通りに欝陶うっとうしい蝿を払うかの如く、右手だけを軽く振り遊んでいた。

 一方、カイル達の繰り出す攻撃は、当たってはいるものの、致命傷どころか、傷一つ付けられない。

 カイルは、右手に妖気を集中させ、どんな生物でも鍛える事の出来ない、目へと狙いを定める。

 しかし、流石にメイヲールもそれは許さず、左手でカイルを捕らえると、握り潰し始めた。


「兄さん!」


 カイルのうめき声と、メイヲールの不気味に笑う声が重なり、異様な不協和音ふきょうわおんを奏でていた。


第18話「メイヲールの誤算」へ つづく


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