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秘術使いの理想郷─ヴィルヘルミナの物語─  作者: 智慧砂猫


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第51話「最悪の控室」

 冗談を言い合い、第一校舎へ勇ましく向かう。子供の遊び程度に考えての参加であるヴィルヘルミナも、できればアレックスかフランチェスカとの対戦がしたいと望んだ。その方が自分の技術を如何なく伝えられる、と。


 第一校舎に移った二人は、入口で待っていた三年担当の教授に案内されて控室に入る。通されたのは第二控室。既に学年問わず、控室に案内された生徒たちが、今か今かと緊張感の面持ちで待機していた。


「む、なんだ。注目の的か、私たちは」


「違うよ。キミだけが注目の的なんだ。ジョー教授、倒したんだって?」


 ぎくっとしてヴィルヘルミナが固まった。


 集まる視線が好奇心と敵意に塗れていることの理由を知り、溜息が出た。


「喋ったのか、フランの奴」


「ってことはあの噂本当だったの?」


 周囲の視線が外れて騒がしさが息をし始めると、ヴィルヘルミナは小声で、隣にいるアレックスに聞こえるように────。


「嘘だと思うなら本人に聞いてみろ」


「うげ……。グランサム家でもキミの戦いぶりは見たけど、やっぱり怪物だな」


「お前もそうなれる。少なくとも、今ではないがね」


 もしもアレックスが魔導武拳を完璧に使いこなせるのなら、これを超える使い手はいないだろうと想像する。開祖バヌクは、他の魔法使いに比べれば魔力の量は少なかったが、アレックスほどではなかったのだから。


『なあ、アルベル。もし、この先、俺より魔導武拳を扱える奴がいたとしたら、そいつはきっと魔力をほとんど持たずに産まれてくる奴だろう。そのときに俺がいなければ、お前が伝えてくれないか。この身体では長生きも望めんのだ』


 結局その通りになってしまったことが癪だが、とヴィルヘルミナは懐かしいような腹立たしいような気分になった。それでもアレックスに可能性が秘められているのは嬉しいことだ。誰かが確立した技術を伝えられる者がおらず、伝えられたとしても習得できないのであれば、いつかは廃れて消えてしまう。


 いくら優れていようと風化していく現実に勝ることはない。アレックスが魔導武拳を習得できれば。ヴィルヘルミナの見様見真似ではなくなれば。多くの魔力を持たず希望を感じなかった者たちの光となれるのは間違いない。


「(……問題は、こいつがあれから成長したかどうかだが)」


 多少のコツは教えた。だが、一朝一夕で覚えられるほど簡単なものでないことも確かだ。アレックスのように知識と工夫のできる者ならばあるいは、とも考える。試合の中で見極めてやろう、と控室の生徒たちを一瞥する。


「うむ、まだ新芽ばかりか。実力を量るには些か差がありすぎるな」


 誰も彼も、真面目なのは分かるが磨かれていない。原石ばかりで、アレックスのように可能性を感じるには、まだまだ研鑽を積む必要のある者だらけだ。他の控室もそうなのだろうか? とヴィルヘルミナは首を傾げた。


「おいおいおい。そりゃいけないぜ、嬢ちゃん。俺たちだって苦労して此処に来てんだ。言葉は選んだ方が良い。先輩方に失礼ってもんだろ?」


 よくわからない、どこかオラついた印象を感じる体格の良い三年の生徒がヴィルヘルミナの言葉に青筋を立てて詰め寄った。他の生徒たちも、脅すのはどうなのかと思いつつも感じていることは同じだ。苦労して選ばれたのに、レベルが低い。学院全体を敵に回す発言ではないか。そう言いたそうな視線が集まった。


 大会前に喧嘩はマズいと思い、慌ててアレックスが口を挟む。


「すみません、この子は言葉遣いに難はありますが意図するところは違うと思います。どうか後輩の顔を立てるつもりで大目に見てあげてもらえませんか」


「うるせえな、引っ込んでろ! 用があんのはこっちなんだよ!」


 両手で追い払うように突き飛ばされ、アレックスが尻もちをつく。見ていたヴィルヘルミナの無表情が一変して、目を見開いた。


「猿め、偉そうに。いい加減見飽きたな、お前のような奴は」


「……あ?」


 睨んで凄まれてもヴィルヘルミナは顔色ひとつ変えない。


「先輩だの後輩だのと……だから新芽なんだ。生きてることを後悔させてやろうか?」


 殺意が滲んだ瞬間、スカートの裾をぎゅっと掴まれてアレックスを振り返った。


「構わないよ、私は平気だから。今ここでキミが暴れたら台無しだ、やめたまえ」


「……お前がそう言うのであれば」


 剣を鞘に収めるように怒りを鎮めて、ヴィルヘルミナは三年の男子を睨む。


「誤解を招いたのは謝罪しよう。お前たちには成長の余地があるが、まだ子供だと思ったことが口から零れてしまった。だが────お前がアレックスに手を出したことだけは許すつもりはない」


 男子生徒も、小柄なヴィルヘルミナが偉そうに言うのを舌打ちして耐えた。認定戦のために全員が鍛え続けてきた。態度が悪くとも、それは変わらない。ここで全てを台無しにするべきではないというアレックスの言葉に共感した。


「俺は三年のトレバーだ。トーナメントで当たったら覚悟しろ、クソガキ」


「その威勢だけを受け取っておこう」


 空気感が最悪の中、換気をするかのようにウォルターが顔を覗かせた。


「皆さん、開会式とトーナメント表の発表がありますから、演舞場へ移動……おや、何かありましたか? ちょっと空気が悪いような……。まさか煙草でも?」

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