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MoonLit  作者:
MoonLit
15/105

最終話「陽光の下で」

それでは、最終回です。

読んでくださる方に、合う作品であることを祈りつつ。


2018/02/04 大幅に修正しました。

「鷹也、君の生きたいように生きろ」


 その言葉を最後に、アルベルトのVTRは幕を閉じた。


「生きたいように……生きろ……か……」


 鷹也は、手の中に在る二つの薬を見つめながら、自分の行く末を考えていた――。



 雲一つ無い空には、真円を描いた月が浮かび、その光かりに照らされた城は、絵画のように美しく、まるで時が止まったように感じるほど、それは静かな夜だった。


 堂々と正面から入って来た侵入者に、カイルは驚くことも臆する事も無く、語り掛ける。


「そんなに殺気を出していては、不意は突けんぞ」


「どう足掻あがいても、アンタに不意が突けるとは思えなかったんでね」


 侵入者――鷹也は、そう答えた。


 知ってしまったか……。

 鷹也の殺気が意味する事が有るとすれば、それしかない。

 恐らく、何かの手段でアルベルトからのメッセージを受けたのだろう。


「最早、闘う意味を敢えて聞く必要は無さそうだが、私に勝てるつもりでいるのか?」


「やってみなきゃ……解らんさ」


 カイルと一定の距離を保ちながら、鷹也は円を描くように歩き出す。


「どうやって妖力を上げたかは知らんが、それでも、未だアルベルトにさえ及ばん。無論、私にもだ」


「闘う前に、聞いておきたい。何故、父さんを殺したんだ?」


 やはりな……。

 誤魔化す事は、出来そうにないか……。


「殺す気は無かった。ただ、私の考えの甘さが、アルベルトを死に至らしめた」


「考えの甘さ?」


「アルベルトには、王として足りない物があった」


「足りない物?」


「恐さだ。支配力と言ってもいい。アルベルトは優し過ぎた。お前の母を殺すことで、変わってくれると思ったんだがな……」


「随分くだらない理由だな」


「理想を求めただけに過ぎない」


「理想? 理想なんてもんは、テメェで求めるもんだろ?」


「言ってくれな。では、今度は私の質問に、答えて貰おうか?」


 カイルは一拍置いて、鷹也に問い掛ける。


「お前がこの闘いに勝ったなら、どちら側で生きるつもりだ?」


 闘う事だけを考えていた鷹也に、その先を考える余白は無かった。

 しかし、改めて考えてみても、その答えは見つける事が出来なかった。


「やはり、親の仇を討つ事だけしか考えて無いようだな」


「それの何が、いけない!」


「どちら側からも狙われる立場で、生き続けるのか? どうだ、ヴァンパイアの王に成っては?」


「お断りだ!」


 空気を切り裂く音よりも速く、カイル目掛けて突進する。


「ほぅ、スピードだけは、一人前のようだな」


 鷹也の拳が当たる寸前で、カイルは滑るように後ろへ下がると、再び、振り子のように間合いを詰め、鷹也を蹴り飛ばした。

 辛うじてブロックしたものの、数メートル飛ばされ、受け止めた両腕がしびれて痛む。


「闘いとは、戦術と戦略が物を言う。経験も無ければ、考える事も出来ないお前に勝ち目は無い! お前の父は、陽が在る内に、私に仕掛けて来たぞ!」


「そのローブが有れば、昼だろうが夜だろうが関係ねぇんだろ? 夜に仕掛けた方が、それなりの覚悟は出来る!」


 本来の考えは、少し違う。

 不死身のドラキュラとは言え、人間と同じように眠りにつく。

 日の出と共に就寝し、日の入りと共に起床する。

 就寝前に闘えば、いずれ疲労と睡魔によって、隙が生じると考えたからだ。

 また、就寝時に襲わなかったのは、セキュリティが万全で、それに無駄な体力を消耗したく無かったからである。


「少しは考えているようだが、結果は同じ事!」


 カイルは、鷹也目掛け低く滑空し、咄嗟とっさにブロックした鷹也をあざ笑うかのように手前でジャンプすると、合わせた両拳で後頭部を殴りつけた。

 その攻撃の威力は凄まじく、鷹也を反対の壁まで飛ばし衝突させると、その壁面に大きく穴を開けた。


「終わったか……」


 弟だけではなく、その息子まで殺めてしまった自分を呪いながら、カイルは亡骸を確認すべく、鷹也へと近づく。

 だが、崩れた壁を吹き飛ばして、その穴から、後頭部を抑えて、鷹也が戻ってきた。

 今の攻撃に、確かな手応てごたえを感じていただけに、カイルは鷹也の戦闘力を改め直す。


 死ぬどころか、気絶すらせんとはな。

 数日前とは、別物と考えるべきか。

 ん? 僅かだが……妖気が上昇している?

 スタミナを温存して、長期戦に持ち込む気なのか?


 鷹也は首を振り、改めてカイルと対峙する。


 さ~て、どうする?

 最初から判っていた事だが、こうも差が有るとはな……。


 鷹也は、カイルに向かって駆け出し、左ジャブから倒れこむような右フックを放ち、更にその流れから左回し蹴りが脇腹を狙う。

 だが、カイルはそれをギリギリでかわすと、伸びきった左の足首を左手で掴んで、引き寄せると同時に、右手に妖気を集中させる。

 カイルの発光した右腕が、ガラ空きとなった鷹也の背中へ襲い掛かる。


 これを喰らう訳には、行かない!


 その危機感は、鷹也の身体を勝手に動かした。

 カイルの攻撃に逆らわないように、前へ倒れながら向き直すと、伸びて来た右腕を左脇にはさんで、すかさず足を絡め、左の膝裏ひざうらでカイルの顔をロックし、そのまま倒れ込んだ。


「なんだ、この技は!」


「貴様らが二千年眠っている間に、人が生み出した技だ!」


 習っておいて、正解だったな。


 それは鷹也が、市民兵だった頃、サブミッションを得意とする仲間が居た。


「ヴァンパイアにも間接は在るし、有効だと思うんだ」


 エリックはそう言ったのだが、他の仲間からは「ゴリラ相手に、掛けるようなモンだろ? 自分から捕まりに行ってどうすんだよ」と、馬鹿にされ笑われていた。


「エリック、俺にサブミッションを教えてくれないか?」


「え? みんなが言うように、役に立たないかも知れないよ」


「ヴァンパイアが相手じゃない可能性だって、有るだろ?」


 混沌としたこの時代、人間が人間を襲う盗賊も多く存在していた事から、習う価値は有ると思ったのだ。


 まさか、ヴァンパイアになって、ヴァンパイアに掛けるとは思わなかったがな。


 鷹也は、余った右手でカイルの身体を掴み動きを封じていた為、極められていない左手では鷹也に届かず、体を捻って蹴る事さえも出来ないでいた。

 変形の十字固めによって、伸びきった右腕がきしみ、カイルの顔を歪ませる。

 だが、このまま大人しく極められているだけのカイルでは無かった。

 覚悟を決めたカイルは、無理矢理、右肩の関節を外し、体を振って可動域を広げると、大きく足を振って鷹也の頭を蹴ることで、ようやくそれから解放される。


 右肩をはめ、腕を抑え立ち上がるカイルに、鷹也は容赦なく、再び仕掛ける。


 アンデッドの回復は早い、ボヤボヤしてたら、一から遣り直しだ。


 向かって来た鷹也に対して、距離を取る為に出された左拳に力は無く、鷹也はそれを掻い潜って懐に入り込むと、左のそでを右手で掴み、左手親指を逆襟に差し込んで、担ぎながら足を跳ね上げ、回転するように投げた。

 だが、その投げはそれで留まらず、襟を掴んだ左腕の肘をカイルの首に当て、体重を乗せて肘から落とした。

 しものカイルも、これには息を詰まらせた。


 更に鷹也は、カイルの左腕を足で抑え、再び、右腕を極める。


「なめるなーッ!」


 そう叫んで、極められたまま翼を広げ急上昇すると、掴まれた腕ごと地面へ叩き付けるべく、急降下する。

 だが、地面に当たる寸前、鷹也は手を離すと、カイルの体を蹴って地面を転がり、難を逃れた。

 勢いは止まらないまま、カイルは地面を穿うがつ、それはまるで隕石が落ちたような穴を床に開けた。


 このまま、一気に畳み掛ける!


 大きく振りかぶった鷹也の右拳が、カイルの目の前で空を切った。


「そんな大振りが、当たると思うな……ん!?」


 殴った勢いそのままに、降り下ろした右拳を裏拳として降り上げられ、流れるような動作から、腰に隠し持っていた銃を左手で抜き放った。

 不意をついた攻撃であったものの、弾丸は右肩をかすめる程度に留まった。


 あくまで、右腕を狙うか!


 鷹也が更に攻撃を加えようとした、その瞬間、カイルは精神を統一し、妖気を一気に解放する。

 それは、目の前で爆発が起こったような印象さえ受けるものだった。


 い、今まで抑えていたのか!


 その圧倒的な妖気に気圧けおされ、鷹也は近づく事が出来ない。


 不味まずいな、テンション上げちまったか?


「今度は、私の番だ」


 カイルは一足飛びで鷹也に近づくと、左袖を掴み、右親指を逆襟に突っ込んだ。


「確か、こうだったな!」


 そう言って、仕掛けて来た投げは、先程の鷹也と同じ投げであったのだが、速度に圧倒的な違いが有った。

 鷹也は翼を広げ、空気抵抗を受ける事で速度を落としたが、それでも咽喉にダメージを受け、息が出来ない。

 技の流れで関節技を仕掛けられると思った鷹也は、苦しみながらも転がり離れた。

 だが、カイルはそれを追おうとはせず、


膠着こうちゃく状態は、好みでは無い。立て!」


 止めを刺さずに立たせる辺り、まだチャンスは有るな……、

 否、考え直す必要が在るのは、俺の方だ!


 此処へ来る前、人間のつもりで闘おうと決めていた。

 それは客観的に見て、自分とカイルの差は、人間とヴァンパイアほど有ったからだ。

 だが、ついヴァンパイアの力に頼って、振り回している自分に気付いた。

 それを人の技(投げや関節技)を使う事で、思い出したのだ。


 鷹也は、咽喉を抑え立ち上がると、現状を冷静に分析する。


 右腕は……もう使えるみたいだな。

 持って来た武器は……弾が後5発、仕込んだナイフ、あとは手榴弾2つか。


 一方、カイルの方も冷静になっていた。  


 まだ上がっている?

 なんだ、この不気味な変化は?


 鷹也の妖気は、少しずつではあるが、ゆっくりと妖気の最大値を上げていた。

 その上がり方から感じる印象は、スタミナ温存の為に押さえていたと言うよりも、


 秒刻みに、成長しているとでも言うのか?

 この数日で、何が在った?



 鷹也が気合いを入れる為、両手で頬を叩く、そしてそれは同時に、闘いを再開する合図となった。


 さぁ、仕切り直しだ。


 疾走する鷹也は、カイルの目前で左へと回り込み、巧みにフットワークを使って、左ジャブ、右ストレート、ローキック、回し蹴りなどなど、基礎から始めるように技を繰り出す。

 それはさながら、スパーリングのようだった。


 何か仕掛けてくると思ったが、何も始まらない……。

 時間稼ぎか?


 カイルの予測は、一つ当たっており、鷹也の狙いは時間稼ぎ。

 睡魔からくる、疲れや判断ミスを期待していた。

 だが、それに付き合ってくれるほど、カイルも愚かではない。


「どうした? 闘いの手解てほどきをすると言った覚えは無いのだがな」


「俺も、聞いた覚えは無いよ!」


 達人ってヤツは、攻撃を最小限でけようとする。

 カイル、アンタも同様に、俺の攻撃をミリ単位でかわしている。

 全く、大したモンだ、尊敬するよ。

 だがな、覚えた俺の射程範囲が、突然変わったら?

 どうかな!


 右手首に仕込んだ銀製のナイフが、手刀を僅かに越え飛び出した。

 眼を狙ったそれは、かすっただけにとどまり、鼻根びこんを傷つけた。

 傷口から血がこぼれ、微かに火傷の跡が残る。


 鷹也の攻撃を避けながら、カイルは攻撃を受けた理由を探した。


 指先が伸びたように見えなければ、完全に眼を遣られていたな。

 微かに熱さを感じる……銀製のナイフを隠し持っているのか?


 カイル、確かアンタは、戦術や戦略と言っていたな?

 つまりアンタは、闘っている間も、考えているんだろ?

 確かに、考える事は勝機へと繋がる大切な要因だ。

 だがな、考え過ぎる事は、返って勝機から逆行するぜ!


 鷹也は手を休めず、連続攻撃を繰り出す、そんな最中さなか、目の前にフワリと浮かぶ手榴弾。

 カイルは反射的に右手で、それをはじいた。

 手榴弾は、壁まで飛び、当たって床に落ちたのだが爆発しない。


「そいつは、オモチャだよ!」


 この手榴弾を弾いた不用意な一手が、隙を生み、鷹也の左拳が放ったボディブローが突き刺さる。

 カイルは、避けられないと判った上で敢えて受け、その代わりに渾身の左ストレート放とうとしていたのだが、鷹也の左拳には、右以上に飛び出した銀製のナイフが伸びていた。


「こっちにもか!」


 一瞬の判断が遅れた事で、カイルの左ストレートを難なくかわし、ローキックで足を止めさせた後、再び、手榴弾を投げ後ろへ転がる。


「同じ手が、何度も通じると思うなよ!」


 今まで、こんな攻撃を受けたことが無かったというのもあって忘れていたが、アルベルトのローブを着ている以上、手榴弾が本物であったとしても、ダメージを受けることが無い。

 それを思い出したカイルは、手榴弾を無視して、未だに立ち上がらない鷹也へ、踏み込んで蹴りに行く。

 だがその時、カイルの側頭部で、手榴弾は音をてて破裂し、煙幕が周辺を包み込んだ。


 鷹也は、止められず振られた蹴りを転がってかわすと、左手に在るナイフで心臓を狙う。

 カイルは、たまらず、後ろへ大きくジャンプし、鷹也との距離を取った。


 鷹也の射程を読めない以上、距離を取らざるを得ない。

 ほんの僅かだった筈の射程距離は、考え過ぎた事で、何センチにも何メートルにもなり始める。

 

 もしかしたら、足にも仕込んでるのではないか?

 もしかしたら、銃弾のように飛んでくるのではないか?

 自分が、もし相手の立場なら……


 そんな疑いが幻想を生み、徐々に現れ始めた睡魔も手伝って、カイルの思考を鈍らせ、判断の誤りを多く産み落とした。


 互いに警戒し、深く攻めいる事が出来ないまま、時間だけが過ぎて行った。

 そんな時、カイルに激しい睡魔が襲い、慌てて首を振ると、カーテンから零れる僅かな光を目にする。


 まもなく陽が登る、それまでにケリを付けなくては!


 だが、そんな闘いは、突然の終わりを告げる。

 カーテンの隙間から差した光が、鷹也の頬に当たり、軽い火傷を負わせたからである。


 そうか!

 薬は未完成だったのか!

 効果が切れ、本来の能力が出てきた訳だな。

 まさか、陽光が私の味方をするとはな。


「私の勝ちだ!」


 カイルには、アルベルトのローブがある。

 屋敷そのものを吹き飛ばせば、簡単に終わる。

 そう言われた鷹也は、不用意に飛び込んでしまい、カイルに背後へ回り込まれ首を締られるような形で捕まってしまった。


「陽光に脅えて焦ったよだな。お前の父ように、成層圏で灰にしてやる」


 もはや堅く締められた、その腕を外すことは不可能だった。

 太陽は地上から出たばかりで、鷹也を一気に灰にするほどの火力は無かった。

 つい先程まで闘っていた城が米粒ほどに見えた時、ジワジワと燃えゆく姿を見ながらカイルは言った。


「最後の言葉を聞いてやろう」


 その腕がゆるんだ、その時。


「ん!? 貴様、何を入れた」


「油断したなカイル。そいつを飲めば陽光を浴びれるぜ、ただし、人としてな!」


 鷹也は、この瞬間をずっと狙っていた。

 カイルに気づかれないように、カーテンを少し開き、陽が登るのを待っていた。

 陽光を浴びれないことを知れば、カイルが圧倒的に優位に立つことで、隙が生まれると考えたからだ。


 翼をなくしたカイルは、薬による変化の苦痛を浴びながら落下していった。




 月の明かりは 今日も私を照らし

 あなたのことを思い出させてくれる

 優しい光は あなたの目を

 柔らかな光は あなたの唇を

 暖かい光は あなたのぬくもりを

 もう一度 月明かりのような

 あなたの優しさに包まれて眠りたい

 もう一度 月明かりのような

 あなたに抱かれて眠りたい


 月の明かりは いつも私を照らし

 あなたのことを思い出させてくれる

 優しい光は あなたの顔を

 柔らかな光は あなたの手を

 暖かい光は あなたの微笑みを

 もう一度 月明かりのような

 あなたの優しさに包まれて眠りたい

 もう一度 月明かりのような

 あなたに抱かれて眠りたい




「こんなにも……暑かったのか……」


 暑い陽射しは、鷹也を徐々に燃やしていった。


おわり


まだ、エピローグと、あとがきを残しております。

よろしければ、読んであげて下さい。

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