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秘術使いの理想郷─ヴィルヘルミナの物語─  作者: 智慧砂猫


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第58話「エセル寮」

◇◇◇





「にしても、どういうわけだか女子が多くねぇか?」


 ル・フェイ通り特別寮『エセル』の門前に選ばれた五人が集まった。その様子を見て、フランチェスカが何とも言えない複雑な気分になる。なにしろ選ばれた全員が女子であるゆえに、無理もない反応だった。


「フラン、基本的に魔法使いは女性の方が魔力には秀でているものだ。魔力の質になると、また話は変わってくるが、こうなることは十分にあり得る」


 男女による大きな違い。それが魔力そのものの量と質だ。少しでも打ち解けようとしてカエデが小さく手を挙げた。


「し、知ってるよ……。女性の方が魔力が生成されやすいんだよね? 元々、魔力自体が人間の健康状態にも繋がりがあるとされていて、女性は母体として子供を妊娠、出産するからリカバリーのためには必要なことなんだって。……あ、ご、ごめんなさい、早口で。その、本で読んだことがあったから」


 おどおどして落ち着かないカエデの肩に腕を掛けてアレックスが頬を突く。


「博識なのは良いことだぞ、マドモアゼル。私はキミが気に入ったよ」


「ふえっ……!?」


 密着されるのにも褒められるのにも慣れていないので、すっかり顔が茹で上がったように真っ赤になる。ジャックは和気藹々とした空気を冷たく見つめた。


「皆さん、楽しそうなのはいいんですけど、此処に入る意味分かってます? そんなふうに気楽に構えていると、すぐに追い出されますよ。成績次第では特別寮から脱落することもあるんですから」


 そんな制度は知らなかった、とフランチェスカとアレックスは仰天した顔をするが、ヴィルヘルミナは自分がそこに数えられることはないと分かっているので、砂粒ほどの心配さえしていない。


「そうやって言うが、お前こそどうなんだ。認定戦のときの行動は評価として低くなるものだと思ったんだが、まさかそれは成績に入らないと?」


「言ったでしょう、寸止めをするつもりでした。失敗はあり得ませんよ」


 革のケースに入った剣の柄をぽんぽんと叩いてジャックはにっこり笑う。


「あんなものは余興じゃないですか。アタシより強いからといって、そんな態度のままだと追い抜いちゃいますよ? これでも腕は良いので!」


 自信たっぷり。年相応の少女らしい一面もあるのか、とヴィルヘルミナは興味深そうにしながら、ニヤッと返す。


「良い挑戦だ。追い抜いてくれるのを待っていよう」


 どうあっても崩せない表情にジャックは些か悔しさを覚える。いつか絶対に堂々した表情を泣きっ面にしてやるとひっそり誓った。


「おや、皆様お揃いですね」


 生徒たちよりも遅れてやってきたのが、魔塔から派遣されてきた特別指導員に選任されたリロイ・デヴォン。背が高く、他の魔法使いたちと違って、魔塔でもウォルターやジャクリーンが着るような立派なローブを纏った。


 オールバックの金髪に丸い眼鏡。少しこけた頬とやつれた顔つきで、どこか眠たそうにも見えるが、人当りは良いのかニコニコと穏やかだ。


「えっと鍵、鍵……。すみません、待たせてしまって。挨拶をしたいところですが、外もまだ肌寒いですから中で話しましょう。そろそろ六月に入りますし、今度は暑くなってくると思うと嫌になりますね、ハハハ」


 気さくだが、どこか抜けているらしく、ポケットの中をあちこちまさぐって、ようやく鍵の束を見つけると門を開けた。魔塔の管理といえど、担当になるまでは特に触れたりするわけでもないので、リロイも慣れていなかった。


「アタシらはなんて呼べばいいんだ? リロイ教授?」


「リロイでもデヴォンでも、お好きなように。皆様と仲良くなれるのでしたら、呼び捨てでも構いませんよ。僕もそういうのは嫌いじゃありませんから」


 邸宅の玄関ホールで、リロイがぱちんと指を鳴らすと急激に室内の気温が上昇する。「本来の専門は日常に使える魔法なんですよ」と鼻を高くする。周囲にはあまり注目されないが、非常に重要な研究分野だ。


「さて、それでは部屋を取り合う前に改めて自己紹介から済ませましょう」


 ぱんぱん、と手を叩いて注目を集め、リロイは優しく微笑む。


「僕の名前はリロイ・デヴォン。平民出身ではありますが、それなりに腕はあると自信があります。年齢は四十三歳。好きなものは甘いものです。特にバウムクーヘンなんかはよく食べています。皆様と健全で温かい関係を築けたらと思います」


 目を瞑り、小さくお辞儀をする。個性的な面々もリロイに倣ってお辞儀を返す。それから、各々の自己紹介が始まった。生徒のことなので十分に把握はしているが、本人たちの口で言わせることで、挨拶の基本を覚えてもらおうとした。


「(ふむふむ……。ウォルターさんの評価ではカエデさん以外は授業態度が軒並み低評価でしたが、挨拶はできていますね。最低限の常識は問題なし、と)」


 話を聞き終えて、リロイは鍵束を手に提げると小さくじゃらっと鳴らす。


「ありがとう、皆様のことを知れて僕も嬉しいです。さて、此処には部屋の鍵があります。実を言うと、それぞれの広さが違います。『A』から順に広く、最終的に『E』では基本的な寮と変わりません。ですので────」


 少し高めに鍵を掲げて、リロイが悪だくみの笑みを浮かべた。


「その場から一歩も動かず、皆様は自分の欲しい部屋の鍵を取って下さい」

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