第11話「遺産」
読んでくださる方に、合う作品であることを祈りつつ。
2018/03/28 加筆修正。
二年と言う歳月を語るには、一夜では短過ぎた。
まだ、話し足りなさを感じつつも、重い瞼に勝てなかったクレアは、話し相手の手を離すことなく眠り、鷹也もそれを追うように眠りについた。
翌日、良い匂いに誘われ、鷹也は目が覚める。
その美味しそうな香りの跡を辿って行けば、クレアの姿が在った。
「料理、出来るようになったんだな」
「もう18よ、これくらい出来るわよ」
「そっかー、もう18かぁー、大きくなる訳だ」
無意識に、クレアを爪先から顔まで眺めた。
「ちょっと、どこ見てんの?」
「い、いや、お、俺は背丈をだな……」
慌てて目を伏せた鷹也を見て、クレアは楽しそうに笑い、シューレットはそんな二人を微笑ましく感じながら「そろそろ、飯が食いたいんじゃが……」と言って、孫をからかうのだった。
そんな少し遅い昼食の最中、憲兵が訪ねて来た。
「王が道場にて、お待ちです。ご案内させていただきますので、ご準備が出来ましたら、お声を掛けてください」
そういって、外で待とうとする憲兵にクレアは「待っている間、ご一緒にコーヒーでも如何ですか?」と、憲兵を気遣った。
だが、憲兵は「ありがとうございます。しかし、勤務中になりますので、遠慮させていただきます」と断ると、一礼して扉を閉めた。
食卓に戻って来たクレアに「気遣いまで出来るようになったんだな」と、からかう鷹也。
そんな鷹也に「いつまでも、子供じゃありませんからね!」と言って、舌を出すクレアだった。
昼食を済ませた鷹也たちは、憲兵に案内され、直径50m程のドーム型施設にやって来た。
道場と呼ばれているその施設内部には、訓練の為の様々な仕掛けがなされており、中でも、低酸素や高気圧でのトレーニングなどが可能となっていた。
また、内部の床や壁面には、空気を調節することで、体に伝わる衝撃が変えられるエアマットが敷き詰められている。
その施設内の中心に、道着姿のウォレフが待って居た。
「研究所とは、また違った感じだな」
「この道場は、アルベルトが作った物ではないからな」
「ところで、稽古でもつけてくれるのか?」
「それもあるが……その前に、ちょっと気になってた事があってな、グリンウェルが来る前に……お前、何かしようとしただろ?」
「あぁ、あれか、未だ完成してないんだが……」
「未完成?」
「見れば分かるさ」
鷹也はそう言うと、ニヤリと笑って妖気を最大限まで解放し、ウォレフもそれに続く。
そして、幾度か組手を交わした後、それは始まった。
目の前に居る者が、次第にブレて二重に映り、最初は自分の目を疑ったウォレフだったが、その身体が完全に分かれた時、それが技である事に気づいた。
ウォレフの爪は、二人の鷹也を切り裂いたが、空を切るだけで、更に分裂を起こし四人へと分かれる。
ウォレフは、最後まで鷹也を捕らえる事が出来ないまま、一方的に攻撃を受け倒された。
「それの何処が、未完成なんだ!」
「父さん曰く、これは未だ第2段階なんだ」
この技には3段階まで在り、分身が出来るようになるまでを第1段階。
分身には妖気が無い為、本体が判らないように分身全てに妖気を感じさせるようになるまでを第2段階。
そして、瞬時に妖気を有と無を繰り返して、妖気の感じる者と感じない者を入り混じらせて、撹乱させるまでを第3段階としている。
「アルベルトが? そんな技、見た事ないぞ!」
「父さんには出来なかったみたいだな。俺もここまで来るのに、一年半も掛かったよ」
アルベルトは、科学の研究だけに留まらず、色々な分野の研究を残していた。
「ほとんど俺には、解らない物ばかりだったんだが、格闘の研究書だけは、なんとか理解できてね」
「そうだ! 忘れてた! ちょっと待ってろ!」
何かを思い出したかのように、ウォレフは慌てて道場を出て行き、それから30分が経った頃、白衣の老人を連れて戻って来た。
「この国の研究所で所長しているパドロだ。この道場もパドロが作ったんだぞ。コイツを連れて、アルベルトの研究所へ行け」
第12話「束の間の休息」へ つづく




