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百奇夜行で鬼天烈な。  作者: 留龍隆
粛生の理編
35/38

三十五題目 「自分らしく自分になる」と司は決める

        #


 長い黒髪を振り乱し、ワイシャツにロングスカートという簡素な出で立ちをしている丙は、素足で床を踏みしめ近づいてくる。だらりと力なく下がっていた手が髪をかきあげると、白く濁った両目と、顔を横断する蚯蚓腫れのような火傷の痕。

 輪郭に沿って喉元に落ち、襟元から胸まで達した傷跡が、はかなげな容姿に対する印象を一変させるほどの怖気を、司たちの中から引き出す。


「じいちゃん」


 近寄れば、紅蓮の炎は消え去っていたが。膝裏から下が焼けて、ボトムスは燃え尽き、ところどころ肌にこびりついて残る程度だった。苦痛に身悶えしてのたうちまわる喜一は、痛みに耐えかねて舌を噛まぬようにか、自らの右腕にかじりついていた。


「う、ヴっ、ううううう」

「じいちゃん!」


 祖父の元へ駆け寄ろうとした、次の一瞬で、小野と目があった。小野はわずか、申し訳なさそうに目を伏せると――司が手にしていた小刀を奪い取ると、低く構えて丙へと向かっていった。


「丙……水子!」


 逡巡の合間に、小野の目は憎悪に満ちた、復讐する者の瞳へと変貌していたのを、司は見た。

 七無によって操られての凶行であったとはいえ、丙は、小野の母を殺し。いままた、司の祖父までも手にかけようとした。この事実が司の感情を揺らし、小野を止めるべきか否かという選択肢を脳内に浮かべるまでの時間を、少しだけ伸ばす。

 結果、小野も丙に飛びかかる寸前で、身体を横から突き飛ばされる。形なき力、犬神の力が、小野に激突しているのがなんとかみえた。吹き飛び、小野はこらえたが、丙が歪みの向こうに消えようとするのを見て、姿勢を変えた。


「だれが――逃がすと!」


 そして、また、小野も歪みに落ちる。


「あ、あ」


 ぶつかった衝撃で取り落としたか、小刀が空を舞っている。金属の残響がちゃりん、と残り、場に残る音は再び喜一の苦悶の叫びのみとなる。


「……やれやれ、あまり勝手な動きをしないでいただきたいね。きみたちを傷つけるわけには、いかないのですから」

「おまえ……お前が、丙を操ってるのか」

「いいえ? 彼女を操っているのは七無さんですよ。さて。さて。では負傷したその人を、どうしますかね?」


 にこやかに選択を迫り、犬神をけしかけんとしていることがうかがえる汀。司はだいぶ遅れて、言葉の意図に気付く。つまりは、喜一を見捨てられない以上、司は頭を垂れて許しを乞う他ないという事実。

 動けなくすることで逃亡を妨げ、人質とする。性根が腐っているとしか思えない策に、司は唇を噛んだ。喜一はだらだらと脂汗を流し、血液とも溶けた脂肪ともつかない液体が、傷口から膿のように流れ出ている。痛む箇所を押さえることもままならないで、それでも、彼は懐に手を差し入れた。


「……う、うっ……く、お、お、おお」

「大した精神力だ。普通ならば、痛みに耐えかねて気絶しているでしょう」

「……お、老いぼれ、が、若人の、足を……引っ張れるかよぉ」

「老いも若きも命は命、足を引っ張るだの考えず、いま己が生きることを精いっぱい考える方がよろしいと思いますがね」

「……老い先、ってェ、もん……が、あんだろ。年寄りが、先に行く。道理だ」

「だれだっていつだって次の瞬間に死ぬとも生きるともわかりませんよ」

「それ、が……若ェってんだ、よ」


 五色の紙片を重ね五角に切り整えられ、秘文と符形が墨で描かれた薄い札をとり出し、喜一は己の口に入れて呑み下した。


「……呪禁にて身去らせ、〝治遍身疼痛御秘符〟……」


 動きを目にした汀は不審に思ったのか、犬神に指示するように手を掲げかけたが、もう遅かった。司が慌てて拾い上げ手にした小刀を振るうと、犬神は臆したように引いた。その隙に、喜一が立ち上がる。もう修復不可能なほど傷ついた脚で、たしかに立ちあがる。有り得ない現実に常の世界の常識が消失したと知ったか、


「護符を呑んだのですか……!」


 と汀はつぶやいた。言葉を返す間もなく、


「……へ。いくぞ、司。小野の嬢ちゃんを、止めにゃ」


 なおも汗は引かぬままに、喜一は走った。司が後ろについて、一気に距離を空ける。けれど、ホールの出入り口も歪みは塞いでいる。通り抜けようにもそんな隙間はなく、そしてちょうど歪みの向こうに、司は踊場の気配を感じていた。


「司くん!」


 歪みがみえていない踊場の声が近づく。


「ダメよ踊場サン、近づく危ない!」


 サワハが声をかけ、声の接近が止まる。

 歪みの向こう、かすかに二人の顔が見えた。喜一は走るのをやめない。振り向きもしない祖父の背中だが、やはりか、と彼の考えに勘付く。喜一は、このまま梁渾へ逃げる気なのだ。踏み込みに司は力を入れた。――背後に、危険な気配が迫っている。できるなら、こいつごと。考えて、次の瞬間には実行した。

振り返って、突進してきた犬神を、己の腹で受け止める。


「ぐっ」


 開く口。食らいつく牙。そこへ、拳をねじ込む。拳が握るのは、小刀。つっかい棒のごとく差し込まれた刃は、犬神の上顎を貫いた。痛みがあるのか知らないが、犬神は瞬時に口を開けて刃から逃れようとした。けれど、衝突のエネルギーはまだ消えていない。もんどりうって、背中から、司は歪みへ。

 また肩越しに振り向いて、のぞいた二人の顔へ、無理に笑いかけて、司は歪みに落ちる。


「――会長を、おねがい」


 景色が、一変した。


        #


「ここは」


 周囲を、背後をかえりみる小野は、降り立った場所を確認しようとしていた。

 前回落ちてきた場所とは、またちがうらしい。似た雰囲気の森ではあるが、どことなく空気の質がちがう。少し空気が薄くなっているような、つかみどころのない異質さがあった。

 歩いてみると、すぐに息苦しさが募る。本当に空気が薄いのではないだろうか、とあたりを見回して、いやちがうとかぶりを振る。見回すのでなく、み回す。

 周囲に満ちた負の気、死霊の穢れは、昨日司と共に神代たちをみた時よりも、格段に濃度が高かった。瞳にずきりと痛みが埋め込まれ、じんじんと脳髄まで侵す。

 いやな能力に目覚めてしまった、という思いと、この眼さえあれば丙を追い詰められる、という期待が、ないまぜになって小野の心中に降り積もっていった。どちらの思いが強いか、わからないほどに。

 すべて終わればわかるはずだ。特に理由はないが、小野の中にはそんな確信があった。


 やがて――痛みに慣れ、眼に力を入れなければ大丈夫だと判断できたころ。小野は静かに歩みを再開し、ひとまず丙を探すこととした。残念ながら司の小刀は落としてきてしまったし、小野の眼は司のように魂を取り出して引き裂くような真似はできないが。それでも見つけなければと思っていた。

 普段は頭の中で比較的冷静な処理をする部分が、復讐を処理する部分に感化されて、「他にやることがないのだから、そうすることは合理的だ」と己を納得させにかかっていることも、自覚していた。いつものことだった。


「この数年、ずっとそうやって生きてきた」


 言い聞かせて、戻れるわけでもないのに、上を見る。なんとなく、通り抜けるときの感覚として「歪みに落ちる」と言っていたわけだが、本当にここはどこにあるのだろう、と思いつつ。地獄の近くではないだろう、宗教がちがう、と考えた。

 少し歩くと、もう見たことのある場所だった。司と通った、梁渾唯一の町並だ。変わらず人気がなく、けれど警戒を怠らずに、進む。物陰に身を潜め、他者の視線を気にして、途中で拾った手頃な角材を、振り下ろせる体勢のまま歩いた。

 なにも、音がしない。風が吹く音と、葉のざわめく音の他には。普通に考えたらまず有り得ない静寂の中、異常の中に己が沈み込んでいく感覚、次第に心臓をじわじわとつかまれていくような錯覚に、とらわれた。


「……ふー」


 近くにあった古めかしいアパートのような建物に滑り込み、ひと息つく。建物の中は少しだけ、外よりも穢れの度合いはマシだった。痛む眼をまぶたの上から掌で押さえ、見回す。

 不用心にも鍵さえかけられていなかった部屋は、先ほどめぐった慈雨の連中のホテルとはちがい、まったく生活の気配がなかった。最低限の、モデルルームじみた家具は一揃え置いてあったが、誰かが生活していたにおいはない。箱庭というか、意図して配置された人形の家のような。

 奥まで歩いて、2LDKの内装を確認し、人が隠れるスペースになりそうな場所は、角材でつついてすべて確認した。風呂場の点検まで終えて、床に積もった埃が、他に人の居ないことを示していたと気づき、溜め息をついて座りこむ。

 丙を追う術は、あるのだろうか。


「策の通りであるなら、司さんたちが来るのでしょうが……喜一さんが、あの怪我では」


 それを見捨ててまで、自分は丙を追ったんだろう? 心中にもたげた自責の念に、しかしまた頭の冷静な部分が応じる。「その他に、あの場でなにができた?」だが小野は自分で自分の心根を知ってしまっていた。

「あの場でなにができた?」その言葉を自らのうちから汲み上げるためにこそ、小野は走り出す直前に、司を見たのだと。喜一を気遣う気持ちはあるのだと、主張するためだったと。


「打算」


 計算。嫌われないように、それでいて己が成したいことのための行動は、少しも我慢しない。どこまでも自己中心的に振る舞いつつ、他者への思いやりも失くしていない、ように振る舞う(、、、、、、、)。舌打ちして、床を殴りつける。

 また傷つけた。司の、自分を優先してくれるという言葉につけこんで、小野は我を通した。


「ふ、」


 込み上げた一音は、涙の前触れか自嘲の笑みか。どちらにせよ、自分への言い訳として表す感情に過ぎないと、小野は判じていた。だからその先の感情は封じた。

 ……進めないのだ。

 あの日、丙に対する恨みを抱いた日から。小野の感情は、態度は、人格は。すべて丙への復讐に費やす〝小野香魚香〟というパーソナルを形作るために自ら生み出した、仮面に過ぎないのではと疑ってしまった日から。いま表面に出している自分が本当の自分か、打算によって生み出した人格なのか、わからない。だから、知り合い以外と接するのが苦手だった。どんな態度が有効なのか、判断しづらいから。

 進めないのだ。

 感情を前に、進められない。復讐を完遂するまでは、自己を取り戻せないような、そんな気がしはじめていた。だから戸惑う。恐れる。

 司の思いに、応えられないのではないかと感じて。


「わたしは――」


 なんだ?

 という言葉を、すんでのところで思いとどまる。たとえ、これが自分で自分を騙し続けた末に表出したものだとしても、司は許し、受け入れ、求めてくれたのだから。免罪符にはならずとも、存在していい理由には、なるのだろうから。

 すべて終われば。もう丙にとらわれず、生きられるのだから。


「……よし」


 そうなれば、まずは今後の動きを考えなくてはならない。丙を探し、討ち滅ぼすとしても、一人ではどうにもならない。ここは、帰還のための歪みを探しつつ、司たちを探すことにした。


「どこへ行くのだ、娘」


 立ち上がるために要したわずかな、ほんのわずかな隙に、問いかけが差し込まれた。驚きに絶句、絶息しかけ、顔をあげざまに回し蹴りを見舞った小野からギリギリ届かない間合いに、男が立ち尽くしていた。

 目を合わせることが辛く思える、猛々しい顔つき。皺で上下を挟まれた眼光は鋭く、険しい。白い頭髪と短い顎髭は、削り上げられた獣の体毛を思わせた。鷲鼻の下で唇はきつく引き結ばれ、肩幅の広い体躯を灰色のスリーピースで包んだ男は、以前に会ったときと変わらぬ威圧感で小野に接した。


「……平坂、さん」

「再びまみえるときが来たな。この危険な時期に、とは思っていなかったが……よくよく難事に巻き込まれる奴よ。また、歪みに落ちたか」

「いえ、まあ、大方合ってはいるのですが……なんといいますか、厄介なこととなっておりまして」

「助けを請うておるつもりか」


 睨み下げ、平坂は小野の返事を待つ。重たいプレッシャーを常にかけてくることを除けば、平坂は先まわりして小野の言葉を汲んでくれる、とても親切な人物だった。また厚意に甘えることになるのを予感しながらも、正直に小野はうなずく。

 平坂は二、三瞬の躊躇を見せたが、部屋の中を見渡してから、テーブル脇の椅子を引き寄せて小野を座らせ、承諾ととれる溜め息を呑んだ。


「これで最後だぞ。儂もここの危うさには気づいておる、しばらく訪れることはあるまい。つまり、またここへ来るようなことがあれば、お前を助ける者はおらんということ、よくよく理解しておくのだな」

「肝に銘じておきます」

「言うだけならなんとでもなる。次はないと、しかと覚えておけばそれでいい」


 言葉より行動で示すがいい、と口にして、平坂は小野の眼をのぞきこんだ。あまり間近で見るので、どうにも居心地が悪い。


「平坂さんは、なぜここにいるんですか?」

「儂の滞在する理由か」

「ええ、だって、いまさっきここは危険だと自分で仰ったではないですか」


 ふむ、とつぶやきを漏らして、平坂はのぞきこんでいた小野の眼の前に、己の掌をかざした。


「その眼は、歪みを捉えること適うようになったのか?」

「はい、おかげさまで。あの後、友達とも合流できまして、なんとか谷峰からは離れました」

「左様か。儂も、歪みをある程度感ずる力を持っておる。しかし……本来そう頻繁にみえるはずのない歪みが増え、負の気がとみに減り続けておる。原因があるとすればここであろうと思い、調べに来た次第だ」

「そうだったんですか。平坂さんは……その、そうした機関などにお勤めで?」

「機関、統合協会か」

「そんな名前だとうかがいました」

「まあそんなところだ」


 ではそこで母と知りあったのだろうか、などと考えて、睨むように室内に首をめぐらす平坂の横顔を見る。雰囲気は、どこかで覚えがあるのだけれど。どうにも、記憶の中で出遭うことは、できないようだった。


「いまやここも穢れが荒れ狂い、霊のひとつも居はしない、か」


 窓の外を視ている平坂は、小野に言う。視線の先を追って、なにもいないことを知った小野は、加良部も彼岸へ消えてしまったのだろうか、などと考えた。平坂が視線をこちらへ戻す。


「して、娘よ。歪み捉えることが適うのであれば、さっさと見つけて此岸しがんへ戻ればよかろう。なにゆえそうしない」

「ああそれは……少々お話しにくいことなのですが、」

「助力を請うた相手に事情も話さんつもりか」

「いえそういうわけでは。単に、長くなってしまうので、端折るのが難しいということです」

「ならば経緯は要らぬ。お前がなにを求めているか、要点のみを話すがいい」

「難しいです。動機があってこそ、事情が生まれているわけですし」

「ふん。小野山女魚は、論ずることも不得手ではなかったが。娘には遺伝せず、か」

「その母についてのことが、わたしを突き動かしているんです」


 知らず、声の調子が落ちる。母の死の瞬間が、脳内にまざまざとよみがえる。二目と見られぬほどに焼けた身体で、懸命に生きようと足掻いて、そして潰えた命の在り方。右腕に残る母の遺した呪いを握りしめて、身を震わせる。それは恐怖によるものか、武者震いか。


「……復讐か」


 丙の正体を知っていたことからも、おそらくは死の要因を知っているのであろう平坂は、一言に込められた小野の思いから推測してか、的確に望みを言い当てた。目を伏せ、うなずきで応じた小野は、椅子に腰かけたまま背筋を正した。そこに腰を屈めて目の高さを合わせ、平坂は続けた。


「小野山女魚から受けた恩義があるとはいえ、ただの復讐など付き合う気にはなれぬ」

「ええ、そうでしょう。他人からすれば、〝ただの〟復讐なのでしょうね」


 けれど小野にとってはまさしくすべてだった。これまでの自分を一変させてしまうだけの、自分を見失わせてしまうだけの、熱量をともなう出来ごと。その後の人生をこうまで変質させてしまったことを思えば、大きすぎる呪いだという他に言葉が見つからない。以前司は、思うだけで呪いになると言ったが――思わずとも起こした動きが、他者の呪縛となることもある。

 そして呪縛から生まれた思いが呪いとなり、呪い呪われ殺し殺され。罪重なっていく世界が、産声をあげるのだろう。握った左手に目を落としながら、小野は思った。


「ですから、結構です。お仕事の途中だったのでしょうし、わたしを捨て置いても」

「だめだな。淨眼を持つとはいえ、一般人を捨て置くなどこちらの人間としては恥ずべき愚行よ。置いてはいけぬ」

「けれどわたしの復讐なんて、」

「己が思いを卑下するな」


 上体を起こした平坂は、腕組みして小野の言葉をいさめた。


「自嘲するな。嘲りから生まれるものはなにもない。切り替えに繋がるだけに、復讐のほうがまだしもというものよ。……さらに言うならば、恩義を受けた、その相手を殺した者への復讐であるのなら。この儂も、手を貸さんわけにいくまい」


 懐に手を差し入れた平坂は、数枚の札を取り出した。


「丙の討滅に、助力しよう」


        #


 景色は、前に見たことのある場所であった。すり鉢状に崖がえぐれた、梁渾唯一の町並からほど近い場所だ。


「……っと、現状確認の、前にっ」


 見る。視る。みる。

 食らいつこうとしていた犬神の魂を、捉えて、手の内に握りこむ。身の内から引きずりだすと、あふれ出る黒き穢れを直視することとなってしまい、全身に負担を分散させる術が解けているいまは、眼球への負担が大きい。

 ぎりぎりと、こめかみに万力がかけられているようだった。それでも我慢して魂を引きだし、人魚同様に小刀で、断ち切る。この世との結びをほどかれた犬神は、咆哮ひとつを残して、雲散霧消した。彼岸に近いこの場所だ、すぐにその存在は向こうに飛ばされただろう。


「で、あとは……じいちゃんと合流しなきゃ」


 大やけどを負ったままの祖父。なんらかの術を仕込んだ札を呑みこんで、走れるまでにはなっていたものの。見た目に治っていなかったところから察するに、あれも司の眼のように負担を分散させる能力か、痛覚を麻痺させる程度のもので、根本的な解決にはなっていないと判断できた。早く、見つけて、小野・廉太郎ともども歪みを抜けることが必要だと思われた。


「踊場さんと会長とサワハさんは、置いてくることになっちゃったけど」


 目先の脅威である犬神と丙はあの場から排除したので、それなりの武装で固めている踊場がいれば、術が行使できることの他は常人であろう汀に遅れをとることもあるまい。判断して、信じて、司は己の成すべきを成すため動き出す。ひとまず小刀は右手に握ったままに、崖を迂回して下り始めた。

 ところが下った先では、薄い霧が立ち込めはじめていた。やや立ち止まって、そののちに坂を引き返すと、どうやら坂の中腹辺りが霧の境界線となっているらしかった。薄くとも、視界に影響を与えるものがあるのは面倒である。特に司の場合は眼だけが頼みの綱であるので、不意打ちをくらいかねない霧の中というのはいただけない。

 結局すぐに元のところまで戻り、また崖下を眺めることとなった。町の方も霧に包まれ始めていて、厄介なことになったと頭を掻くことしきりだ。


「弱るな」


 つぶやきが虚空にのまれ、無力感が湧きおこってくる。いっそ無我夢中に霧を突っ切って進もうかとさえ考えたが、無謀が良い目を出す可能性は、こんなところまでついてきてくれてるとも思えなかった。

 探せる場所を探そう。結論としてはそこへ行き着き、司は最初に降り立った位置から周辺を探し始める。慎重に、見つけることよりは見つからないことに意識を集中させながら、小刀だけは振るうことができるように柔らかく握って、構えておいた。

 同じ歪みに落ちたというのに、喜一はそれほど離れた位置に落ちたのだろうか。時間が経てば経つほど、焦りが心中を掻きむしる。小野を探しに行きたい気持ちもあるせいで、集中力も二方向に別れがちで、自分でもどうかと思うほどに危なっかしい歩みである。


 だから、廉太郎の方から声をかけられたのも必然だった。


「司。無事か」

「廉太郎さん」


 そちらは大丈夫だろう、と人気の無さから意識の外にしていた方向より声をかけられ、飛びあがりそうな足を押さえこみながら振り向いた。

 廉太郎は一見して無事そうに見え、安堵と共に司は駆けよった。が、少し躊躇した。


「左腕、噛みつかれてなかったっけ」

「ん? ああ、そのへんで摘んだヨモギをつけて、ハンカチ巻いて止血した。……なんだよ、霧ン中から出てきたから、偽物だとでも思ったか?」

「だって。マルドメ、って呼ばないし」

「んなふざけてる場合でもねぇだろ。なんなら一問一答で本人か確かめてみろよ」

「いや、うーん……あ、じゃあ眼鏡貸して」


 眼鏡を手に取り、司はフレームを留めるねじを指差した。あいよ、と廉太郎は意図を察してくれて、見つめるだけでねじを外してみせた。


「能力名は」

回天竺オートジャイロ

「うん、これならまず本物だよね」

「じゃあ訊き返すぜ。俺命名のお前の能力名は?」

「忘れた」


 ひでぇなお前、と頭をはたきながら、廉太郎が先を歩きはじめた。森の奥の方は、まだ霧が立ち込めている。ルートは、湿気を避けて選ばれた。


「で、お前がこっちいるってことは、あれか。汀の野郎に落とされた感じか」

「ううん。あのあと、廉太郎さんがやられた犬神と戦うことになってさ。おまけにそこへ丙まで現れたもんだから、小野が追いかけて自分から歪みに落ちちゃって……」

「ああ? ったくあいつは……仕方ねぇことだけどよ。んじゃお前らは、丙追いかける小野を追いかけてきたってわけか」

「そんなとこ。しかも、じいちゃんが、丙に足を焼かれた」

「……マジか」

「嘘言ってどうなるのさ」


 責めるような語調になってしまったのは、致し方ない。廉太郎もそう考えたか、しばらく口をつぐんでから、ただひとこと探さなきゃな、と言った。司はうなずきで答えて、先を歩く廉太郎は振り向かなかったが、気配で察してくれたらしい。代わりの話題を出してくれた。


「小野は、丙を追いかけてったって言ったがよ。追いついたとして、その、丙を殺すことは、できんのか」

「……難しいとは思うけど、できる。霊的な力では、あの焔が危険すぎて勝ちの目はほとんどないよ。でも丙は、霊じゃない。廉太郎さんたちでも見ることがかなう、いちおう生きてる人間だから」


 その身を水子の霊にとり憑かれ、自我を失っているだけで。

 ただの人間なのだから、それこそ小野が包丁を手にとって不意打ちで胸に突き立てれば、それだけで死んでしまう。もっとも、視認するだけで焔を発生させる丙に近付くこと自体が難事であるため、まずその可能性はないだろうが。


「いまの小野の眼なら、気の痕跡を追って丙の位置も探せるだろうし。可能性は、零とはいえない」

「そうか。あー、やっぱそうなるのか」


 せわしなく頭を掻いて、廉太郎の足取りは重くなる。落ち葉に踏み込む足の緩みに気づいた司は、彼の横に並んで歩いて、顔色をうかがった。


「殺させたくねぇなあ」

「そりゃあね」

「あいつの手を汚させるなんて、耐えられんぜ」


 言って、気持ちにけりをつけたのか、また廉太郎の歩幅は広くなった。すたすたと、滞りなく進んでいく。

 一度これと決めたら、即座に曲がらずまっすぐ進み始めて、止まらない。踊場の言っていた廉太郎の性格は、この四カ月ほどでだいぶ司も理解できていたが。実際に見てとると、どうにも反応に困る。迷いない人間を見ていると、迂回ばかりの自分が少し、嫌になる。

 黙って、歩幅を縮め、二歩後ろを歩くようにした。


「なあ司」


 話しかけられ、藪を掻きわけ進む廉太郎の膝裏あたりを見ながら、司はぶっきらぼうに答える。


「なに」

「そんなに、小野のこと好きか」

「は?」

「べつに、いまさら訊くことでもねぇかとは思ったが。なんとなく、な」


 そこまで露骨に態度に表れていたのだろうか、と掌で頬を撫でる。隠しきれるほど演技派のつもりはなかったが、気づかれるほどあからさまなつもりは、なかったというのに。


「なんとなく、だ。変に意識させるようなこと言って、悪かったな」

「いや……うん。当たってるから、いいんだけど。わかりやすかった?」

「どうだろな。いまとか、あとこれまでもたまに、俺にきつい目線が向けられてる気がしただけだ。踊場とか他の奴がどう思ってたかは、知らんよ」


 淡々と事実確認として述べているだけなのだろうが、自分が嫉妬のこもった目線を知らず知らずに向けていたことを知らされて、顔に火がついたような心地だった。ますます顔をうつむかせて、地面を這う木の根に目を走らせながら、司は恥じ入った。廉太郎は背を向けたまま、足を止めず言葉も止めなかった。


「この際だから言っとくが、俺は小野のことなんとも思ってねぇからな。俺が好きなのは会長だ。小野は、ガキのときから付き合い長いが、そんだけだよ」

「わかってるけどさ」

「ああわかってる。そんでも、付き合いの長さってのはいつそういうのに変換されちまうか、心配だもんな」

「だって、小野と廉太郎さん、仲良いから」

「そう見えたとしても、仲良い、だけだぜ。仲が深いわけじゃない。お互いをいろいろ知ってるし、助け合うことだってできるがな。決定的ななにかを与えあう存在かっていうと、そうじゃない」


 言い表しにくいことだけどな、と付け足して、語尾が下がった言葉には、「そうであったらいい」という祈りに似た、廉太郎の数少ない弱さが垣間見えたように司は感じられた。

 きっとそれは、踊場と会長の関係と、自分と小野の関係をなぞらえた結果のものだろう。


「その人にとって好まれる存在と、必要な存在はちょっとちがうだろ?」

「そうだね」

「俺ぁ、どっちかっていうと後者になれることを望んで生きてきた。両者兼任ってのがもちろん一番いいがな。んで踊場の野郎が前者に近かった。まあ気ごころ知れてるから当然だな」

「かもね」

「でも選ばれるんだ。どっちかだけがな。国がちがえば両取りってのもありなんだろうが、たられば言い出したらどこまででも言えちまう。現実的に考えて、選ばれるんだ。一人だけが。……お前にとっても、そのはずだぜ。それこそ他の相手だっていたろうに、お前は小野を選んだんじゃねぇのか」

「もちろん。自分で選んだよ」

「じゃあ自信もっとけよ。俺はずっとそうしてきたのだぜ。奴の方が近しいことはわかってる、奴の方が好まれやすいこともわかってる。でも俺は俺だから、自分に自信持ってきたのだぜ。なろうとしなけりゃ自分らしい自分にも、あの人と仲の深い自分にも、なれねぇんだよきっと」


 開いた藪の向こうに抜けようとする横顔は、しっかりとした考えを持って歩き続けてきたような印象を受けた。自分が気づこうとしてこなかっただけで、踊場などにはこんな風に、廉太郎が見えていたのかもしれなかった。


「強いね、廉太郎さん」

「一回完全に自身の拠り所失くしたからな、そういうのに敏感になったし、大事にしなきゃならんと知ったんだ」


 だから俺を認めてくれた会長が好きになったんだ、と続けて、大あくびをかましながら大股に足を踏み出す。じゅ、と水気に踏み込んで、あたりがぐっしょりとした湿地に近い場所に出たことを知る。


「早くぜんぶ片づけて、またみんなで馬鹿やろうぜ。小野のことも、ここで片づきゃいいな」

「ホントだよ。丙を、どうにかできればね……」


 言いながら司も藪を抜けて、左右を見回す。

 と、視界の端に影をとらえて、口に出したばかりの丙に遭遇してしまったのかと、肝を冷やす、が、一瞬にして冷える位置は、心臓にまで這いあがった。


「じいちゃん!」


 太い木のうろに隠れ潜むように、座りこんだ喜一がそこにいた。荒く途切れがちに息を繰り返しており、やはり先ほどの札による異能の力は、効果が切れてしまっているらしかった。


「司……」

「じいちゃん、怪我は」

「支障ない、と、言いてェが……どうしようもない、というのが、正しい、な」

「廉太郎さん、火傷にきく薬草とかってのはないの?」

「俺が知る限りじゃアロエなんかだがここにあるわけねぇし、あっても気休めにもならんだろ。ああ、だが水は飲ませんなよ。大やけどのときに急に水飲ませるとヤバいって聞いたことある」

「わしのことァ……いい。時間が、ねェ。さっき、伝え、忘れたことが」

「伝え忘れた、って。そんなことより、早いとこ歪み探して小野とここ出なきゃ、」

「その小野が問題だ。わしを見捨ててでも――小野と逃げろぉ」


 歯を食いしばって力強い語調でいい、気力を使い果たしたのか、青ざめた顔でまたぐったりする。あまりの物言いにさすがに緊急の用件を感じとり、司は喜一の言葉に耳を傾けた。


「なに、小野がって、どういうこと?」

「……あの、嬢ちゃん。いまの、ままじゃ、七無が、なくとも。流出点を……開きかねん」

「そりゃ、どういうこった」

「流出点も、歪みと、開き方ァ同じ、だ。……大量の、気、を。思念で、負に染める。いまの、嬢ちゃんは、強い恨みに駆られとる。もし丙を殺せば、水子が彼岸へゆく、その道すがら。流出点を、みる」


 頭をよぎるのは、神代の末路。古川を刺し殺すため現れた彼女の思念がためにこそ、あのとき穂波田村では数多くの歪みが開いた。


「でも審神者は二人じゃないよ」

「……丙、だ」


 丙が、とよくわからないままにうなずいて、廉太郎は名を呼んだことで周囲にいないか気になったか、あたりを見回した。


「奴ァ、もともと、牛蒡種ごんぼだねと、呼ばれとる……邪視の眼を、持つ。その身を、水子に乗っ取られとる、だけよ。牛蒡種はその眼で、場から、人から、気をみる。……淨眼の、ひとつだァな」

「……!」

「おまけに、丙を、使役しとるのァ……七無だ。万が一、奴も、ここにいるとしたら…………いや……」


 浅い息を繰り返し、胸に詰まるものがあるかのように、喜一は息を止めた。じいちゃん、と揺り起こすように司が揺さぶるが、喜一は苦悶の表情のままに、噛みしめた唇の隙間から、呼びかける。


「小僧……」

「なんだ、じいさん」

「司と小野を、守ってくれ……一刻も早く……ここから逃げろ(、、、、、、、)!」


 ざわりと司の肌に感ずる、第六感の閃き。自分の背後にあるものへ気づいたのは、廉太郎よりも早かった。

 現れていたのは――丙、水子。司たちから五メートルほどの位置で、呆けたように突っ立っている。溢れだす負の気にまかれそうで、司も廉太郎も意図せずすくみあがり、それでも廉太郎は立ち上がって構えをとった。丙がこちらを向く。


「くそ、まじかよ、やべえぞじいさん、」「そいつじゃ、ない!」


 喜一が声を張り上げる。問いたくて振り返るが、喜一はたしかに丙を指差している。


「丙じゃねェ! 七無(、、)から、逃げろ!」


 強く、しかし司と廉太郎の位置でぎりぎり聞こえる声で、喉をからして喜一が喚く。


 指先の方を見れば――丙を挟んで向こうの、森の方から。小野が、走ってきていた。傍らにいるのは、歳経て老獪な戦術をも得た猛獣のような、研ぎ澄まされた印象の老人。七無はあれだと、喜一は叫んだのだ。

 そして小野の指先には、数枚の札が握られている。瞳は黒く濁りきって、丙の向こうに司たちがいることすら、見えているのかどうか。足取りは重く、一歩一歩を噛みしめるように跡を残してきており、犬歯を擦り合わせるように食いしばった顔は、先ほどまで見ていた喜一の苦悶の面持ちよりなお凄絶に、醜悪に映った。


「……襲われている者がいる、急げ小野の娘」

「はい、平坂さん」


 近づいてきた二人の会話が、耳に届く。平坂? 七無ではないのか?

 芽生えた疑問は喜一への信頼から即座に、偽名によって小野をたばかっているのだという推測に変換された。どのように七無が小野から信用を勝ち得たのかは知らないが、現状の危険さだけは、たしかに理解できた。心臓が高鳴る。丙と小野を、接触させてはならない。


「その符札にて思いの丈をぶつけてみせよ。儂ではかなわぬが、お前の淨眼でなら討滅に至るはずだ!」


 さらなる一歩の加速で跳躍し、小野が札を掲げる。丙の背後から、迫る。

 だから小野には見えていないのだ。丙の表情がどこまでも空虚で、操られた人間のそれであるとしか見えないこと、そして――たったいま背後に置き去りにしてきた七無が、悲願の達成に際して笑みを浮かべていたことも。


「……小野っ」


 滑り込めたのは、まだ丙への距離が司の方が近かったこと以上に、横合いから出てきた司に小野が驚きを示して動けなくなったことが大きかったろう。

 丙を背にかばうように間に立った司は、すんでのところで、小野の攻撃を止めることに成功していた。目を白黒させて、司と、後姿の丙を見比べる。狂気とさえ言える強い感情に触れたせいで司の心臓ははり裂けそうになっていて、自然、言葉が詰まった。


「小野、だめだ。ちょっと止まって」

「なん、で」

「いいか、だめなんだよ。丙に、水子に手を出したら、」

「なんで、司さん、止めるんですか」

「話を聞いて。水子は――」


「わたしを優先してくれるって、言ったじゃないですか? 生きてる人のために生きるって、そう、約束してくれて――結局、こんなおわりなんですか」


 弾劾するように、いや、断罪するように、だろうか。そのように小野に投げかけられた言葉を、司はただ耳の奥で鳴る震えとして捉えるだけだった。


「司さんにとっては。わたしとの約束は、そんな程度なんですか」

「ちがう、小野、ちがう」


 連なる言葉に反駁すれば、小野はかぶりをふって応じる。かたくなに、閉じこもるように両の(かいな)で頭を押さえこみ、司の言葉に耳を貸そうとしない。

 届けられない。伝えられない。

 まるで彼女が、彼岸の住人になってしまったように。司の言葉が中空で遮られていく。


「どうして。どうして、止めるんですか……!」


 そして彼女の言葉だけが、鮮明に頭の中へ響き渡る。

 小野の姿が掻き消える。

 瞰通すこの眼でさえ、み通せない場所へ。司のもとを離れ、消えていく。そんな気がした、あの夢の続きを、現実で、みることになってしまって――


 瞬間、


 背後からもぎとられて札は七無の手に渡り、呆気にとられた小野の横を過ぎた彼の手により、丙に叩きつけられた。


「丙、流出点を示せ」


 負の気が、消える。否、小野の放つ思念に染められた気の方が、大きくなったためか。丙の周囲から気が失せて、振り返った丙の瞳は、白濁している中にも一筋、光が差しているように見えた。

 瞳孔の内側から射すような光のもと、たしかに普通の人のように見えた丙が、片手をあげて七無の背後を示す。


「……そこに」


 はじめて耳にする丙の声は、若いとはいえない、はりのない声だった。前の丙午は五十年近くも前であるため、丙の肉体も相応のものであるとするなら、当然とも言えたが。

 続けて、七無が小野に語りかける。


「小野の娘よ。以前にお前はここで川を渡り此岸へ戻ったな。川を渡りて対岸へ渡る感覚は憶えておるはずだ――憑坐よりましとなりて我が前に黄泉を開け――」


 がくりと首が折れて、今度は小野の瞳から、完全に生気が失われる。第六感の感じ方も、またより強い感覚に上書きされる。


 目の前にいる小野が、人の形をしたなにかとしか、みえなくなった。


 だれでもない。ただ個性の上に神性を載せられ、耐えきれなくなった意識が存在しなくなってしまったかのように。司の方へ、意味ありげに伸ばされていた手も、力なくして地面へと向く。たったいま詰め寄られていたことも、なにもかもが唐突におわりを告げてしまって、司は動けない。眼前で七無が小野を抱えて連れ去ろうとしているのに、手足がびくともしない。

 気の流れが強く、一方向に定まっているのを感じる。その、風が吹く方向に似た形の無い空隙の中へ、七無が去っていくのがみえた。


「……最後の助力に感謝するぞ、目取真司。小野の娘がより強い憎しみに駆られたおかげで、うまく黄泉路が開いてくれたわ」


 助力?

 まさか……、最後の最後で復讐を止めたせいで、小野が、司を強く憎んで?


「もう逢うことはあるまいが――万一、次に会うとするなれば、反魂満ちる新たな世で、だ」


 言葉のおわりが、司の視界のおわりだった。



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