表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
秘術使いの理想郷─ヴィルヘルミナの物語─  作者: 智慧砂猫


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

59/65

第59話「意地悪な仕掛け」

 一歩も動かずに鍵を取るというのが最初の評価に直結すると分かり、全員が即座に思考をフル回転させる。ヴィルヘルミナは他の面々の出方を窺った。部屋など、どこでもいい。興味がなかった。


「さあ、誰が一番最初に鍵を取りに来ますか?」


 リロイがくすくすと楽しそうにする。最初に動いたのがカエデだ。


「わ、私、出来ます。人形師なので、アルレッキーノくん……!」


 操られた道化の人形は堂々とリロイから鍵を手に入れる。一歩も動かなければいい。あくまでそれは自分に課せられたものであり、人形であるアルレッキーノにはまるで関係がない。条件は十分に満たした。


「ふふ、よくできましたね。では次はだれが僕の鍵を取りに?」


「アタシは取りに行きませんよ。幸いにも目が良くて」


 いつの間にか手の中には魔力で作られた氷の鍵がある。『C』と彫られていて、広すぎても使い辛いからと適当な部屋を選んだ。リロイも、その結論に至るまでの早さと手際の良さを高く評価する。


 問題はフランチェスカとアレックスだ。戦う能力だけは十分だが、動くなと言われると途端に結論が出せないでいる。横で誰かがやったことの真似だけは明らかに減点対象だし、フランチェスカに至っては雷属性以外が使えない。


「んん~っ……!? アタシはどうやって取りゃいいんだ……!?」


「私もちょっと思いつかないな……。他の人の真似はちょっと」


 悩む二人の横で、ヴィルヘルミナはなんと意地の悪い問題なのかと溜息を吐く。


「そこまでで良いだろう、リロイ教授。彼女たちには取れない」


「はて、何を仰っているのです?」


 首を小さく傾げて不思議そうにされて、ヴィルヘルミナがムッとする。


「その鍵束の輪っかには術式が刻んである。盗難防止用だろう、魔力による干渉を無力化する。操られた人形が触れる分には平気でも、魔力自体が接触した瞬間に弾く仕組みだ。底意地が悪いぞ」


 そう、取れない。どう足掻いても動けない時点で奪えない者がでる。わざとリロイはそうした。だがヴィルヘルミナの解説を認めたうえで────。


「そちらこそ、よくご理解されているようですが。分かっているのでしょう、これは思考の問題だ。その場から動かずとも手に入れる方法があるのに、あえて黙っているのではないですか、ヴィルヘルミナさん?」


 こうまで試して来るか、とリロイの狙いに呆れて肩の力が抜けた。


「できなくもない。その術式は不完全だ、強引でなくとも『特定の手段で奪える』ようになっている。候補はいくつかあるが……こいつらが自分で気づくべきだ。これだけ言えば、私は合格でいいかな」


 リロイはヴィルヘルミナをあまりに完璧すぎると評価する。子供とは思えない知識と洞察力。そして誰よりも最初から思考を確定させている。見抜く眼が、まるであらゆる経験を積んできた熟練の魔法使いのそれだ、と頷いた。


「では、あと三分あげましょう。それで答えが出なければ、ヴィルヘルミナさんが教えてあげてください。きっと驚きますよ」


「……だろうな」


 解けるはずがない。それはあまりにもずるいだろうと思った。だが正しくもある。柔軟な思考があれば今の時点で答えに辿り着いているはずだ。ヴィルヘルミナは期待こそしなかったが、知れば必ず成長すると信じた。


「つまりどういうことなんだ……アタシらにも取れるってことか?」


「私には分からないね。魔法を弾くなら手の出しようがない気がするけど」


 思考する三分はあまりにも短い。リロイは頭の中できっかり三分を数えきり、とうとう答えが出なかったのでヴィルヘルミナに目で合図する。


「仕方のない奴らだな」


 指をくいっと動かすと、途端に鍵がカタカタと震え始め、リロイの手から逃げるように離れてヴィルヘルミナの手元に飛んだ。簡単な引き寄せの魔法だった。


「鍵束になっているということは、どこかに掛けてあるのだろう。離れた場所からでも取れるように、引き寄せたりする程度は術式の効果範囲から除いてある。だが問題は、引き寄せの魔法が子供が扱うにはリスクが高い点だ。慣れていないと対象を絞るのが、あまりにも難しいからな」


 鍵束から鍵を外して、輪っかを床に落とす。ヴィルヘルミナはそれから、適当に自分の鍵を選んで、残りをアレックスとフランチェスカに渡した。


「だから、誰かが鍵を取れるのであれば譲ってもらえばいい。一歩も動かずに鍵を手に入れればいい。ただそれだけのルールなのだから。そうだろう?」


 あまりにも卑怯な問題ではないかとフランチェスカがムスッとするが、アレックスはなるほど、とむしろ感心した。これは思考の実験であり、柔軟性を見ると同時に育む最初の指導だったのだと理解した。


「はい、実に素晴らしい解答です。あなたほどの優秀な魔法使いは、これまで特別指導をしてきた子たちの中で見たことがありません。……アレックスさんとフランチェスカさんは残念でしたね。知識は申し分ないのでしょうが、直感と柔軟さに欠けていました。今回はお二人以外に評価点を差し上げましょう」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ