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やり込んだゲームのエンディングを変えるために奮闘して死んだら、続編でヒロインが闇堕ちしてた  作者: かませ犬


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10.折れない乙女

『ふふふ、裸の美女と聞いて鼻の下が伸びておろう』


 いや、下心よりも困惑が勝っているのが正解だ。


 俺と縁深き者と表現するくらいだから、かつての仲間と考えていいと思うが⋯⋯森の中で裸になるような人物はいただろうか?それも女性⋯⋯。


 一人、該当する人物はいる。


 その人物は酒癖が悪く、飲んだら着ていた服を脱ぎ捨てる悪癖があった。ゲームでは表現の都合で上着しか脱がなかったが、この世界ではCEROレーティングなんてなかったので普通に下着まで脱ぐ有様だ。


 何度も注意したが、『酒は師匠の前でしか飲まないから問題ないッス』と意味の分からない返答が返ってくる始末。結局、その悪癖を直すことは出来なかったな。


 ないな。


 候補して挙げてみたが王都や町ならともかく、森の中で酒を飲むような奴ではない。酔わなければ悪癖も発動しないので裸になるようなこともないとなると、彼女は違う。


 その場合、やはり思い当たる人物がいなくなる。こうなると実際に行って会うのが手っ取り早いだろうな。


「王都を出て、東に行けばいいんですね」


『そうじゃ。今すぐ向かうのじゃ!お主の足なら二日もあれば着く。太陽がお主の真上になる頃に森の中へ入れば⋯⋯見れるぞ』


 何をとは、わざわざ聞き返すことはしない。


 場所だけでなく日時まで指定してくるということは、おそらくゲームで起きるイベントか何かだな。常に森にいるわけではない。今のタイミングで、たまたま森にいると考えるべきか。


「今すぐ、ですか」


 これからどうするか悩んでいたのもあって、こうして道標としてヒントをくれたのは有難いが、流石に急過ぎるな。


 アイテムポーチの中には水や非常食は入っているので、向かおうと思えば今すぐにでも行ける。だが、その場合は⋯⋯。


『心配か、あの小僧が』


 タマモさまが仰る小僧とはおそらくロビンのことだ。ロビンは小僧と呼ばれるような年齢ではないと思うが、神様見習いのタマモさまからすれば等しく同じなのかもしれない。


 ロビンか⋯⋯。


 そうだな、俺が今すぐ行動を起こせずにいるのはロビンが心配だからだ。


 俺が王都を離れ一人にした時にロビンが何らかの行動を起こすんじゃないかと、疑っているわけではない。それが出来ないくらい身体が弱っていることを知っているからだ。


 今のあいつが動けない理由である筋肉痛の痛みなんて数日で治まるが、それ以前に衰えた肉体は無理ができる状態じゃない。敵に襲われるようなことがあれば、まず対処ができないだろう。


 だからこそ隠しアジトに身を潜めている訳だが⋯⋯万が一を考えると、ロビンの傍を離れるべきじゃないと俺は思ってしまう。


『安心せい。お主が傍に居らんでもあの小僧は一人で上手くやる。それよりも、どちらかと言えば森での出会いの方が急を要する』


「ロビンは大丈夫なんですね」


『うむ。身に危険が及ぶことはないし、少なくともま(・)だ(・)裏切るようなことはせん』


 ───ま(・)だ(・)、か。


 タマモさまの言い分では将来的に裏切る可能性があるわけだな。ますますロビンから目を離せない理由になったな。


 それにしても念を押すな。


 日時の指定もそうだが、急を要するとわざわざ強調した。俺が行かなければ取り返しのつかないことになる可能性もあるか?


「分かりました。今すぐ向かいます」


『うむ。そうしてくれ』


 ロビンのことは気がかりではあるが、タマモさまの言葉を信じて、俺と縁深き者が待つ森へと向かおう。


「それでは行ってきます」


『気を付けるのじゃぞー』


 タマモさまに別れを告げて、その足で隠しアジトへと戻る。


 急ぐとはいえ要件も伝えずに数日戻らなければロビンも不審に思うだろう。報連相の大切さは社会人の生活で身に染みた。




「好きにしろ。オレ様はどの道動けねぇからな。てめぇに付いて行くことも出来ねぇし、付いていく義理もねぇ」


 用事あって数日空けると伝えたところ、返ってきたのが今の返事だ


「そうだな」


「要件を伝え終えたなら、さっさと出ていけ。オレ様には関係ない」


 相も変わらず俺に背中を向けたままロビンが言葉を放つ。なんというか、少し言葉にねちっこさがある。拗ねた子供のような反応に笑いそうになるが、グッと堪えた。


「分かった、今から行ってくる」


 返事はないが、鼻でフンッと鳴らす音は聞こえた。


 出口に向かって数歩歩いたところで、言い残したことがあると思い出し振り返って告げる。


「お前の身体が万全になったら、次は付いてきてくれるか?」


「───あ?」


 俺の言葉が意外だったのか、背中を向けていたロビンが勢いよく振り返る。顔に驚きの色が浮かんでいる。


「ロビンの力は必要だ。ま(・)た(・)俺に力を貸して欲しい」


 裏切る可能性を秘めてはいるが、ロビンは単純に強い。ゲームにおいても仲間にいる時はパーティーに入れていたプレイヤーは多いことだろう。


 先の読めないこの世界で、戦うためには戦力が必要だ。たった一人で何かをするのも、何かを変えるのも限度はある。仲間と協力して壁を乗り越えていくのがヴァルキリー戦記の醍醐味だ。


 ───そして、出来ればもう裏切らないで欲しい。


 そんな願望の籠った頼みを聞いたロビンが一瞬目を見開いたと思えば、また俺に背中を向けた。


「必要な時に声をかけろ、⋯⋯気が向いたら手を貸してやる」


 なんというか、ロビンらしい返しだ。


 これで『分かった。オレさまが手を貸してやるぜ』なんて言われたら胡散臭くて仕方なかった。絶対裏切るなこいつ、って皆も思うはずだ。これくらいの温度感がちょうどいい。


 ありがとうと、最後に声をかけてからアジトを出た。











 指名手配犯されているとはいえ、王都を出るのはさほど難しくはなかった。あらかじめロビンから抜け道を聞いていたのがデカかったな。


 このスラム街に住む人間の中でも限られた者しか知らない隠し通路らしく、この道を通ることで王都を囲う外壁に阻まれることなく容易に抜け出すことができる。


 正攻法となると、東西南北にある門から出るしかないのだが⋯⋯そこには門番がいるのでそこで一悶着あるのは間違いないからな。


 強行突破は出来なくはないが、後々面倒なので穏便に抜け出せる隠し通路から王都を出て、コンパスを頼りに件の森へと足を進めた。


 その道中については、これといって語ることはないな。道は整備されていたし、巡回する兵が面倒ではあったが、あちらが気付くまでに見つけていたのでやり過ごすことは容易だった。


 スラム街を放置している割に治安を維持する兵がいるのは面白い話だ。その兵のお陰で、賊や獣に襲われることなく安全に進めるので感謝はしておこう。


 日が暮れるまで歩き、夜になったらアイテムポーチから取り出した野営道具を使って夜を過ごす。この世界でもう何百回、何千回と繰り返した作業だ。必然と体は慣れた。


 タマモさまが仰っていた通り、二日ほど歩いていると目的地と思わしき森が見えてきた。背の高い木々が並ぶ深い森だ。


 空を見上げれば雲一つない空に太陽が浮かんでいる。かなりハイペースで進んできたのもあって、太陽が真上に来るまでまだ時間がある。


 待つか?


 いや、森に入ろう。


 タマモさま曰く、太陽が真上に来たタイミングで森に入れば、俺と縁深き裸の美女と会えるらしい。ラッキースケベな展開ではあるが、仮に裸の美女と出会ったとして、嬉しいと取るよりも気まずさが勝つと俺は思う。


 何より初対面の印象が最悪になりかねない。


 ガイド・ルーカスとして出会うなら仲間として過ごした日々のお陰で、多少の好感度の低下で済むだろうが、今の俺は第三者から別人として認識される。


 初対面の男に裸を見られて嬉しいか? そんなやつはとんでもない変態でもない限り存在しないと思っている。そんなわけで、今後の関係性を考慮すれば裸を見ないように行動するのが望ましい。


 ここまでの道中で裸になるシチュエーションとはどのような時か考えた結果、水浴びをしている時じゃないかと思い当たった。


 ヴァルキリー戦記のダンジョンとして登場する森は高確率で泉や川があるからな。ゲームが反映されたこの世界の森なら、必ずあるとみた。


 タマモさまが強調していたから尚更だ。何よりも、水浴びをできる条件も整っている。まず間違いないだろう。


 俺はタマモさまに言われた時間より早く森に入ることで、ラッキースケベな展開を変えようと試みたのだが⋯⋯。


 薄暗い森の道に迷ったのが原因か、はたまた修正力か⋯⋯俺は避けようとしていた展開(イベント)と結果として出くわしてしまった。




「きゃぁぁあ!!!」




 響き渡る野太い声。


 視界に映るのは屈強な肉体。


 丸太のように太く逞しい腕で下腹部と胸を隠しながら、俺を警戒するようにその人物は俺へ視線を向ける。


 腰まで伸びた桃色の髪と、整えられた顎髭。髪と同色の瞳に、細い眉毛。無駄毛のないツルンツルンの肌。


 彼───否、彼女のことを俺は知っている。


 『ヴァルキリー戦記』公式人気投票、堂々の5位。好きな男性キャラ、女性キャラの両部門で3位に入るほどプレイヤーに愛されたキャラクター。


 ゲームの中盤で主人公たちが心配だからとパーティーに加入し、最終決戦まで付いてきてくれるお節介者で、彼女ほど心優しき人を俺は知らない。


「きゃぁぁ⋯⋯?」


「⋯⋯⋯⋯⋯」


 ウロボロスの罠で大切な家族を失いながらも、決して心は折れず⋯⋯絶望を前にしてもパーティーの誰よりも早く立ち直り、皆を鼓舞する頼れる人格者。


 彼女の名はラブリナ。




「なに、人の身体見て無反応決め込んでんだ!ゴラァァァ!!」



 ───『折れない乙女』。ラブリナ・ブロックハート。

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