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秘術使いの理想郷─ヴィルヘルミナの物語─  作者: 智慧砂猫


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第34話「私も仲間に入れておくれ」

◇◇◇




「また、私だけが、除け者だったというわけだね?」


 心底から不服そうな笑顔のアレックスに、気まずさから二人は視線を逸らす。


「別にアタシのせいじゃねえって……。二年だぞ、校舎が違う」


「私もウォルターに呼ばれたから抜けただけで……」


 段々とお馴染みの登校風景。生徒たちは皆が気の合う友人らと共に校舎へ向かう。ヴィルヘルミナは、すっかり仲良くなったフランチェスカとアレックスの三人での登校が当たり前になった。


「まったく驚きだよね。キミたちが私という親友を除け者にするだなんて。ああっ、どうしても私を傷つけたくなかったんだね、マイフレンド!」


「なあ、こいつなんかヤバいもんやってねぇよな?」


 フランチェスカが苦笑いするほど劇の演者もかくやの大げさぶりで、思わず寂れた背景まで見えてきそうな勢いのアレックス。最初こそ気が合いそうだと思った相手だったが、どこかテンションの高さに追いつけず、明るいがおとなしいフランチェスカとの距離が近くなった。


「そういうヤツだろう、気にしたらこっちが疲れるだけだ」


 親友である同級生の冷たいひと言に、アレックスがピクッと反応した。


「ひどいな、キミは。私がどんな思いでノートを取っていたと思う?」


 ずいっ、と行く手を塞ぐように前に立って顔を近づける。あまりに強く迫られるものでヴィルヘルミナも思わずたじろいでしまった。


「いくらキミが授業に興味がなかろうと、ノートを取って筆記試験に備えなくちゃならない。キミは神様みたく全知全能なのかい? 違うだろ?」


「……う、む……。実にすまない」


 わかればよろしい、と頷いてアレックスは素直に引き下がった。


「大体、あのあとキミたちのせいで午後の授業が空いてしまったから、私だって受けたかった授業がなかったのは残念だったんだ。ネイロン教授の件といい、入学してから喧嘩ばかりじゃないか。私はキミが心配だよ、マドモアゼル。学院に馴染むにしてはあまりに目立ち過ぎだ。もちろん、悪い意味で」


 身振り手振りで大げさに話す光景に慣れてくると、大して気にもならない。仕方ないなとヴィルヘルミナは肩を竦めた。


「わかった、わかった。次はお前にも頼ることにするよ」


「……! あぁ、それは名案。これでキミとお近づきになれる」


「魔法以外のことになるとメンタル強いんだな、お前」


 ちくりと刺されてアレックスが口笛を吹いて誤魔化す。それでも、以前までとは違う。自分に才能がないと決めつけ、魔法学院にやってきたのも知識を増やすためだったが、今は逆だ。才能は誰でも持っていて、知識はそこに付随するものだと。


「私だって色々考えるさ、ふざけているようでもね」


「中身のない頭で考えるのは疲れるぞ」


「キミってときどき私に対して辛辣すぎない? いや、いいけど」


 これはこれで楽しい、とアレックスは思う。ヴィルヘルミナは初対面のときからどこか壁を感じていた。友人とは言ったものの、近づきがたいところがあった。今は、それがいくらか柔らかくなった気がした。


「ところでよ、ヘルミーナ。お前、初日以外は髪をセットしなくていいのか」


「あんな面倒な髪型を自分で? 嫌だな、時間の無駄だ」


「じゃあ初日は誰かにセットしてもらったってわけだ。専属侍女とかに」


「うむ。他人にやってもらうのは嫌いじゃない。髪を触られるのは心地よかった」


 大事な侍女がいた。入学から数日後に手紙が届いて以来、すっかり連絡を取っていない。アメリエは元気にしているだろうか、と空を見上げた。


「ンじゃあ、誰かにしてもらえば? カエデとかそういうの得意だろ」


「ふむ……。あちらが嫌でなければ頼んでみるのも悪くないな」


 そうだ、とアレックスが半歩前を歩いてヴィルヘルミナを振り返った。


「ねえ、私にもできるよ。昔、よく妹にしてあげたものさ」


「ん? お前、妹がいるのか?」


「実はね。ひとつ違うだけの、私よりずっと出来の良い妹がいるんだ」


 表情に影が差すと、アレックスは都合よく到着した学院の門前でふたりと別れた。「アタシはこっちだから、また後でな!」と元気よく挨拶を交わしたものの、気まずい空気を全部ヴィルヘルミナに押し付けた。


「(……あいつ、聞きたくないから逃げたな?)」


 暗い話は聞くだけで、同じように気分が沈む。特に、その人間の人生に大きく関わるのであればなおさらだ。耳を塞ぐものでもないと諦めた。


「で? お前の出来の良い妹とやらは?」


「今年、学院を卒業したよ。特例の入学許可があってね」


「……なるほど。確かに才能は誰にでもあれど、差はつくものだが」


「だろ。だから私はド・トゥールの家に居場所がなかった」


 教室に着くまでの空気が重い。慰めの言葉も出てこない。


「だから此処にいる。才能では劣っても、好きなものの知識では負けたくない」


「うむ。それは良い心がけだな。知識も十分、魔法には必要なものだ」


 教室に着き、机にどかっと鞄を置いて、ヴィルヘルミナは言葉を続けた。


「魔法の最もたる要素として魔力が最重要に見えるが、それは大きな勘違いでな。……と、そのあたりのことは授業で習うだろう」


 ちょうどホームルームの時間が来る。お喋りはまたあとでしよう、とヴィルヘルミナが軽く頷いて合図をすると、アレックスもそれがいいと笑顔だ。暗い話をするわりには大して気にも留めていなかった。


「おはようございます、皆さん。全員揃っていますね?」


 入ってきたウォルターの声に生徒たちは元気よく反応してざわつく。


「はいはい、お静かに。一限目は基礎と実践です。出席を取り終わったら、演舞場に移動してくださいね。……あ、それから移動前にヴィルヘルミナさんはお話がありますから、少しだけ残って下さい」


 おおよそ決闘のことだろう、とヴィルヘルミナは素っ気なく頷いた。

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