第9話「食事をはじめよう」
読んでくださる方に、合う作品であることを祈りつつ。
2018/03/27 加筆修正
物語の中に、残虐な文章があります。
気分を害されるかもしれませんので、ご注意ください。
「俺は、助けられたのかも知れない」
仇でもあったが、最後に残った親族でもあった。
敵対するその瞬間まで、カイルは優しい伯父に見えた。
あれが演じていたとは、今でも思えない。
矢張り……あの時、俺を呼んだのは、カイルだったのだろうか?
「口には出さなかったが、カイルはアルベルトを失って、悔いていたようだった」
ウォレフにとってカイルは、友の命を奪った仇ではあったが、そのカイルもまた友の一人だった。
「俺は今でも……お前の母を殺したのは、グリンウェルの入れ知恵じゃないかと思ってる」
「グリンウェル?」
「あぁ、今し方お前との闘いを見に来たドラキュラだ。奴には野心があり、策士だからな……」
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「カイル! 貴様!」
ウォレフは、カイルの姿を見るなり、飛び掛かる。
放たれた拳は、カイルに届く前に、横に居たグリンウェルに手首を捉まれ抑えられる。
「ウォレフ、謀叛でも起こす気か?」
「謀叛だと? じゃぁ、王のアルベルトを殺ったのは、謀叛じゃねーのか?」
「何を言っているんだ。アルベルトを殺したのは、人間じゃないか」
「お前……お前なのか?」
グリンウェルほどのヴァンパイアが、アルベルトとカイルが闘っていた妖気に、気付かない訳がない。
捉まれた手首を振り解き、怒りの赴くままに怒鳴った。
「グリンの入れ知恵にでも乗ったか、カイル!」
「何のことだ? 言い掛かりも、大概にしてもらおうか!」
「俺は、カイルに聞いてる! お前になど聞いていない!」
カイルは、何も答えないままに、その場を立ち去ろうとする。
「待て、カイル! 未だ、話は終わってねーぞ!」
ウォレフは、カイルの背を追おうとしたが、その前にグリンウェルが立ちはだかる。
「ウォレフ、アルベルトの葬儀に免じて、ここは見逃してやる。国へ帰れ!」
「テメーに、指図される覚えはねーな!」
ウォレフは、大きく呼吸して、戦闘体勢に入った。
それを見て、グリンウェルは鼻で笑う。
「ウォレフ、私は構わないが……アルベルト亡き今、イマジニアを守るのは、お前じゃないのか?」
――あとは、頼む。
脳裏にアルベルトの言葉が過る。
落ち着け、落ち着くんだ!
今やれば、間違いなく犬死だ。
喉を喰い千切ってやりたいが、ここは我慢だ!
ウォレフは、血が出る程に歯を喰いしばりながらも、何も言わず、その場を去るのだった。
そして、姿なきまま、アルベルトの葬儀が行われる。
それは、全てのヴァンパイアが集められ、更にはテレビ中継まで行う、異様な光景だった。
テレビから流れ出る歓声は、おぞましい狂喜で満ち溢れており、人々はミサイルを撃った人間を、軍を、政府を恨んだ。
カイルに代わって、喪主を務めるグリンウェルが壇上に立ち、全世界へメッセージを送る。
いつの時代も、人は愚かだ。
分を弁えず、
過信し、
慢心し、
傲慢で、
神にでも、成った気でいる。
己に、正義が無き故に、
神の名を騙って、
争いを起こす。
その欲は、
底がないほどに罪深く、醜い。
かつて、その欲を満たすため、
神の子を殺めた!
にも関わらず、にも関わらずである!
それを省みず!
そこから、学ぼうともせず!
再び、同じ過ちを犯した!
人に優しい手を差し伸べた、
我らの王にまで、
その非道なる汚れた手を伸ばした!
我が友、
我が同胞たちよ!
今こそ、
人間が我らの糧で在ることを
思い知らせようではないか!
兄弟たちよ、
何が、喰いたい?
喉越しがいい、赤い血か?
脂の乗った脇腹か?
とろけるような口当たりの脳か?
張りの良い、旨そうな女の太腿か?
乳飲み子のやわらかい尻の肉か?
骨の髄まで、しゃぶり尽くそうではないか!
さぁ、食事をはじめよう!
第10話「再会」へ つづく




