第3話「流浪」
読んでくださる方に、合う作品であることを祈りつつ。
2018/02/05 修正しました。
二年と言う歳月は、守られているだけの可憐な少女を強い女性へ変えるには充分だった。
否、この人とヴァンパイアが混在する世界で旅するには、強く成らざるを得なかったのだろう。
まして、どちらの側に居るかさえ判らない者を探すには――。
鷹也がソルティドッグ(市民兵)に所属していたことを思い出したシューレット達は、その唯一の手掛かりを便りに鷹也の実家へと赴いたが、既に戦場の跡で復興作業により主不在の為、取り壊された後だった。
「この人を探してるんだけど、知ってる?」
「あぁ、知ってるとも! こりゃぁ、ヴァンパイアの王だ! でも、二十五年くらい前だっかたなー? 亡くなっちまったよ。生きてりゃ、この世界も平和だったろうに……」
「また、アルベルトかぁ………」
鷹也をアルベルトと呼ぶ人は多かった。
歴史書に写るその王は、確かに瓜二つで、間違えるのも無理はなかった。
藁をもすがる思いで、もしや記憶をなくしたアルベルトが鷹也ではないのか?と思ったクレア達は、アルベルトの妻である実家を捜し当てたものの、その家族もアルベルトが5つの都市を破壊したことにより、迫害され名を変え各地を点々とした後、この世を去っていた。
だが、未婚の姉に鷹也と言う名の子供が居たことまでが判明し、アルベルトは鷹也と言う線は消えたものの、それを最後に鷹也への道が再び閉ざされたのだった。
「何処に居るの?」
クレアは、写真の中にある愛しき者へ声を掛けたが、返ってくるのは変わらぬ笑顔だけだった。
そして今は、ヴァンパイアの統治でありながら、人と共存している国が在ると知ったクレア達は、鷹也がそこに居るのではないかと考え、その地へと向かうのだった。
山中の奥深くに、その城はあった。
人との交わりを嫌うその城の主は、好物である筈の人血ですら、火を通す程の人間嫌いで、目に入る範囲に人間を近付けさせることはなかった。
「ん? 人間の匂いがする……何をしておるんじゃ」
出来の悪い部下にイライラを募らせていた。一向に止まない不快な匂いに我慢出来なくなった主は、執事を呼び敷地内に迷い込んだ人間を排除するよう促した。
数分後、執事は異様な形相で帰ってきた。
「た、大変でございます!」
「何事じゃ」
「エ、エクリプスだと思われます!」
「何!?」
「我々が足止めする間に、閣下は……」
主は執事の言葉に激怒し、その続きを言わせなかった。
「人間如きに、このバルバドに下がれと?」
「閣下のお怒りは、御もっともでございますが…」
「黙れ!」
しかし、執事の言葉は既に遅く、次の言葉を発することは無かった。
主の怒号に耐えるのがやっとで、エクリプスの気配に気づかなかったのである。
呻くことさえ許されず、執事の首は、主まで続く赤い絨毯の上に転がった。
「後は、貴様だけだ」
「人間風情が!」
怒りと憎しみが込められた眼差しも臆せず、黒衣の男は、長剣を真一文字に抜きながら、こう言い放つ。
「我が名はエクリプス。月は満ちた……あとは欠け逝くのみ!」
読んでくれて、ありがとう。
次回「共存」




