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後日

砂の無い校庭に寝転がって、ぼんやりと空を見つめていると、視界に誰かの足がにゅっと二本入ってきた。


「元気そうで何よりや」

「下着見えますよ」

「大丈夫。見えへんように処理してるから」


部長の言葉通り、視界に入るスカートの中は真っ暗な闇に満たされていて、下着の色を確認することは出来そうになかった。


「ちょっと自意識過剰じゃないんですか」

「わいもそう思わんでもないけど、パパラッチは何処にいるか分からんからね。小さな事務所で芸能活動してる人間のつらいとこや。しかし、四条くんの力が過去までは書き換えられるとは知らんかったわ」


ボクは自分でも確認のために、だらり横たえていた右手で、自分の胸の辺りを確認してみた。ワイシャツにこそ穴が空いているものの、その原因であるはずのボクの身体には剣で刺し貫かれたかのような形跡は全く存在しなかった。


「いや、ボクの知る限り、物理的な過去改変は出来ないはずですよ。たぶん、あれです。”君はボクを傷つけることが出来ない”って言ったから、現在進行中の攻撃もそこに含まれたってことじゃないですか」

「相変わらず、判定甘々やね。君に敵対した人間はかわいそうやわ」

「相手の方はどうなってます?」


傷が無くなったからと言って、流れ込んできた恐怖の記憶までが無くなったわけではない。2人してそれぞれ逆方向に倒れこんだことは分かっていたが、立ち上がって様子を確認できるほどの気力はまだ湧かなかった。


「白目開けて気絶してるわ。目蓋がピクピク痙攣しとるところを見ると、意識下で四条くんの力に対抗しとるやろうけど、一度目が無理やったんや、二度目も無理やろね」

「そっちは任せても大丈夫ですか」

「それも仕事のうちや。どうせ今日は授業にならん。あちらさんが起きる前に、さっさと帰ってくれると、うちとしても楽やわ」

「──眞子は?」

「保健室で寝とる。火蛾ナハトファルタの影響を受けんほど深くな。出来れば、しばらく寝かせといた方がいいと思うで。どうもまた徹夜したみたいやから」


部長のアドバイスに頷きつつ、僕は一つの質問を口にした。嫌な予感しかしなかったが、確認しないことはしょうがないことというのはあるものだ。


「どうやったら起きるんですか?」

「そりゃ、スリーピングビューティを起こす方法って言うたら、一つしかあらへんよ」


ボクの周りにはろくな女がいない。心の底から楽しそうに笑っている部長を見ながら、そんなことを思った。


───

──


時刻は正午過ぎ。


ボクは保健室の丸イスに座り、持ってきていた『人狼戦線』に目を落としていた。


「そろそろいいか」


誰に言うでもなくそう呟くと、ボクは気持ち良さそうにベットで寝ている眞子の方に近づいた。


目を閉じて何も言わない眞子は、昔の眞子のようだった。そうボクが初めて出会ったとき、彼女は今のようなエキセントリックなキャラクターではなく、もっと物静かで言ってしまえば内気な少女だったのだ。


ボクは未練たらしい物思いを打ち払うように、自分の身体の一部を思い切って、眞子の身体の一部にぶつけた。


知っていたことだが、眞子の寝起きは恐ろしいほどに良い。


きっと寝ている間もずっと頭が動き続けているのだろう。何せ、焦点を合わせた瞳がボクの姿を捉えた瞬間には、その口から「帰るの?」という言葉が出るほどである。


こちらとしては説明が不要で楽ではあるが、頭がいいというのは難儀なことなのだなと思わなくもない。


ベットから降りた眞子はこちらに振り向くと、わざとらしく唇を尖らせた。


「寝ている乙女をデコピンで起こすのは感心しませんぞ」

「授業中に堂々と寝てる方がずっと問題だろ」

「まあね、わたしもね、そう思わなくもね、ないんですけどね」

「悪い」


こちらと会話を続けながら、保健室の机の一つに雑多に広げられた道具類をカバンに仕舞っていた眞子の頭をボクはわしゃわしゃと撫でた。


「みっくん、女の子は髪のセットに朝の全てを賭けてるんだよ?」

「いや、さっきまで寝てたせいで既に後ろの辺りけっこうクセついてたぞ」

「マジで」

「座れよ、ボクが直してやるから」


保健室はお湯が出るのでこういうとき便利である。眞子から借りたタオルをお湯に浸して、その熱で後ろ髪についた寝癖を取ると、これまた借りた櫛とワックスで髪型をセットしていく。


昔は床屋さんゴッコなどもした仲であるし、近頃では毎日のようにビフォーアフターを眺めてもいる。話し合ったことはなくても何となく眞子のヘアスタイルの好みは把握していた。


「どうだ?」


丸椅子に座ったまま、保健室に備え付けられた姿見の前に滑るように移動すると、眞子は己の姿を縦横無尽に確認し、またこちらに戻ってきた。


「予想外に完成度高かったけど、ちょっとエアリー感が過剰かな。ほら、眞子さん、コケテイッシュな雰囲気で押してるから」

「そうか、そっちの方が可愛いかなと思ったんだけど。余計なお世話だったな」


やはり、こういうのは自分の手でやるべきなのだろう。自分の驕りを反省しつつ櫛とワックスを返すと、眞子は何故か自分で手直しせずに、それらをカバンの中に仕舞ってしまった。


「直さなくていいのか」

「ほら?せっかくのみっくんの力作を崩しちゃうのも悪いし?」

「別に、そんなに時間かけてないから気にしなくていいぞ」


せっかくの気遣いにも関わらず、眞子はこちらをジトりとした目で睨みつけてきた。


「みっくんさ、女の子にモテないでしょ」

「そりゃ、モテるモテない以前に、話す相手が部長かお前ぐらいしかいないからな」

「ほほう、喋ればモテると言わんばかりの口ぶりでございますな」


ボクは保健室の窓からいつの間にか砂が戻っている校庭の様子を眺めた。


「ボクにだって夢を見る権利くらいあるだろ」


肩に柔らかな感触があった。視線を戻すと、丸イスの上に危うげに立った眞子がボクの肩を一度、二度と叩いてくれた。


返礼に親指を立て他の指を握り締める有名なハンドサインを示すと、眞子もすぐさま返してくる。


軽すぎず重すぎず、このバランス感覚がボクのような身には大切なのだ。こういうとき長い付き合いというのはありがたいものである。


「帰るか」

「だね」


こうして、ボクは身に馴染んだ日常の中へと復帰したのだった。(とそのときのボクは思っていた。)


───

──


翌日。


教室に入ったボクは、クラスメイトが妙にざわついていることに気がついた。


とは言っても、その理由を確認できるような友人は教室の中には存在しない。


ボクは毎度おなじみのゴミゴミしい机の上を軽く払うと、昨日と同じく情報収集も兼ねて寝たフリとしゃれ込むことにした。


その結果は、悪夢だった。あるいはデジャブだったと言うべきだろうか。


思わずボクはオカルト部の部室に向かおうとしたが、あるいは偶然という可能性もある。まんじりともせずにボクは目の前の2人が何か話しかけてくるのも無視して、じっと前方を注視し続けた。


ガラりと前方の扉が開いて、坂上教諭がやってきて、昨日聞いたのとほぼ同じ応酬があった。


そして、当然のように彼女は教室の中に入ってきたのだった。


「どうも初めまして、エルナ・アーレントです」


黒髪黒目の彼女の人好きのする笑みと共に、ボクの日常は本当の意味で終わりを告げたのだった。







もうちょっとスマートな構成に出来なかったのかという反省することしきり。

何とか一人目の登場を終えたので、続いて二人目の金髪ツインテールを出しつつ、一人目をデレさせる感じでいきたいですね。

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