第17話「山羊の魔人」
読んでくださる方に、合う作品であることを祈りつつ。
2018/03/30 加筆修正。
時を遡ること、およそ2千年。
光が届かないほどの深い森の中に、カイル・アルベルト・ウォレフ・グリンウェルの4人は居た。
その先には山が在り、その身は天まで届くほどに高く、山頂の雪は解けることを知らなかった。
この山の中腹には、この世を支配する王が住んでおり、恐怖と言う名の下に、世界は統一されていた。
王の名は、メイヲール。
身の丈が15mほどの巨体で、山羊の顔をした魔人であった。
その力は、この世界に住む全ての生物とは次元そのものが違い、その身から発せられる妖気は、星の反対側まで感じられる程に強く、彼の名を口にすることさえ、恐れる者も少なくはなかった。
「何シニ来タ?」
「メイヲール……君を狩りに来たんだ」
アルベルトは、笑顔でそう答えた。
「蚊ノ分際デ、我ヲ狩ルダト? 冗談トシテモ、我ヲ狩ルニハ随分ト、足ランナ」
「いーや、僕らだけで充分だよ」
「会ワヌ内ニ、愚カニナッタカ……」
「別れの挨拶は、これまでだ」
カイルの言葉にメイヲールは鼻で笑いながら、鋭く右手を内から外へと振った。
カイル達との距離は十分にあり、その手が届く筈はなかったのだが、メイヲールにとっての"その距離"は、射程距離だった。
まるで竜巻のような風圧が4人を襲い、壁まで吹き飛ばす。
「口ダケデハ無ク、少シハ楽シマセテミセヨ」
「アルベルト! 本当に勝てんだろうな!」
あまりの力の差を目の当たりにして、ウォレフはアルベルトに再度確認した。
一週間前。
「あんなバケモノに、どうやって勝つんだ?」
ヴァンパイアがヴァンパイアに対して、バケモノと呼ぶことに可笑しさを感じるものの、それを表現したウォレフを笑うほどの違和感はなかった。
アルベルトは、ポケットから手の中に収まるほどの小さな機械を3つ出し、テーブルの上に置く。
「何だそりゃ?」
「これは、転移装置の試作品なんだ」
アルベルトが開発していた転移装置とは、物質を原子レベルで分解した後に、転移先へデータを送り、再構築すると言う代物だった。
「機械が3つなら、3人で充分なのではないですか?」
できれば、参加したくないグリンウェルがそう言うと、
「否、この機械がレーザーを放って形成する三角錐に3分間入っていないと、原子分解が始まらないんだ。奴だって馬鹿じゃない、当然動く……つまり、メイヲールを抑える役が必要って訳さ」
「抑えるって……無茶言うなよ、誰が抑え……」
そう嘆くウォレフに、カイルが即答する。
「私だ」
「おいおい、カイル、お前が強いのは認めるよ、だがな……」
「兄さんもグリンウェルと同じように、本当の力を見せてないんだ」
「え?」
隠してた力を最大限に引き出せば、カイルに並ぶと思っていただけに、グリンウェルはショックだった。
思わず声が漏れ、不自然に口を抑えてしまほどに、動揺を隠せないでいた。
届いたと思っていたゴールが遠のく感じがして、軽い目眩すら起こしそうになっていた。
「とは言え、メイヲールを越えるほどじゃない。抑えると言っても、2分が限界だ」
「ダメじゃねぇか!」
「ウォレフ……兄さんだけを闘わせるつもりか? メインで闘う兄さんを僕らがサポートするんだよ。そうすれば、残り1分は補える」
「質問があります。メイヲールは、何処へ転移されるのですか?」
ようやく冷静を取り戻したグリンウェルが口を開いた。
「オイ、グリン! やる気なのか?」
「遅かれ早かれ、闘わなくてはイケナイ相手ですからね。勝てる見込みがあるのなら、それに賭けた方が……」
山羊の魔人メイヲールは闘いを好み、同族さえも狩り続けた。
しかし、度が過ぎて絶滅まで追い込んだ種族も数多く、カイル達が生まれる凡そ200年前、危機を感じたドラキュラ族は、500匹を越える部隊を構成し派遣したものの、一人として帰る者は居なかった。
そして、敵対しようと考える者さえ失ったのである。
このまま破壊を繰り返しても、楽しみが減ると考えたメイヲールは、破壊行動を年に一度一都市と決め、自分を狩りに来る勇者の出現を待っていた。
「転移はさせない。何故なら、星の外へ出したとしてもメイヲールが死ぬとは言い切れないからだ。つまりは、何処へも飛ばさず、奴をこの中に封じ込める」
「では、もう1つ。アルベルト……貴方が考える、今回の勝率は?」
「3割と言ったところだ」
「3割? もっとメンバーを増やした方が、確実じゃないのか?」
ウォレフの意見は、尤もだった。
ただでさえ、死を覚悟しなければならないのに、それが死ぬのが7割と聞けば尚更だった。
「否、増やせば返って警戒され、勝率は1割にも満たなくなるだろう。奴に勝つには、奴の油断こそが、最も必要なんだ」
「で? いつ殺るんだよ?」
ウォレフは諦め、溜め息混じりに、その期日を聞く。
「シミュレーションを充分に重ねた上で、実行に移りたいから……一週間後かな?」
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「行くぞ!」
カイルの掛け声と共に、4人はメイヲールを囲むように四方に分かれ、高速で飛び交いながら、メイヲールに対してヒット&アウェイを繰り返していった。
「ソレデハマルデ、蚊ト云ウヨリモ、蝿ダナ」
メイヲールは、そう表現した通りに欝陶しい蝿を払うかの如く、右手だけを軽く振り遊んでいた。
一方、カイル達の繰り出す攻撃は、当たってはいるものの、致命傷どころか、傷一つ付けられない。
カイルは、右手に妖気を集中させ、どんな生物でも鍛える事の出来ない、目へと狙いを定める。
しかし、流石にメイヲールもそれは許さず、左手でカイルを捕らえると、握り潰し始めた。
「兄さん!」
カイルの呻き声と、メイヲールの不気味に笑う声が重なり、異様な不協和音を奏でていた。
第18話「メイヲールの誤算」へ つづく




