第54話「圧倒的な輝き」
想像だにしない波乱の展開で幕を開けた認定戦は、その後も盛り上がっていく。アレックスの勝利という、必然であり奇跡にも見えた結末は観戦する側の期待をくすぐり、順位が全てではないと証明した。
その後、エリアスとフランチェスカも危なげなく初戦を突破。残るは第二ブロック。注目されたのは、初戦となるヴィルヘルミナとオリバーの試合だ。控室でのひと悶着は既に囁かれており、審査員たちも耳を傾けて期待をかけた。少々困った様子なのは素性を知るウォルターだけだ。
舞台にあがったオリバーは軽く飛び跳ねたり手をぷらぷら振ったりして、体を温めながら対面に棒立ちするだけのヴィルヘルミナを強い敵意で睨みつける。
「おい、一年。謝罪の言葉は考えてきたかよ」
「……? ああ、考えてないよ。猿には伝わらないだろう?」
「このクソガキ……。いいぜ、その顔をボコボコにしてやる」
「ん。威勢は良いな、及第点だ。実力が伴えばより良い」
試合の開始は選手である二人に委ねられている。挑発を返されて腹を立てたオリバーが、先に仕掛ける形となって試合が始まった。
使用する魔導具はがっちり嵌った金の腕輪だ。魔力効率を高め、あらゆる魔法の性能を底上げする。体育会系の鍛えられた肉体からは想像もできない俊敏さを持ち、身体強化魔法によって魔法の高速戦闘を実現させる。
得意の魔法も体術を絡めたものではなく、魔力そのものを放射する無属性魔法。自由に軌道を操れる放射された魔力は光弾や光線のようにヴィルヘルミナを狙う。高速軌道からの全方位射撃。ひとつひとつの威力も大きさも、躱しきれるものではない。防御を誘い、死角を探して敵を討つ。それがオリバーの戦い方だ。
「(ヘッ、一年坊にはない経験の差って奴を見せてやるよ!)」
見た目や態度とは裏腹に、オリバーは魔法に対してひたむきである。元々不器用な男が、努力でそれを覆して三年になる頃には認定戦に出られるまで成長した。それを否定するかのように現れた超新星とも呼べるヴィルヘルミナを前に、腹立たしさと羨ましさが、なおさら激情に駆り立てた。
「最初に言ったはずだ、私が言ったことは謝罪すると。だが、それとアレックスを突き飛ばしたことはまったく別の問題だ」
薄い魔力の壁。無数の襲い来る光線を的確に弾く自己防衛機能。ヴィルヘルミナは立っているだけで要塞の如き鉄壁ぶりを発揮して、オリバーの攻撃を防ぐ。魔法を使う動作もなく、高速機動で攪乱しようとする相手に目もくれず。
「は……! なんだよ、それ!」
「何を笑っている。絶望でもしたか?」
オリバーは足を止めると、振り向きもしないヴィルヘルミナの背中に言った。
「逆だよ。さっきまで俺はお前が腹立たしくて仕方なかった。眉唾な噂も信じられなかった。俺だってジョーさんには何度も挑んで、何度も負けた。あの人を倒せる奴なんてガキにはいないと思ったからな。……お前、マジで強ぇな」
今まで何人を倒してきたか。何人を超えてきたか。自分の強さを実感してきてなお立ちはだかる大きな壁にぶち当たったときは悔しさと嬉しさを感じた。その壁を後から来た誰かが容易く乗り越えたと言われて、信じたくなかった。
だが、分かる。直感ではなく実感で。勝てない、と。噂が真実だったのかどうかは分からない。だが、もし事実でなかったとしても、肉薄した戦いにはなったはずだ。それくらいの差をヴィルヘルミナに感じた。
「潔い。お前は成長できるぞ、オリバー。お前を少し辱めてやるつもりだったのだが、取り下げよう。────魔力放出だけで戦える者は少ない。ここで見るべきものはないと思っていたが訂正する」
ヴィルヘルミナの周囲に無数の光の渦が現れる。ひとつずつは威力が極端に低く、感じられる魔力も微弱なものだ。ウォルターの設定した魔力上限の限界ぎりぎりまでを使い────威力ではなく速度に特化した魔法を放った。
「嘘だろ」
想像しなかった光景に、思考が僅かに詰まった。足を止めた。そのせいで、反応が遅れた。回避行動に移ったときにはギリギリで、挙句、渦からは何発も光線が小刻みに襲い掛かった。全ては躱しきれず、一発が掠ったのを皮切りに被弾が増えていく。身体強化魔法による性能の向上はダメージを最小限にしたが、それでも、幾度も直撃しては次第に耐え切れず動きが鈍っていく。
ようやく攻撃が止んだときには、オリバーの身体はぼろぼろだった。
「俺と同じ魔法なのに、なんでそんなに……」
「まあ、基礎的な魔力の量が違う。お前は平均的だから無理ができないだろう。金の腕輪はそのための補助具のはずだ。選択は悪くない」
ヴィルヘルミナはあごをさすりながらオリバーを観察する。
「基礎的な魔力の量を増やしたいなら、まずは腕輪を外せ。そんなものに頼ると、お前の体内の魔力生成量はむしろ今の環境に順応して減ってしまう。もっと限界まで吐き出すつもりで魔力を使ってみろ。僅かずつだが効果がある。それから、」
決着はついた。ニヤッと笑って背を向け、手をひらひら振って────。
「ジョーは倒したぞ。中々に強い奴だった」
なんとか立っていたオリバーは、途端に気が抜けてどすんと座り込む。
「……なんだよ、チクショウ。ああ~、くそっ。出直しだなぁ!」
魔法の世界は実力主義。年齢だの、外見だの、出自だの。そんなものに左右されるほど甘くはない。圧倒的な差を前にオリバーはむしろ爽快だった。




