第13話「選ばれし者」
読んでくださる方に、合う作品であることを祈りつつ。
2018/01/24 加筆修正を行いました。
キリストの封印が解けてから、出来る限り、血を飲まないようにしていた。
いつまでも血に縛られているようでは、我々(ヴァンパイア)に未来はないと考えたからだ。
血を飲まずに、どれくらい耐えられるのか?
血の代替品は、作れないものなのか?
研究に研究を重ね、ようやく辿り着いていた。
しかし今は、傷や疲労を回復する為……否、復讐の為に、飲まざるを得ない。
何人分の血を喉に通したかさえ判らないほどに、人を殺めてしまった。
たとえ、自分が勝利し、生き残ったとしても、再び人間と和平を築くことは出来ないだろう。
否、そもそも、勝てるのか?
兄に――。
「鷹也、君の生きたいように生きろ」
アルベルトは、息子へのメッセージを残こして、研究所を後にした。
次に向かった先は、帰りを待つ義姉と息子の下。
飛行すること6時間。
その間も、補給と言う名の吸血を行いながら、辿り着いた。
「アル! 無事だったの? 良かった!」
血塗れの自分を見ても怯えないどころか、優しく迎えてくれた義姉に感謝しながら、悲しい報告をした。
「すみません、お義姉さん。美咲を守ることが出来ませんでした。僕は……今から、美咲を殺した相手……兄と戦わなければなりません。ですから、鷹也のこと、よろしくお願いします」
人間世界で生きて行かねばならないであろう息子に、人として生きれる道を残して、再び翼を大きく広げる。
「アル! 生きて帰って来なさい、鷹也の為に!」
アルベルトは、ニッコリと微笑んで頷くと、再び、遠い空へと飛び発った。
力の差は、歴然だ。
不意を衝けるような相手でもない。
今から罠を仕掛けるには、時間が足りなさ過ぎる。
一分一秒過ぎる度に、警戒され僅かな勝率が下がってしまうのではないかと、気持ちだけが焦っていった。
アルベルトがカイルの城に着いたのは、陽射しが強い昼過ぎだった。
身内であることから、破壊しない限り、寝室の二つ手前の部屋まで、セキュリティは作動しない。
だが、その先は起こすか、破壊して気づかれるかの二択しかなく、迷っている暇もなかった。
アルベルトは、回復用に取っていた血を飲み干すと、意を決して、鋼鉄の門を押し開けた。
一歩踏み入る前に、怒りを抑え冷静を心掛けていたつもりが、冷静でなかった事に気づかされる。
広間の先に在る玉座には、カイルの姿が在った。
何故、こんな単純な事に気づかなかったんだ!
あれだけ人間世界を破壊し尽くしたんだ、カイルが関わった基地に向かったことは、妖気で明白じゃないか!
寄り道をしたとはいえ、ほぼ真っ直ぐ此処へ来ている。
間違いなく、僕が知っている事を想定している。
そんなアルベルトに、先にカイルが声を掛けた。
「無事だったようだな」
"無事"という単語が、アルベルトの導火線に火を点ける。
「な・に・が! 無事だったんだ?」
アルベルトの瞳は、真紅へと変わり、妖気は最大限まで上昇する。
「済まない、妻を亡くしたんだったな……」
「貴様の所為でな!」
言葉と同時に放たれた右拳が、カイルの左頬を狙う。
しかし、カイルは玉座から立ち上がろうともせず、左手でその拳を払い除けた。
「何故だ! 答えろカイル!」
「何をだ?」
「説明が必要か? 美咲が、僕のローブに悪戯をしてね。光に反応する溶液で、ある文字を書いたんだ。『あるべると』とな!」
日本語を知らないジェームズやカイルには、それが単なる模様にしか見えなかった。
「人との混血では、優れたヴァンパイアは生まれん……これで、いいか?」
アルベルトは、カイルの座る玉座を蹴り上げたが、カイルは宙を舞ってアルベルトの背後へ。
カイルが降り立つ前に裏拳を振ったが、カイルは滑るように後方へ下がり、それを避けた。
アルベルトは着ていたローブを投げ捨て、空間を切り裂くようなスピードで、カイルの周囲を交差する。
「遅かれ早かれ、人はヴァンパイアより先に死ぬ。人の女が良いのなら、他に幾らでも居るだろう?」
「ふざけるな!」
客観的に見ればアルベルトが、わざと攻撃を外したように感じさせるほど、動いた気配なくカイルは避けて見せた。
「止めろアルベルト! 幾らお前でも私には勝てん! 忘れたのか? 格闘を教えたのが誰かを!」
「黙れーッ!」
アルベルトは、左の手刀と見せかけギリギリでかわすカイルの髪を掴み、右手に隠し持っていた銀製のナイフでカイルの喉を狙ったが、カイルはアルベルトを蹴り上げ、僅かに頬を切り裂いただけに留まった。
「本気で殺したいようだな……仕方あるまい」
力量を考えれば、カイルの敵ではなかった。
アルベルトは、カイルの動き1つ捕らえること出来ないまま、カイルの足元に倒れることとなる。
カイルは、左手でアルベルトの胸倉を掴み釣るし上げると。
「終わりだ、アルベルト!」
カイルの右手が、アルベルト心臓を狙う。
しかし、アルベルトは拳が当たる瞬間、少しずらして、右の胸を貫かせた。
「肉を切らせて骨を断つ、人の文化に興味のない貴様でも、聞いたことはあるだろう?」
そう言うと、カイルを締め付けるように抱き、天井を突き破って光ある世界へ飛び出した。
「幾ら音速で飛べる貴様でも、成層圏を抜ければ、地上に戻る前に灰になる筈だ!」
「やめろ! ローブの無いお前も……」
「元より、生きて帰るつもりは無い!」
怒り、恨み、悲しみ、アルベルトが放つ感情は力を生み、カイルの翼を開くこと許さなかった。
二匹のコウモリは、山をそして雲をも越え、太陽へと近づいた。
アルベルトは、カイルを離し、羽撃くのを止め、星に引かれるままに落下していった。
「またをちかへり……君をし待たむ……」
全身が焼かれていく苦痛を感じないような微笑みを浮かべながら、アルベルトは灰になり、妻の居る場所へと召された。
「私も……灰になるのか……」
アルベルトが傘となって、カイルも遅れて灰になろうとしていた。
「ん!? アルベルト……神は、お前ではなく、私を選んだようだ」
カイルは、笑わずには居られなかった。
それは、一瞬にして太陽から光を奪い、地上を暗い世界へと変えていった。
"皆既日蝕"
それは、まさに「神に選ばれた」と呼べる現象だった。
読んでくださって、ありがとう。
次回、最終話「陽光の下で」




