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秘術使いの理想郷─ヴィルヘルミナの物語─  作者: 智慧砂猫


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第39話「近い境遇を生きた男」

「前にも話をしてたね。改めて聞くけど、それって何?」


 聞きなれない言葉に尋ねると、ヴィルヘルミナが懐かしさに語った。


「バヌク・マルスという男が編み出した、身体強化を軸に、少ない魔力のみを操って戦う体術の型だ。お前にはぴったりの技術だよ」


 誰とも知らない名前が出てきて、アレックスが首を傾げる。


「バヌクなんて聞いたことないよ。どこの魔法使い?」


「さあ。千年前ならいざ知らず、今の時代では生きてはいまい」


「千年前って……。あっ、もしかしてアルベルの時代の!」


 察しが良い奴だとヴィルヘルミナは頷いて、期待を持たせるように話す。


「魔導武拳の開祖であるバヌクは、千年前の最強だったアルベルに比肩する。そいつは生まれつき魔力をほとんど持たなかったが、その知識と技術だけであらゆる魔法使いの常識を覆した、まさにお前のような境遇を生きた男だよ」


 そうだ、と思いついてヴィルヘルミナが手を叩く。


「せっかくなら、お前に使ってみて欲しいと思ったんだ。まあ、気に入らなければ学ぶ必要もあるまいが、お前の気が乗れば教えてやろう」


 自分には扱いきれない技術だ。魔力を多く持った者が極めて少ない量の魔力を操るというのは、ミクロの世界に足を踏み入れるに等しい。ヴィルヘルミナは魔導武拳を扱えるだけの技量はあるが、操るまでには届いていない。


 唯一、人間の能力が高いがゆえに触れられなかった技術だ。だからこそ、相応しい人間がいるのなら、その者が受け継げばいいと思った。それが信頼できる人間ならばなおさらに。


「そんな人がいたなんて知らなかったなぁ。これでも結構、歴史には興味あるんだ。色々調べたつもりだったんだけど……」


「バヌクは三十五歳で死んだからな。優秀だったが、無理が祟ったんだろう」


 魔法に対する熱心さは評価に値するものだった。ヴィルヘルミナが認める数少ない人間であり、中でも一度は腕を折られたこともある。なんとなく、その瞬間の光景を思い出して腕を擦った。


「魔導武拳は敵の魔力の流れを読み、必要最低限の行動のみで受け流したり、反撃するものだ。それを完成させるためには実践を繰り返す必要がある」


「……あぁ、死んだってそういう。随分と酷使していたわけだ」


 なるほど納得とアレックスも頷く。受け流しと反撃は相手の攻撃が来ることが前提の技術だ。そのためには実践あるのみ。にも拘わらず、元々の魔力が極小でありながら、遥かに大きな魔法などに対応する技術を磨くのは楽な話ではない。バヌクはどのような失敗があろうとも、自らの考案した魔法を磨きあげるためならば、肉体の負荷など度外視する傾向があった。


 それゆえの限界。バヌクの技術は数名の弟子に受け継がれたが、それが千年先まで残ることはなかった。否、五百年先でさえ保てなかっただろうとヴィルヘルミナは結論を抱く。魔導武拳は操れる者が限られ過ぎていた。


「私は、あの男が作りあげた魔導武拳が誰も受け継がれなくなるのは勿体ないと思う。世の中には殆ど知られなかった、ある種の秘術とも言えるものだから」


「そっか……。でも、それならどうしてキミは知っているんだい?」


 使い手が生まれず廃絶してしまったものは、文献にそう残らない。ましてや、名もなき魔法使いの扱いきれない技術など、なおさらに。


 アレックスの最も愛する知識として歴史は最初にあがる。魔法の根底にある、最も古き知識だからだ。千年前、全てが変わる切っ掛けだった戦争を経て、多くの魔法使いが後世に名を残した。その筆頭がアルベルと、少ない弟子たち。他にも著名な魔法使いの名はいくつもあげられたが、バヌクという人物についてアレックスが知っていることはなにひとつない。魔導武拳の名でさえも。


「古い技術だとしても、そんな限られた人間しか扱えないものなのだとしたら、人の目に晒される機会は少なかったはずだ。だから誰も遺せなかったのかもしれない。でも、そうするとキミが知っているのはおかしい。逆に誰かが遺したとしても、その技術に関する本を私が見逃すなんてありえない」


 自分に最も向いた魔法技術。それがあればド・トゥールで見下されることもなかったであろう、喉から手が出るほどに欲しかったものだ。しかし、世に出された歴史書は全て読んだと自負があるほど、アレックスは幼少から時間を費やしてきた。それをヴィルヘルミナが知っているのが、あまりに不自然に感じた。


「……む。知りたいのか?」


「もちろんさ。私が知らない古文書でもあるのなら見せてもらいたい」


 デヴァル子爵家も名のある貴族だ。その権力を以てすれば、機密に近い古文書を読むことができたのかもしれない。アレックスは、もしそれが可能なのであれば自分も見せてもらいたかった。


「ふむ……。そうか、なら、放課後に時間はあるだろうか」


「時間ならいくらでもあるけど。どこか連れてってくれるのかい?」


「ああ。────グランサム家当主と決闘の予定が入っているんだ」

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