第5話「亡霊」
読んでくださる方に、合う作品であることを祈りつつ。
2018/03/26 加筆修正。
ラズウェルドは、肩で息をする程に消耗していた。
「ハァハァ……ドラキュラを舐めるなよ!」
再生能力のあるドラキュラに、多少の痛みを覚悟するような割り切った闘い方をされれば、如何なドラキュラハンターのエクリプスとて、苦戦は免れない。
本来、ドラキュラと言う種族は、特にプライドが高く、闘いにおいても美しさを求めている。
捨て身などの行為は、ドラキュラにとって、最も恥ずべき行為であった。
しかし、エクリプスは、ラズウェルドをそこまで追い込んでいたのである。
銀製の刃物で斬られた場合、ヴァンパイアはその傷口に火傷を負い、さらに再生速度が通常よりも遅れる。
如何に再生能力があるとは言え、痛みを伴わない訳ではないのだが、多くの傷口を抱えるも、闘いに集中していたラズウェルドは、それを感じてはいなかった。
「確かに貴様は、人としての限界は越えている。狩られるドラキュラが居ても頷けるほどにな。だがな、その程度では殺せぬヴァンパイアが、俺を入れて7人居る!」
所詮は人の体力だ、無尽蔵な訳ではあるまい!
消耗戦に持ち込めば、アンデットに負けはない!
ヤツは、いずれ疲れ果てる!
動きが落ちた時、その血、一滴残らず飲み干してやる!
「人のままでは、勝てんか……」
そう言うと、エクリプスは半身に構え、一気に力を解放する。
「な、なんだと! ば、馬鹿な……」
その妖気は、地球上の何処に居ても、まるで間近でサイレンを鳴らされたような巨大なものだった。
突然現れた自分を凌ぐ妖気に、驚いたレイリアは、兄のガーランドを呼ぶ。
「兄さん!」
ガーランドは、解っているとばかりに、無言で手を上げると、瞳を閉じてその妖気を探る。
何だ、この妖気は!
この方向……ラズウェルドか?
否、違うな……
ラズウェルドの気は感じる……
「チッ、カイルか!」
遠方の巨大な妖気に、ガーランドは嫌悪を感じていた。
以前より、増してやがる!
この異常事態は、ヴァンパイアだけでなく、人間界にも影響を与えた。
「ポイント、X2387・Y4928の地点で、大きな生体反応を確認! この大きさからすると……カ、カイルではないかと思われます!」
その名に、上官は驚きを隠せないでいた。
「カイルは、何者かに暗殺された筈ではなかったのか?」
「確かに2年前、カイルの生体反応は消えましたが、この大きさからするとカイル以外考え……否、まだ上昇しています!」
「か、カイル以上のヴァンパイアだというのか!」
「はい。今、妖気の上昇停止しました。最大V値は18740、カイルより2割増し程の大きさです」
「例えカイルでなくとも、人間の脅威になる事は、間違い無いようだな……」
すると、生体レーダーを眺めていたオペレーターが違和を感じて不思議そうに首を傾げる。
「どうした?」
「ら、ラズウェルドと……闘っているものと見られます」
「何? どういうことだ! 一体、何が居るんだ、此処に……」
ラズウェルドは、生まれて初めて、死の恐怖を味わっていた。
「なんなんだ、貴様は!」
その妖気に怯え、無我夢中で拳を振り回し、疲れがピークに達した時、ある事に気が付いた。
「ま、まさか! そ、そのローブ……き、貴様が、カイルを?」
「気付くのが、少し遅かったな」
エクリプスが間合いを詰めても、ラズウェルドは動く事が出来なくなる程に戦意を喪失していた。
余りの恐怖で、瞬きさえ許されなかった視線の先に、ラズウェルドは我が目を疑う。
フードから覗いた、エクリプスの顔は――。
「ア、アルベ……ルト……」
それが、ラズウェルドの最期の言葉だった。
第6話「狼と鷹」へ つづく




