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百奇夜行で鬼天烈な。  作者: 留龍隆
GW俗信編
11/38

十一題目 「その人物、奇妙につき」と小野が後ろ指さす

「うーん、ありゃ監禁たぁ言えないような気がしないかね」


 薄汚れた白衣を着た男が、片手はポケットにもう片手は頭に置いた妙なポーズで、横の口論義に同意を求めるかのようにあごをしゃくってみせた。口論義は何も言わず、目の前にある住居――段ボール製の壁にブルーシートの屋根をかぶせられた居住空間――を睥睨していた。

 反応が無いことに寂しそうな白衣の男はきつい三白眼を細め、長い黒髪をたくわえた頭をぼりぼりと掻いてフケを散らしつつ口論義の横から少し離れると、くあーと大口開けてあくびをかました。


「しかしなんだね、きみたちが雁首揃えておれなんかのとこに来るとは珍しいね。またなんか面倒事? さすがに引退した今はあんま助けてやれないよ」

「ご心配には及びません。今年度は霊視ができる人間が入ったので。(あか)()さんのお目目をわずらわすほどのことはありませんわ」


 白い長そでのブラウス姿で腕組みした口論義を振り返りつつ赤馬は懐から紙マッチを取り出して、ふ――――ん、とやたらめったら長く音を伸ばして適当な相槌を打つ。同時に白衣のポケットからはゴールデンバットを一本抜きだし、人差し指と親指でつまんだ吸い口部分を押し潰してから、静かに火を点けた。


「こういう生活だとモノモライってやつも意外と厄介だからね、患わすことが無いってんならそれに越したこたないよ。ありがたやありがたや」

「目を患うのは嫌なのに、肺を患う原因になるものはいいんですか」

「ひひ、目を患うのは単なるリスクだけだけどね、おタバコにはリスクだけでなく味を楽しめるってなリターンもあるからね」

「味って言いますけど赤馬さん、その銘柄以外吸ってるの見たことないんですけど。いろいろ味を楽しむなら銘柄変えたりしないんですか」

「わりと味なんて変わるもんサ。保存状態にも精神状態にも左右されるよ。ま、数ある銘柄の中でこれ吸ってる理由は単に安いのと名前が気に入ってるだけなんだけどね。きみ知ってるかね? 黄金バット。おれ小さい頃に紙芝居屋のおっさんにあればっか魅せられてね、ヒーローってったらアンパンでも仮面でもウルトラでもなく、骸骨なんだよね」

「……黄金バットに紙芝居屋って、あなた本当はいくつですか」


 疲れた様子で溜め息をつく口論義に、赤馬は「コウロギとコウモリって発音似てるねー」と節をつけて歌うと深くゆっくりゴールデンバットをふかした。


「ていうか赤馬さん、あなた進学したんじゃなかったんですか」

「とっくにやめてしまったね。なにやらおれの方向性とは、ちと違った場所だったようでね」

「で、今は河川敷で生活している、と」

「ここの方がおれの(しょう)にも方向性にも合ってたのサ」


 わかるかね? と振り返って紫煙をくゆらせる赤馬はわりと長身のはずだが、少し猫背であるために口論義とほぼ目線の高さが一緒だった。煙草の先端に点る火が怪しく揺らめくのを見つつ、口論義は鼻を突く臭いからわずか距離をとって返した。


「多少はわかります。あなたが一つところに長くいないのは昔からですし」

「ならば、やはりそれが真実だね。少なくともおれときみの間では、サ」


 赤馬は口論義の横を過ぎて風下に移動した。相変わらずよくわからない奇人だと思いながら、口論義は川の向こうに立つマンションを見上げて、まぶしかったので左手でひさしを作った。警察がうろうろしているそこには、今頃踊場とサワハが乗り込もうとしているはずだった。


「どうしたね、おれの家より向こうの方がお気に召したかね」

「まあ監禁されるのなら、たしかにあちらの方が生活環境として断然いいですけど」

「これでもマイホーム、中は住みよい空間にしてるよ。ひどいこと言うねきみは」


 二人して見やる、河川敷の向こうにある六階建てのマンション。

 ものものしい雰囲気に包まれるそこには、ついさっきまたもフォッグマンが現れたらしい。ただ、今回は途中で被害者が異常に気付いたため、長時間に及ぶ事件などにはならず。フォッグマンが逃亡して、今に至る、ということらしい。


「まだ雨も降っていないのに現れるとは思わなかったですね」

「もうじき降る頃だけどね」

「? それはどういう」

「ん、あーまあアレだ、こういう暮らしだからかね。多少湿気に敏感なのサ、おれは。一時間もすりゃあ夕立が降ると思うよ。きみらもその前には帰った方がいい」


 置いてあった空き缶の中に川で水を汲んで、赤馬は肺腑に溜めこんだ残りの煙を全て吐き出し、口論義を指差した。


「しかし、帰れと言われましても」

「なら夕食でも食べてくかね。材料費ワリカンなら考えなくもないよ。踊場くんたち現場近くをうろうろしてるけど、どうせ今日のうちは警察が離れるこたぁないだろうしね。サワハくんの〝レンズ〟をあの辺に貼り付けておいて、のちのち観察でもすればいい。……しかしフォッグマンとやら、本当に追いかけるほどの価値があるのかねぇ」


 吐き切った煙が霞んで空に溶けるのを名残惜しそうに見つめ、赤馬は口論義に問う。口論義はすらすらと、先ほど皆で出した結論をそのまま告げる。


「わかりません。が、不審な点がある以上は看過できませんので」

「ウソはよくないね。きみ、自分だけが虚言を見抜けると思ってないかね」


 ところが発言を切って捨てられ、じろりと視線で射すくめられて、口論義はひるんだ。しかしそれは一瞬のことで、視線を外してぼりぼりと頭を掻く赤馬はどっこいしょと草の上に座り込むと、口論義と目を合わせずにまたゴールデンバットに口をつけてから言った。


「……ま、きみや、他の会員が追ってるものに辿りつく可能性はゼロじゃないし。きみの事情についても皆ある程度は納得の上でのことだろうから、おれはこれ、きみが自分の事情ばかり考えてるのを糾弾する意味で言ったわけじゃないんだけどね」

「では、どういう意味で」

「そのままの意味サ。裏をかくことができると、自分が裏をかかれる可能性を考えなくなるんじゃないかね。野球と同じだね、攻撃だけでなく守備もきちんと考えなくちゃなんないよ」


 短くなった煙草を両手でつまみ、小さく振りかぶってスイングする。口論義はその言葉に焦るような、戸惑うような感覚を覚えさせられてやきもきした。彼女はけっして赤馬のことが嫌いではなかったが、どうにもこの見透かしたような、遠くが視えているような態度には対応に困ることが多かった。


「……まるで未来が視えてるような言い草ですね」

「少し先は見えてるよ。きみより一、二年は先までね」

「嘘」

「本当。だっておれはきみより一年か二年は先に生まれて生きてきたんだ、わずかな差だけどその分深読み先読みができるってもんだね」


 にやっと笑って、スイングのままに投げた吸いがらを先ほど水を汲んだ空き缶の中へ放り込む。じゅっと火が水に溶け落ちる音がした。赤馬は座ったまま、後ろ手をついて首をごきごきと鳴らして口論義を呼ぶ。


「口論義くん、そろそろ頃合いだと思うよ。夕立が来るまで、お茶でも呑んでいくかね」

「頃合い? と言いますと」

「廉太郎くんと小野くんと……ああ、残り一人は新しい会員か。相変わらず人員少ないね、きてれつ研は。まあ大きくなりすぎた集団は内部腐敗が進むしね、六人くらいがちょうどいいのかもしれない」


 腐敗の前に自壊するから、といやな自論を述べ、また赤馬はひひひと低い声を震わせた。

 背後から河川敷へと階段を降りてきた三人の方を見もせずに、笑い続けた。


「……三人ともごくろうさま。とりあえず、この中で会議させてもらうことにしましょうか」


 口論義は三人を迎えて、目がしらをつまんだ。湿気た空気が、空から降りてきているような気がした。



 ガスコンロで沸かした湯で淹れたお茶は、お世辞にもおいしいと言える代物ではなかった。

ヤニ臭く、狭い段ボールの家の中にはぎゅうぎゅうと七人が押し込められ、互いに身じろぎすると肘がぶつかり肩がくっつく。

 寝袋を隅に追いやり、中央に小さなちゃぶ台を囲む六人は、輪から外れて電気ポットを抱えるように座る赤馬を見つめていた。赤馬は片手をあげて司を見返すと、視線をちゃぶ台に落とした。


「やあきみ、粗茶の味はどうだね」

「客に出したあとで粗茶って宣言する人は初めて見た……」

「どのタイミングで言っても粗茶であることは変わらないね。それにしても、ふ――――ん。きみか、口論義くんの言ってた『霊視のできる奴』というのは」

「視えるだけで他は特にできないけど」

「そうかね。だが視えるだけ、と言っても、憑かれやすい性質ではあるようだ。それにポケットに物騒なものを入れてるね。御守り刀?」


 言い当てられて、司は怪訝な顔をした。隣の小野が「赤馬さんも視える方なのです」と説明してくれたので疑問は氷解したが、にやにやと笑いながらこちらを見るその目には居たたまれない心地にさせられた。見透かされているようだった。


「だがきみ、視えるようだが、特定の宗教や教義を持っているわけではなさそうだね。だから身を守る術も知らず、民間療法レベルの対処しかできず、難儀してそうだ」

「そういうもの持つの、好きじゃないから」

「ふむ、そう主張するならそうなんだろうね……ああ、そういえばまだ自己紹介していなかったね。おれは(あか)()実乃里(みのり)。きてれつ研の先代会長を務めていたよ」

「司、です。どうも」

「苗字は?」

「呼ばれるの好きじゃないから」

「ん? 名乗るのが(、、、、、)、ではないのかね?」


 何気なく浴びせられたセリフに司はやや反応が遅れて、言葉に詰まる。赤馬はその様子をじっと眺めて何事か考えているように見えたが、やがてすいっと目線をずらして、司の隣に座る小野へ向けた。


「きみといい、そこの司くんといい。相も変わらず面白奇妙な人間しか集まらないね、きてれつ研は」

「あなたに言われたくはないのです」

「おれ、そんなに奇妙な奴だったかね」

「普通の人ではありませんでした」

「赤馬さんは卒業間近で退学食らいかけたこともあったしな」


 小首をかしげて言う赤馬に、小野と廉太郎が続けざまにつぶやいた。味も色も薄い茶をすすりながら赤馬はとぼけた顔をして、「やだなぁ冗談ばっかり」とでも言いたげに肩をすくめた。


「ま、いいサ。昔のやんちゃは廉太郎くんも棚上げしてるし、置いといて忘れさせてもらう。そんなことよりするべきは今の話だね。きみたちは今、フォッグマン事件を追ってるんだね?」

「ええ。色々と不審な点が多いので。なにか、我々の追うものへ直結するものがあるのではないか、と疑っている次第なのですよ」


 踊場が答えて、口論義とサワハがうなずいた。赤馬は段ボールのドア部分を少し押して外を見やり、雲が張ってきた空と、その下にあるマンションを見つめた。まだ人でごった返していて、近づけそうにない。


「なるほどね。しかしおれも時間がある時に、フォッグマン事件については調べていたんだけどね。この事件、さほど霊的なものは関わらないと見えるよ。背後に何か目的のある団体などがあるわけでもなさそうだしね」

「そなノ? 頭良いの人が集まってると思ったノニ」

「うーん、そうした組織はあるだろうけど団体ではないと思うね。そのせいもあり、目的がどうにもつかめない。だが、今日の一件はこれまでと違い、失敗という大きな動き、揺れが出ている。くわしく知ることができれば、目的へ向かい一歩進むことができると思うよ……サワハくん、向こうの現場近くに〝レンズ〟は設置できたかね」

「あい、ばっちりヨー。現場入るするは無理だから、出入りしてる人の背中に貼っつけたね。あと事件あったの隣の部屋ベランダに、落ちてたのボール投げて『取らせてくださーい』ってずかずか上がりこむして仕切り越しに手伸ばしてレンズ置いてきたよ」

「とりあえず二か所は見えるのね。じゃ、廉太郎くん、サワハにメガネ」

「はいよ。っつかサワハ、お前いいかげん自分のメガネ買えよ」

「やーよ。めんどくさい」


 ぎゃーぎゃー言い合いを繰り広げた後に廉太郎から黒縁のメガネを受け取ってちょこんと鼻の上に載せたサワハは、右目を閉じ、開いた左目の前に左手をかざした。ふっ、と一瞬空気が留まり、渦を巻くような気配がして。いつものサワハとは違う少し静かな雰囲気に、司はごくりと息を呑んだ。


「おぅ……見えるみえる。視えてきたネ。感度りょーこー、ハイビジョン」

「どういう風に視えてるんだろ?」


 言葉の抑揚が普段よりも抑え気味になったサワハを不思議に思い司が聞くと、彼女はそのポーズのままちゃぶ台に頬杖をついて、えーと、と説明をはじめた。


「んー、マルドメくん幽霊視えるは、どんな感じ?」

「どうって、普通。普通の人間と変わらない感じで、だから他の人が誰も反応してなかったら、ようやく『ああこいつそうなんだ』ってわかるだけ。あとは危ない領域に踏み込む場合は、第六感で変な臭いを感知したりいやな感触が肌に残ったり」

「じゃ、サワハのとはだいぶ違うネ。サワハの、視えるってゆーより『解る』って言うノカナ? 部屋間取り2LDK、南側窓、東側隅に三十インチテレビ、が壁から五十度の角度であって、並んでるDVDのタイトル右からスピード、タイタニック……なんてネ。情報細かいまで頭に流れ込んでくるの。えっと、喩えるするなら、すーっごい細かい描写してるの小説を、頭からお尻までぜーんぶ暗記してるのコト、カナ?」


 よくわからなかったが、とにかく細かいところまでよく見えるのだろうということはわかった。むむむと真剣な顔つきでぎゅっと目をつぶったままの表情をキープするサワハは、空いた右手でちゃぶ台を叩いてなにやらリズムをとっていた。ついで、ひょこひょことその場で右に揺れたり、左に揺れたり。見ていて、司は何かに似ていると思って小野に耳打ちした。一瞬、小野はくすぐったそうに身をすくめた。


「レースゲームでドリフトする時とか、よくああいう風にならない?」

「ああ……ありますね。身体を傾けてもゲーム内の車体に影響があるはずないのに、ついついやってしまいます」

「うー、うー。レンズ付けた警察の人、レンズの前立ってる、邪魔、どいてヨー」


 どうやら〝レンズ〟はサワハの身体動作とはなんら関係なく、固定された視点であるらしい。

 同じように左右に身体を動かす口論義がドア部分からマンションを見上げ、背後のサワハに問うた。


「何か、見えないの?」

「んー……見たとこフツー。変わってるとこないないだネ。争ったあとがちょこっとだけ、あとはフツーな、独り暮らしするの人がいそうな部屋っぽい。変わったものも無いヨ」

「変なモノがあるとか、内装が気味悪い部屋だったら、呼ばれた女も入らないか長居はしないかどっちかだろうしな。あからさまにおかしな空間演出はしないだろ」

「とはいえ今回は短時間でバレて不成功に終わったわけなんだから、なにかしらこれまでの場所とは違う要素があったんじゃないかしら」

「しかし会長、こんなところで報告するのもなんだが、俺たちが行った個室シアターも変なところは一切なかったのだぜ? それに場所ごとの違う要素とか言うが、そもそも俺たちが見出せた各場所の共通項は『二人きりになれる密室である』ってことだけじゃないか。それとも、会長の方でフォッグマンを追える手掛かりになりそうなものとか見つかったか?」

「いや……今のところはまだ何も。あとアパートは回ってないんだけど、あそこはピッキングで鍵こじ開けてフォッグマンが勝手に使ってたみたいでね、」

「あ、なんか入ってくるの男が来たよ! すごい剣幕で怒てるネ。割れたお皿とか指差して泣いてるのコト、かわいそー」


 驚きの声をあげたサワハの説明は口論義が語ろうとしていた部分を代弁していた。


「……今回もピッキングで不法侵入した上で、女性を連れ込んでたみたいね……まあそういうわけだから、アパートマンションは踏み込むことも難しいし、なによりフォッグマンの自宅とかそういうわけじゃないから証拠も手掛かりも見つけられなさそうなのよ」

「しかし今日はしくじったわけだろう。ならばこれまでとは違う点、要素としてフォッグマンの手掛かりなどが落とされている可能性もあるのではないかな」

「ガラスの靴でも落としてるってのか? あったとしても、とっくに警察に拾われてるだろ」


 皮肉る廉太郎を噛みつきそうな目でにらみつける踊場だが、言うことはもっともだとも思えたので怒気を失い鼻を鳴らす。進展があるかと思いきやさっぱり、という状況にじれる六人の中、サワハは「視点(チャンネル)、ベランダからに替えるね」と言って右目を開け、また閉じた。


「んー、んー、ん。こっちからも変わてるとこないないだネー」

「……予期してはいたけど、不毛な戦いになってきたわ」

「手掛かりも動機も背景も不明ですからね。話術といいピッキングといい、無駄な技術を持った変質者、というだけのことなのでしょうか」


 会長と小野がうなだれる。司はしょげる二人を見て自分も少し気落ちするのを感じながら、何の気なしに、まだ曇っているだけの空を見て言った。


「雨が降ってなかったから失敗したのかなぁ」

「はい?」

「いや、フォッグマンはいつも雨の日に現れて、誘い文句はともかくとして部屋に入ってからはパターン化した行動を順守したって言ってたじゃん。今日は小野の照る照る坊主のおかげか晴天だったし、そのせいで失敗したのかと思ったんだよ」

「パターン……」

「ひょっとしたら、大して変わったところのない普通の部屋、っていうのも実は普通であることに意味があったり、なんてね」


 普通が一番、などと笑って言う司をぽかんと見つめていたら、『共通項』という言葉と司の主張とも言えない思いつきが、小野の中で不意に結びついた。それから己の顔が移りこむ緑茶の水面を見て、膝立ちになって発言する。


「あの、会長、踊場さん」

「なぁに?」「なんだい?」

「――もう一度。もう一度、情報を集めて共通項を洗い出してみませんか。いえ、今度は場所などについてだけでなく、天候や状況といった環境面から、被害者同士のリンクまで」

「小野、急にどうしたの」

「司さんの言葉で思いついたのですよ。パターン、共通項、今日の失敗。加えて言うなら、大して変わったところのない普通の部屋……もしかしたらフォッグマンはわたしたちが気付いていないだけで、じつは一定の規則の下に動いているのかもしれません。その規則の内の一つが、司さんの言うように〝雨天であること〟なのかも」

「いやでも、それがつかめたとして、どうするのさ」

「わたしが異常のある場へ惹かれやすいことをお忘れですか?」


 胸を張る小野を見て、司はまさか、と口の形だけ動かした。しばし黙っていた赤馬はひひひひひ、笑い声をあげ、指を鳴らして小野を指差した。


「……面白いね。規則性を割り出し、それに基づいて小野くんが行動する。さすれば異能察知の微能力により遭遇率にプラスアルファの補正がかかった囮役と成り、犯人に近付けるかもというわけだね」

「あくまでも、規則性が見つかれば、の話ですけどね」


 すごすごとまた座り込んだ小野は、そう言って頬を掻いた。赤馬はそんな態度を謙遜と捉えたのか首を横に振り、やや実年齢より老けて見えるその顔を喜色で満たした。


「相も変わらず面白奇妙で愉快な研究会だよ、ここは。おれも進学なんてしないでもう一年残ってみればよかったね」

「……赤馬さん、あんた一回留年してただろ……」

「卒業間近に退学になりかけたこともあったしね。だが二度ダブるというのも面白いと思うな。あ、ダブるではなくトリプるとでも言うのかね」


 笑い転げる赤馬を横目で見つつ、廉太郎は苦笑いを浮かべる他なかった。小野と口論義と踊場は早くもこれまでの情報をメモに書きだして共通項を探りに入っており、司もその作業に参加しようかと腰を上げた。


「……ねぇみんなー。サワハもう視るしなくていいノー」

「いえ、細かい点までお教えいただきたいので、もうしばらくチャンネルはそのままで」

「あう」


 サワハもそのままの体勢で室内の実況をはじめ、既にがりがりと書かれた共通項一覧の端に述べられた状況やモノの配置が書きこまれていった。


「ん?」


 その一覧の中に少し、司は引っかかるものがある気がした。

 しかし小野に「司さんも穴がないかどうか、点検をしっかりお願いします」と言われたことで、ひっかかりはどこかへ流されていった。



Name:小野香魚香おのあゆか

Hobby:今は門下ではないが倉内流の鍛錬・カポエイラ・CDショップめぐり

Weakness:モロッコヨーグルト

Specialty:空腹でなくとも自らの意思でお腹を鳴らせる

Skill:〝超常傑選スーパーナチュラル〟異能力者かどうかを一見して察する能力。たとえ当人が無自覚であっても見抜く。逆に言うと偽物も見抜ける、超能力番組殺しの魔眼。口論義のそれとは違い、テレビなどの媒体越しでも見抜く。ただし何の能力かはわからない。副次的効果として、異常へのハードルが下がることにより異常のある領域や能力者に無意識に近づきやすくなる。

Notes:「大野」がクラスメイトに二人も居て彼らを呼ぶ声に反応して恥ずかしい思いをすることがよくあるため下の名前で呼んでほしいが誰も呼んでくれないことに内心苦悩している。



次回からフォッグマン事件の核心

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