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やり込んだゲームのエンディングを変えるために奮闘して死んだら、続編でヒロインが闇堕ちしてた  作者: かませ犬


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7.バカ二人

 ───【厄災の魔女】。


 その単語が出てくるのはゲームの終盤。ヒロインであるクラリスのことを示す単語で、これまで起きた不運な出来事は全てクラリスが無自覚に引き寄せていたと語られる。


 そのことで思い詰めたクラリスが、自分は死んだ方がいいんじゃないかと悩み、悔やみ、涙する姿にプレイヤーは心を痛めたことだろう。


 最終章に至るまで伏線が回収され、ヒロインが自らの死を望む。怒涛の死亡フラグの建設ラッシュに嫌な予感を感じたプレイヤーを裏切ることなく、悲劇のヒロインとして彼女は終わりを迎える。


 話を戻そう。【厄災の魔女】を⋯⋯クラリスを救うために命を捨てた男、それは勘違いでなければ俺の事だと思う。記憶に思い当たる中で該当する人物が俺以外にいない。


 俺の死後に、クラリスを救うために動いた者がいたなら話は変わるが⋯⋯ロビンと仲間だったという事まで含めると、それこそアデルか俺しかいない。


「【厄災の魔女】は⋯⋯あの女は不幸を引き寄せる。死の運命に纏わり憑かれた世界の贄だ。あの女の近くにいるだけで不幸に巻き込まれる。死の運命に導かれる。だから、あのバカの元から攫って⋯⋯上手く使える人間の元へと送り届けるつもりだった」


 クラリスに対する心無い言葉に感情が沸き立つ感覚があったが、悲痛に嘆くようなロビンの声に自分でも驚くほど冷静になった。


 ───金のためじゃない。


 ゲームのロビンはお金を積まれ、依頼されたからクラリスを攫おうとした。


 だが、ロビンの発言が嘘じゃないなら金のためじゃない。俺か、アデルをクラリスが引き寄せる不幸や死の運命から逃そうと行ったことになる。乱暴な手段だがな。


「恨まれてもいい、憎まれてもいい、こんなオレさまなんかに変わらず接してくれたあのバカを救えるなら、オレさまは何度だって裏切って良かった!裏切りには慣れてる!向けられる罵声だってどうでもいい。あのバカを救って───友を救えるなら、オレさまはそれで良かったんだ!!」


 感情が昂り、泣き叫ぶロビンに何も言えなかった。


 こんなロビンを、俺は見たことがなかった。


 ゲームでも、この世界でも⋯⋯こんな姿は見たこともない。


「オレさまとしたことが、気付いたら絆(ほだ)されていた。あのバカと酒を一緒に飲み交わす時間が楽しいとすら思ってしまった。居心地いいいって、初めて思ってしまった⋯⋯」


 溢れ出る涙は留まることなくロビンの瞳から流れ落ちていく。心が、ギュッと痛んだ。


 ───俺だ。


 ロビンが語るバカな男に該当する人物は俺しかいない。


 知らなかった。ロビンが俺と酒を飲む時間が楽しいと思っていたなんて。居心地がいいと思っていたなんて⋯⋯。


 言わなかったじゃないか、最後の最後まで。俺のことを友と呼ぶこともしなかったじゃないか⋯⋯なんで⋯⋯。


 じゃあ、なんで裏切ったんだよ⋯⋯。


 違う。分かってるはずだ。何故、ロビンが裏切ったか⋯⋯。




 ───俺だ。




 ロビンは、俺のためにパーティーを裏切ったんだ。友達である、俺を救いたい一心で仲間を裏切った。


 俺に憎まれることも、恨まれることも覚悟の上の裏切りだったはすだ。そこまでして、俺を救おうとしてくれていたんだな⋯⋯。


「結局、あのバカは【厄災の魔女】のせいで死んだ⋯⋯死んじまった」


 違う。クラリスのせいじゃない。俺は俺の意思で死んだんだ。けど、ロビンからすれば結果は一緒か。


「あのバカが死んだあと、無気力になってたオレさまの元に昔仕事を請け負った貴族の連中がやってきた。⋯⋯気付いたらクーデターに巻き込まれてこの有様だ。どうでも良かった⋯⋯。妹のことは気掛かりだったが、あのバカのいないこの世界に⋯⋯生きている意味がないとすら思った」


 俺の知る流れと違う。


 ゲームのロビンは金を積まれて自分から率先してクーデターに加担していた。なにもかもが違う。俺が、俺が⋯⋯変えてしまった。


「そういや、オレさまに問いかけていたな。誰が⋯⋯鍵を渡したか」


「⋯⋯あ、あぁ」


「10ほど前だ。ただ、牢屋の中で意味もなく生きているだけのオレさまに、【ウロボロス】の残党が接触してきた」


「ウロボロスが?」


 ───【ウロボロス】。


 ヴァルキリー戦記における敵組織であり、序盤から終盤まで敵として登場するゲームでいうところの悪役だ。


 ヴァルキリー戦記には主人公の敵として二つの組織が存在する。一つは先にあげたウロボロス。もう一つが帝国。大陸制覇を掲げる【ローマシア帝国】だ。


 この二つの組織は協力関係にあり、何度も何度も主人公の敵として立ちはだかる。特にウロボロスは執拗にクラリスを狙う。ロビンにクラリスを攫うように依頼したのも、このウロボロスだ。


 ウロボロスの最終目的は単純明快。


 ───世界征服。


 そのためにクラリスのもつ【厄災の魔女】の性質を利用しようとしていた。


 ゲームのラスボスにして、ウロボロスのボス───ロブ・スティールはクラリスの体を奪うことでその力を制御するつもりでいた。


 ロブがクラリスの体を奪う前に主人公たちが到着し、そのまま戦闘になったので間に合ったかと思えば⋯⋯、瀕死となったロブは主人公たちが油断して隙を狙ってクラリスの体を奪ってしまう。


 その後、クラリスの体を奪ったロブとの最終決戦となる。


 戦いに勝利すると、クラリスが体の主導権を奪い返すことに成功する。喜び沸き立つ仲間にクラリスは非情なお願いをする。


 ───『わたしを、殺してください』


 クラリスは自ら死を望んだ。人を不幸に巻き込むなら、自分のせいで人を死なせてしまうなら死んだ方がいい。


 これまで必死に押し殺してきた感情を、思いを吐露し⋯⋯主人公の剣に刺されて、クラリスは亡くなる。


 あまりに救えない、エンディングだ。


 ゲームの製作者曰く、【厄災の魔女】についてクラリスが知った頃から自分ほ死んだ方がいいのかとクラリスは悩んでいたそうだ。


 そして、自分が死んだ方がいいと覚悟を決める決定的な理由となったのが⋯⋯、仲間に向けて剣を向けてしまったこと。


 自分が引き寄せる不幸のせいで、仲間を傷付けてしまった。こんなわたしは生きてはいけないと、自ら死を選んだ。


 だから俺は、クラリスの体が奪われなければ⋯⋯仲間に剣を向けなければ自ら死を選ばないんじゃないかと思った。楽観的な考えだが、クラリスの周りにはアデルを始めとする仲間がいる。


 彼らなら、クラリスを明るい道へと導けると思った。


 ラスボスであるロブがクラリスの体を奪う前に殺せるのが最良。殺せなかった場合の保険として、カーチスにお願いして発明品を作って貰った。


 その発明品を使い、ロブの憑依対象を俺へと変更して⋯⋯体の主導権を完全に奪われる前に───自害を選んだ。


 それが⋯⋯俺が死ぬまでの流れだ。


 クラリスを救えるなら、死んでもいいと思えたんだ。その後のことを何も考えてなかったから⋯⋯クラリスは世界を敵に回して、ロビンが慟哭する原因となった。


「ウロボロスの残党は金を払うから、力を貸せと言ってきたが、金なんてどうでも良かった。オレさまからすれば金なんかよりも⋯⋯あのバカが死んでも護ろうとしたものに、あのバカの命と同等の価値があるのか見定めたかった」


「⋯⋯価値がなければ、殺すつもりか」


「そうだ。けど、それもお前に止められて終わりだ。⋯⋯十分だろ。聞きたい情報も吐いた、牢屋に入れるなり好きにしろ。もう⋯⋯どうでもいいんだ」


 既にロビンから抵抗する気力は感じない。悲しみ押し殺すように、歯を食いしばっているのが見えた。


「っ───」


 不意にガチャガチャと金属音と人の叫ぶ声が聞こえた。近づいてきている。


「騒いだから、看守がきたらしいぜ」


 ロビンの言葉通り、10秒と経たずに十数人の鎧をきた看守たちの姿が見えた。まだ距離は遠いが直ぐにこの場に駆けつけてくるだろう。


 牢屋に収監されていたロビンは当然ではあるが、この場にいる俺も立場的にまずい気がする。⋯⋯仕方ないか。


「立てるか?」


「あ?」


 ロビンを抑え込むのをやめて、立ち上がって声をかける。


 ガチャガチャと金属音を響かせて看守たちが近寄ってきている。時間がないと判断して、ロビンの腕を引っ張って無理やり立たせた。


「逃げるぞ」


 俺がそう声をかければ、分かりやすくロビンが驚いていた。、


「⋯⋯オレさまを助けるつもりか。何故だ?てめぇに利点なんてねぇだろ」


「⋯⋯そうだな、確かにそうなんだが⋯⋯うん。お前がどうしようもない奴なのは分かってるんだけど⋯⋯なんでだろうな、見捨てることができなくてな」


「その言葉⋯⋯」


 良かった。ロビンも覚えていてくれたか。


 三回目の裏切りの時、まだ間に合うと引き止める俺に『どうしてオレさまに構おうとする』と叫ぶロビンに俺が返した返答だ。


「ちっ⋯⋯だが、どうする?見ての通りあの数から逃げるのは簡単じゃねーぞ」


「まぁ、なんとかなる。お前に走る元気があるならいけるさ」


「オレさまを誰だと思っていやがる」


 ロビンが不敵に笑う。


「分かった、俺が合図をしたら走れ。俺を信じてくれるか?」


「はっ!誰が信じるか、オレさまが信じるのは妹と金と、友(バカ)だけだ」


 ───それでいい。


「さ、いくぞ」













 その後のことを話そう。


 アイテムポーチに入っていたカーチスの発明品を駆使することで看守から逃れることに成功した。俺からこんなものを作れないかと、現代でいうところのスモークグレネードやスタングレネード擬きを作っていて貰ったおかげだ。


 お陰で俺とロビンの二人は看守の手を逃れて、脱出する事に成功したんだが⋯⋯。


「どうするかね、これ」


 ───二人揃って仲良く指名手配となってしまった。

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