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秘術使いの理想郷─ヴィルヘルミナの物語─  作者: 智慧砂猫


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第28話「旧世代の遺物」

 魔法使いになるのは並大抵の努力では不可能だ。特に、機会を与えられなかったものであれば、なおさらに。


 哀れにもアレックス・ド・トゥールには魔力が与えられなかった。記憶力に優れ、真面目なのが取柄で、明るい性格は例外を除いて誰でも惹きつける魅力がある。まっすぐ自分の中に芯があって、諦めないで学院に入ってきた。


 それでもネイロンのような実力者を見れば諦めたくもなった。自分には才能がないのだと足を止めたくなった。暗い感情が湧きあがり、自分自身を否定する。なのにヴィルヘルミナは誰にでも学ぶ権利があり、才能があるのだと唱えた。


 ああ、これは運命の出会いに違いない。ならば、これこそが最初で最後の与えられた機会。決して手放すべきではない人間だと知覚する。今が自分にできる最大の努力の見せ所。得られるものには全て、ひとつ残らず手を伸ばしてやろう、と。


「面倒だと一度でも言ったら終いにする。条件はそれだけだ」


「……! ありがとう、ミナ! いつから教えてくれるの!?」


「いつも放課後に演舞場が解放されてるだろう。そのときに基礎だけ教えてやる」


 条件を付けはしたものの、ヴィルヘルミナはなんとなくアレックスが絶対に挫けないであろうことは察していた。瞳に宿っていたのは期待ではなく覚悟だ。絶対に折れない信念が根を張って、びくともしないのが分かった。


「では、後でな。私は少し用があるから席を外す」


「えっ? でも、あと五分もしたら一限目が始まっちゃうよ」


「別に問題ない」


 そう言い残して教室を去る。授業に間に合う必要性など感じない。ヴィルヘルミナは、話している最中に自分へ向けて放たれた微弱な魔力を受け取り、不服ながらも、その持ち主の場所へ足を運ぶ。


 授業が始まろうかという第三校舎は静かなものだ。外に出れば、遠くの校舎からの声は聞こえてくるものの、人の姿はどこにも見えない。演舞場の真ん中に立っている気に食わない男以外は。


「なんのつもりで呼び出した、ウォルター?」


 ふーっと煙を吐いて、ウォルターがニコッと微笑んだ。


「ほとんど分からない程度の魔力で魔法を使ったのですが、よく分かりましたね。実にお見事、とても十五歳の子供とは思えません」


 煙草をくわえたままパチパチと手を叩く。ヴィルヘルミナが舌打ちする。


「本題に入れ。授業があと数分で始まる」


「それは問題ありませんよ。ハビエル教授は少し遅れるそうですから」


「……だから? 自習なら教室にいなくて良い理由にはならん」


「ふふっ、間違いありません。では単刀直入に本題でも話してましょうか」


 咥えていた煙草を足下に落として踏み消す。ズボンのポケットに手を突っ込んで、好奇心に満ちた眼差しがヴィルヘルミナを捉えた。


「ネイロンとの決闘で結界魔法を使ったと聞いています。よろしければ、ここで見せて頂けませんか。単独で使える魔法使いなど聞いたことがなくて」


「生憎だが、おいそれと使う魔法ではない。見たければ力ずくで来い」


 やれやれと肩を竦めたウォルターが懐に手を突っ込んだ。


「あまりこれを使うのは憚られるんですが。見た人が全員、笑うんですよ。旧世代の兵器なんか使うに値しないアンティークだってね」


 回転式拳銃を握りしめて、撃鉄を起こす。


「知ってますか、これは三百年前に開発されたものです。五百年前、戦争から立ち直った世界が、次世代の兵器として造ったんですが、そのうち魔法も発展して、弾丸の再装填の時間よりも魔法を使う方が効率が良いと廃れてしまったんです」


 銃口を突きつけられても、ヴィルヘルミナは眉ひとつ動かさなかった。


「もう少し驚いてくれてもいいのに」


「下らん。お前の魔法に興味はない」


「……へぇ、私がこれを使うのが物理的手段ではなく魔法に関連すると?」


「それは千年前にもカタチだけ造られたが、やはり非効率だと廃棄された。魔法は弾丸の数を気にすることもない。身体強化を使える魔法使いに当てる事自体が難しすぎる、とな」


 まっすぐ向かっていったヴィルヘルミナが銃をガシッと掴み、銃口を額に密着させる。いつでも撃てと言わんばかりの強気な姿勢をみせた。


「だが、お前ほどの魔力の持ち主であれば、ひとつの物質の代用品として魔力を操ることは造作もない。この回転式拳銃は弾丸の代わりに魔力を込めるんだろう。威力は低いが、射撃後も魔力操作によって弾の軌道は自由自在。ピンポイントにヒットさせられる。違うか?」


 見抜かれた。初めてウォルターは驚愕の目をして、しかし、冷静に微笑みを作って隠す。引き金から指を外し、お手上げだとポーズを取った。


「お見事。あなたの言うように魔力を弾丸代わりにして、リロードの手間を省いてあります。ですが、実弾を込めることもあるのですよ。軌道は操れませんが、その代わりに威力が爆発的にあげられますから」


 魔法のことになると、毛嫌いしていてもヴィルヘルミナは関心を示す。


「誰もが使わないものを用いた魔法……。秘術と呼ぶには十分だな。千年前にも秘術を持つ者はいたが、わざわざ不便な道具を武器にする魔法使いはいない」


「ふふ、ありがたきお言葉。それにしても、随分と千年前に詳しいのですね」


 ぎくっとして、冷や汗をたらたら流しながら視線を逸らす。


「む、昔手に入れた古書で覚えたことがあるだけだが?」


「嘘が下手ですねえ……。まあ詳しいことは聞きません。言えない事情があるのでしょうから、詮索したところで殺しても答えないでしょう」


 拳銃を懐にしまうと、煙草を取り出してまた吸い始めた。


「すみません、日に十本は吸わないと気分が優れなくて。魔塔は禁煙で、すぐに追い出されてしまうので隠れて吸うんですが、これがどうにも落ち着かない」


「知るか。話はこれで終わりか? もう用がないなら戻るが────」


 時間を無駄にした、と背中を向けたヴィルヘルミナを呼び止めるでもなく、煙草を吸って気分良さそうにしながらウォルターが告げた。


「邪法使いが学院に入り込んでいます。彼らは姿を消すのが得意だ、お気を付けください。優秀な魔力を持つ人間は狙われやすいんですよ」


「……ひとつ聞いても?」


 振り向かないヴィルヘルミナに、ウォルターはゆっくり煙を吐きながら。


「どうぞ。分かることでしたら答えます」


「────邪法使いは殺しても罪に問われたりしないか?」


 聞けば、大概の人間はどきっとするだろう。それをウォルターは平然と受け止めて、指でとんと煙草を叩いて灰を落とす。


「殺せるのならどうぞ。そうしてくださった方が手間が省けます」

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