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秘術使いの理想郷─ヴィルヘルミナの物語─  作者: 智慧砂猫


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第50話「選抜」

◇◇◇





 ────ついに認定試験の日がやってきた。魔法使いの卵たちが鎬を削り合い、自分の方が優れていると証明し、さらなる高みを目指すための機会。


 だが、全員が参加できるわけではない。一年から三年までの学徒の中でも成績の優秀だった合計六十四名によるトーナメント戦であり、第一校舎の演舞場──ヴィルヘルミナがジョーと戦った場所──での開催となる。


 選ばれるためには実技、筆記だけでなく授業態度なども点数として重要だ。その全てを満たした者が学年ごとに選抜され、認定戦を行う。


「それでは、一年からの代表をお伝えします」


 教室でウォルターが名簿を手に、眼鏡の位置を指先で正してから────。


「まず初めに言っておきますが、今回の評価で最も私が重要視したのは授業態度と実技です。筆記はあなた方の記憶力に依るところで勉強をしなくても覚えているなんてことはよくある話です。しかし、実践と態度はこれまでの生活でどう過ごしてきたかが現れますからね。知識はあるのに魔力が上手く扱えない。分かりもしないのに態度が悪い。こんなことでは、認定戦に出すには恥ずかしいですから」


 生徒たちは真面目な表情を浮かべる。皆が分かっていることだ。家柄や才能に甘んじたりはせず、努力を積み重ねてきた者たちの顔は期待と不安と緊張に満ちている。ヴィルヘルミナのようにふわっとした雰囲気は誰もいなかった。


「それでは、名前を呼びます。後に呼ばれるほど成績の良い方なので、自分の名前が中々呼ばれなくても、希望は捨てないように」


 名前が呼ばれた生徒は歓喜に満ち、人数が減るごとに名前の呼ばれない生徒は緊張と不安が胸中に渦巻き始めた。中には、自分より成績の良い友人の名が呼ばれたことで自分は選ばれなかったと理解して落胆する者もいた。


 そうして残り五名を切った頃。


「アレックス・ド・トゥール」


「えっ!」


 思わずがたっと立ちあがり、ヴィルヘルミナが鬱陶しそうに横目で見た。


「わ、私が選ばれたんですか」


「魔力が殆どないのに、あなたはその運用方法について正しく理解しています。十分、認定戦に出るに値すると判断致しました。何か問題でも?」


 アレックスは顔を紅くして、少し目立ってしまったことに恥ずかしそうにしながら席につき「なんでもありません」と答えて、嬉しさを隠し切れずに口端がぴくぴくと動く。今にも油断して笑みを浮かべてしまいそうだった。


 だが教室の空気はアウェーだ。アレックスの実力を疑うようなひそひそした声が聞こえてくる。「あれが通ったって本当?」「まさか点数でも買ったんじゃ」「貴族だからありえない話じゃない」などと囁かれ、魔力もほとんど持たない人間が選ばれたことに対する疑念が場を支配する。


「ウォルターの言葉を疑うとは随分と魔法使いとして成熟した連中のようだな。審美眼がよく磨かれている。そう思わないか、アレックス?」


「……ははっ、キミは優しいことを言ってくれる。大丈夫、気にしてないさ」


 いつもいつも、居場所なんてない。魔力がないくせに魔法使いに憧れる人間は場違いだと皆が思っている。だからアレックスは諦めていた。認められるわけがない。彼らは自分たちの信じられないものを信じようとしないから。


 しかし、その声にウォルターが溜息を吐き、生徒たちを一瞥する。


「静粛に。あえて口汚く言わせて頂きますが、皆さんは未熟な魔法使い見習いです。その程度の知識と実力しか持たない分際で他人の能力に嫌疑と嫉妬の鎌を首に掛ける暇があるのなら、もっと努力しなさい。自分たちの才能に泥を塗り、これからの道をより険しくしたいというのであれば別ですが」


 すっぱり切り捨てられて、教室は静まり返った。ウォルターは他人の才能を認めない人間が嫌いだ。ヴィルヘルミナ譲りとも言える性質は、教える立場になるとより鮮明化して、子供たちに対しても容赦なく突きつけられた。


「では続けますので、そのまま静かでいてくださいね」


 順調に進み、最後の一人となる。誰もが気になる一年で最も優秀な魔法使い。誰がと考えるまでもない。わかりきったトップの名が呼ばれた。


「ヴィルヘルミナ・デヴァル」


 文句なしの一位。誰よりも簡単に魔力を操り、誰よりも知識に優れ、選ばれても不自然ではない。授業態度は不真面目そのものだったが。


「以上、名前を呼ばれた方々は第一校舎で認定戦参加者の控室の用意がありますから、そちらに移って下さい。それ以外の方々は第一演舞場へ移動です。私は準備がありますから、これで失礼致します」


 ホームルームが終わり、一番試合が見やすい席を選ぼうと生徒たちは楽しそうに教室を出て行く。ヴィルヘルミナはあくびをしながら席を立った。


「行くぞ、アレックス。認定戦、頑張ろう」


「もちろんさ。他の皆をぎゃふんと言わせてやるとも」


 気合十分のアレックスを見て、杞憂だったかと安心する。せっかくの才能が、些細な事で潰されることを危惧していたが、そう気にするほどではなかった。


「あぁ、でもトーナメントだから、運悪く私と当たったときは潔く諦めてくれ」


「諦めなくても負けるだろ。土下座するよ、勝たせてくださいって」

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