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やり込んだゲームのエンディングを変えるために奮闘して死んだら、続編でヒロインが闇堕ちしてた  作者: かませ犬


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19/21

18.予感

 ラブリナとひとつ屋根の下で、一夜を過ごす。


 何も起きないわけもなく⋯⋯なんてこともなく、普通に夜は明けた。ラブリナはスキンシップは激しいが、そこら辺の貞節はしっかりしている。


 普通に俺のこと家に案内して、ご飯を作ってくれて、お酒を飲んで談笑したあと、客人用の寝具を敷いて、別々に寝た。恐れていたことは何も起きなかったと言っておこう。


 俺からするとラブリナとの会話が何よりも有意義だった。お酒に酔った勢いもあり、ラブリナは自分のことをたくさん話してくれた。そのお陰で気になっていた俺の死後、何があったか知ることができた。


 俺の死後の動きとして、ゲームのエンディングで語られていたウロボロスの瓦解や侵略行為を繰り返していた帝国に対する諸国の対応など、世界的な動きは俺の知識のものと遜色はなかった。


 ただ、仲間たちの行動がやはり、ゲームとは違う。


 クラリスが亡くなった原作においては、彼女が好きだった海の見える丘にクラリスの墓を作り、仲間たちはその死を悲しんだ。そして、クラリスの死を重く受け止めながらも、仲間たちは前へと進もうとした。


『みんなは幸せになって、それがわたしの一番の幸せだから』


 死の間際に遺したクラリスの言葉に───想いに応えるために。


 エンディングで流れるスチルでは仲間たちがクラリスの死を乗り越えて新しい生活を送る姿が映っていた。


 貴族に戻り従者と共に忙しい日々を送るシド。


 薬師として人々を救いながら、素晴らしい筋肉の持ち主に激しめのスキンシップするラブリナ。


 一兵卒の立場から昇進し、部下を率いながら騎士として国を守るマルテナ。


 その他、かつて共闘したり、敵対した仲間たちの激動の終わりかのような緩やかな日常が絵画のような美しいイラストで描かれていた。


 何より印象深いのは主人公だろう。ヒロインであるクラリスとの関係性の高い主人公はまるで彼女との思い出に浸るように、各地を旅していく。


 共に泣いて、笑って、怒って、感情を共有した思い出の地を巡って⋯⋯最後にクラリスのお墓の前で主人公は笑顔を浮かべた。クラリスと一緒に笑いあった時のようにとびっきりの笑顔で。


 その後に関してはダウンロードコンテンツなどで語られていたが、故郷の村に戻り自由気ままな生活を送っているようだった。


 ───ゲームにおいては、主人公はクラリスの想いを汲み取ってしっかりと前へ進んでいた。


 だが。


 この世界では、俺が思っていたよりも⋯⋯ガイド・ルーカスとして仲間たちに遺した影響は大きかったらしく、死を受け入れられないまま心に傷を負った者もいた。


 ラブリナは年長者として俺の死を嘆く仲間たちの心のケアをしながらその場を取り仕切り、原作のように海の見える丘に俺の墓を立てたそうだ。


 あの地は俺たちにとって思い出深い場所だったからな。俺の墓がクラリスと同じ場所に作られても何ら不思議ではなかった。


 ただ⋯⋯俺はクラリスのように最後の言葉を仲間たちに遺してあげることが出来なかった。その影響か、仲間たちは直ぐには立ち直れず原作のように前へと進むのに時間を要した。


 シドやマルテナは原作のように貴族や国属の騎士に戻ったが、ふとした事で俺のことを思い出すとかで⋯⋯なにかと理由をつけては墓参りに行ってるらしい。


 たまに会った時に酒の肴に思い出話をするらしいが、俺の話題が出てしんみりするのがいつもの流れらしい。


 また、原作においてクラリスのことを想いながら旅をしていたはずのアデルは、生きる気力を失ったかのように無気力になってしまったそうだ。


 今のアデルを一人にしてはいけない。目を離したら、ガイドを追って死んでしまうかもしれない。そんな最悪の想像をラブリナがしてしまうくらいには、アデルは心に深い傷を負っていた。




 ───俺の死が、アデルの未来に影を差してしまった。




 俺一人の死でクラリスを救い、エンディングを変えれるなら構わないと、自己満足の結果がこれだ。


 仲間を悲しませるくらいなら、最初から仲良くなるなよ⋯⋯って今になって思う。ゲームの世界に転生したからって関わる必要はなかった。仲良くなったのもエゴ、満足して死んだのもエゴ。心苦しく思う資格すら、俺にはない。


 話を戻そう。


 生きることすら放棄してしまいそうなほど危ない状態のアデルを一人には出来ず、ラブリナはアデルを連れてこの村へとやって来た。


 原作のようにアデルの故郷の村ではなくこの村に居着いたのは、仲間たちとの思い出の残る場所から離れるため。ガイドの面影を感じるものを見る度に、アデルが傷付くのを避けるため。


 その判断が正しかったかどうかは不明だがラブリナの献身的な介護もあり少しずつアデルも現実を受け入れ、生きる気力を取り戻しつつあるそうだが。


『あの子にとってガイドの存在はとても大きいの。誰かが代わりになってあげることもできない。あの子が自分でガイドの死を乗り越えないと、何も変わらないまま』


 ───アデルの時間はあの日で止まったまま。幸せだった日々を思い出して、今も涙を流している。


 あの、アデルがだ。


 出会ったあの時から、幾つも苦難を共に乗り越えてきた。死ぬかもしれないと思ったことも、絶望的な状況に心をすり減らしたこともある。それでもアデルは泣くことはなかった。


 俺が見た唯一のアデルの涙はゲームでもなく、この世界で最後に見た泣き顔⋯⋯。


「俺のせいだな」


 誰が悪いかと問われれば、間違いなく俺だ。俺が死ななければこんなことになっていない。何度も考えても同じ結論にたどり着く。


「どうしたらいいんだろうな」


 俺の死を悲しむ仲間を励ます方法が思い浮かばない。俺の姿がガイド・ルーカスとして映っているなら一言、言うだけでいい。


 ただいまって。


 今の俺がそれを言うのは悪手もいいところだ。何言ってだこいつって思われるだけだからな。


「俺に、会わせたい⋯⋯か」


 ラブリナにどういう意図があるかは分からない。酔った勢いではなく、翌日の酒の抜けた素面の状態でラブリナからお願いされた。


 アデルに会って欲しいと。


 ガイド・ルーカスなら分かる。自惚れでなければ、今のアデルの心を救えるのはそれこそ俺しかいない。だが、此処にいるのは俺であって俺じゃない。


 ガイドとは違う、別の俺だ。そんな俺をアデルに合わせようとする意図が分からない。そもそも初対面の相手にアデルが会ってくれるかどうかも怪しい。


「はぁ⋯⋯」


 どの道今日明日の話ではない。結論を急ぐ必要はないか⋯⋯。


 アデルはまだ身体が本調子じゃない。仮にラブリナの言う通りにアデルに会うにしても病気が治ってからだ。それまで、この村でお世話になることになった。


「薪割りするか」


 こういう時は下手に考えず、身体を動かすのが一番だ。村の人に頼まれていた仕事をしようと斧を片手に、家の裏へと回る。すると積まれた丸太の山が目に入った。


 なるほど、これは確かに手伝って欲しいと言われるわけだ。


「数も多いし、パパっと始めるとしよう」


 先日、ラブリナの家に泊めてもらい一夜明けた今日。この村にしばらく滞在することが決まってから、村の人たちの印象を良くしようと交流を試みた。


 自分がどういう風に見られている分かるからこそ、積極的に交流を取る。挨拶だけでもいい。人と人との関係を築くのは会話だ。言葉を交えることで、外見以外の人の形を知ることができる。


 もちろんこんな怪しい見た目なのでこちらから挨拶しても最初は戸惑う様子が見られたが、話しているうちに次第に打ち解けた。一人仲良くなると連鎖的に話す人は増え、少なくとも昨日のようにあからさまに警戒する人へ減った。


 一番の決め手は村の人の手伝いをしたことだろうな。腰を痛めた老人がいて、その人の代わりに重たい物を運んだり作物の収穫を手伝ったりしていたら⋯⋯その様子を見ていた人からの印象が良くなった。そんなところだな。


 一応、打算ありきの行動ではないと弁明はしておこう。


 人助けは積極的に!が、アデルのモットーだった。長く傍にいたから確実に影響は受けていると、自分でも自覚している。気付いたら体が動いていたりするからな、うん。


「そういえば、武器をどうするか考えてなかったな」


 両手で斧を持って丸太に振り下ろす。


 意外と姿勢だったり当てる位置だったりとコツがいるわけだが、この世界で何度とこなした作業なので問題ない。割れた丸太を更に細かく割きながら、ど忘れしていたことをふと思い出した。


 戦争の真っ只中ではないから今すぐにでも必要というわけではないが、旅をするのであれば武器は必要不可欠だ。特に、今の俺は指名手配中だからな。オーストリン王国の兵に見つかったら交戦は不可避。


 もちろん殺す気はないとはいえ、あちらだけ武器を持ってる状況は流石にキツイのでちょっとした獲物は欲しいところだ。


 一応アイテムポーチに投げナイフはあるが、これを武器として使うのは心許ない。俺の愛用していた軍刀をなんて贅沢は言わないが、剣とか置いてないだろうか? いや、流石にないだろうな、こういう小さな村には。


 まぁ⋯⋯最悪、今使ってる斧でも借りたらいいか。


「⋯⋯んー、嫌な感覚だ」


 ズキリと感じた痛みに、思わず作業を止める。


 とっくの昔に癒えたはずの、背中の古傷から痛みを感じた。


 何かを予感させるような鋭い痛み。








「そういや、この傷もアデルを庇った時にできたやつか」 


 ───なにか、起きそうだなこれ。

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