第57話「選ばれた五人」
認定戦に選ばれた魔法使いの卵たちは、祈る者もいれば最初から落胆する者もいる。他の選手を見て『自分では無理だ』と悟ってしまうと、もうやる気は最初からない。いっそ台無しになってくれればと邪なことを考える者もいた。
「発表する順番に優劣はありません。審判団である我々五名がそれぞれ、推薦すべきと判断した魔法使いの名を呼びます。まずは審判団の監督としてウォルター・フィッツウィリアムが推薦する者は────ヴィルヘルミナ・デヴァル。実力は疑いようもありません。彼女を差し置いて他の者は選べないでしょう」
その場にいた誰もが、それはそうだろうと納得する。派手さはなく勝負の決着も早かったが、なにより繊細で美しい勝ち方だった。そのうえ三年でも成績優秀なオリバーを無傷で下す者が推薦を受けないはずがない。
「次に審判団のジャクリーン・ラッセル。推薦する者の名を」
「はい。わたくしが推薦致しますのは……アレックス・ド・トゥール。少ない魔力でありながら、自分より強く大きな敵を倒すのは実に痛快でございました」
名前を呼ばれてアレックスが跳びあがりたいほどの喜びをぐっと抑えて椅子から動かない。ヴィルヘルミナは肩を優しく揺すって「良かったな」と讃えた。落ちこぼれだと呼ばれた少女は、見事に未来をつかみ取ったのだ。
「次にジョー・ブルース。推薦する者の名を」
原則的に弟子は推薦できない。ジョーは名簿を見てから────。
「俺が推薦するのはジャック・レルヒェンフェルト・バラライカ。ちっとやりすぎなところもあったが、実力は確かだ。コイツは外せねえと思った」
席から立ちあがったジャックがニコニコと周囲からの拍手にお辞儀をして座り直す。成績トップの魔法使いともなれば、皆も予想がついていた。
「さて残り二枠です。バルロア・グランサム。推薦者の名を」
「……私が推薦するのは、フランチェスカ・アランデル。雷属性の魔法を使いこなしていた。流石はジョーの弟子といったところか」
ヨシッ、とフランチェスカがガッツポーズをして立ちあがり、拍手の中で拳を掲げて選ばれたことを存分にアピールして席に着く。
最後のひとりは誰が選ばれるのか、皆が緊張する。せめて自分であれという自信家たちは、今にも心臓が握り潰されそうな想いだった。
「最後の枠ですが、リロイ・デヴォン。推薦者の名を」
丸い眼鏡を掛けたオールバックの男が、眠たそうな目で言った。
「僕の推薦者はカエデ・ロザミアです。人形を遣う魔法が独特で素晴らしかった」
ヴィルヘルミナたちからは遠く離れた席で、祝福されるのに戸惑いながらもカエデがぺこぺこと頭をさげていた。そもそも勝てると思っていなかったのか、自分が選ばれたことに驚いている。
「カエデが選ばれるなんてすげーな。アタシらの寮長って実はすごい?」
「当然だろう。魔導人形師は誰にでもなれるものではない」
「え、そうなの!?……あ、いや、待てよ。そういや人形持ってんの、カエデしか見たことないな。そうか、マジでか……すげぇんだな」
魔導人形師は数が少なすぎて、ウォルターが使う拳銃と似たような理由で実用性がない。いちいち使う人形を運ばなければならないし、操るには各部位を全て魔力の糸で制御しなくてはならないので、技術だけでもかなり高度なものになる。
結局、ヴィルヘルミナも使い物にならないと判断して研究をやめたものであり、使いこなせるものは千年前にさえ誰一人といなかった。
「見事なものだ、魔力の糸の数が異常だった。人形をまるで生きた人間を見ているようで感心したよ。……デザインが道化なのは、ちょっと趣味が独特だが」
ヴィルヘルミナのなんとも言えない気持ちにアレックスも頷く。
「すごく目立ってたよね。私は寮が違うから見掛けたくらいだったけど、正直言って本人はかなり暗い色をした服を着てて地味だから、なんだか対極というか。もしかすると、あれが彼女の本心だったりするのかな?」
「明るくありたい、というわけか。まあ、それはそれで納得はできそうだが」
雑談も程々にウォルターが閉会式を宣言して、トラブルもあった認定戦は無事に幕を下ろす。演舞場に集まっていた生徒たちは大会の熱気に楽しさを覚えて帰っていき、残ったのは合格者として選ばれた五人とウォルターたち、魔塔の審判団だけとなった。静かな空気に、リロイが眼鏡を僅かに持ちあげて────。
「本当に優秀な生徒さんたちだ。このまま魔塔に引き抜くべきでは、ウォルター? 最低でも二年は待たねばならないだなんて」
「ええ、まったく同意見です。去年の三年生たちも中々でしたが……」
大人顔負けの実力を見せつけた魔法使いたちは、既に一流の域に達している。これからが楽しみだとウォルターも嬉しそうにする。
「皆様、お疲れ様でした。そして合格おめでとう。あなたたちの道は大変険しいものとなるでしょうが、どうか今日のことを思い出して、苦しいときも前に突き進んでください。……若干一名、あまり興味はなさそうですが」
こんなときくらい笑顔のひとつでも作ってほしいと、師を想うウォルターであったが、当の本人には、まったく響いていなかった。
「こほん。それでは、皆様が寮を移るのは三日後です。寮を移れば、これまでとは違って狭いコミュニティを形成して、魔法に打ち込む日々が来るでしょう。それまでに荷物を纏めたり、友人たちと目いっぱい遊ぶなりして備えてください。────我々はあなた方が魔塔へ来る日を心待ちにしています」




