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秘術使いの理想郷─ヴィルヘルミナの物語─  作者: 智慧砂猫


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第26話「一難去って、また」

◇◇◇





「むう……むうぅ……! 納得いかないなあ、私より仲良くなってるじゃないか! 学院に来て! 初めてのお友達の! この私よりも!」


 やたらと自分の存在の大きさを誇張するアレックスを無視して、ヴィルヘルミナとフランチェスカは歩いた。迎えに来たときから、ずっと、この調子なのだ。誰でもうんざりするし、無視されても当然だ。


「アタシらは同室なんだから仲良くなって当然だろ、何日経ったと思ってんだよ。ネイロンの代わりに新しい教授が魔塔から派遣されるまで暇だったんだから」


「うむ。おかげで、随分と知れた仲ではある。アレックスよりも」


 あからさまに距離を感じて、アレックスが涙目でがっくりする。


「あ、ありえない……! 私を差し置いて、そんな抜け駆けだなんて……!」


「お前はヘルミーナの何なんだよ」


「未来の親友だ。うん、多分そう。部分的にそう」


「なんだ、部分的って」


 二人のやり取りにヴィルヘルミナがふん、と呆れた息を吐く。


「相手にしてると馬鹿がうつるぞ」


「んな風邪みたいなことあるかよ……。なんなんだ、お前ら?」


 仲が良いのか悪いのかが微妙すぎてフランチェスカも戸惑いを隠せなかった。そんな空気もなんのその、アレックスはけろっとして割って入った。


「それよりも気になるんだけど、なぜ一年の担任であるネイロン教授が解任を受けただけで、二年や三年まで休講になったんだい?」


 素朴な疑問にフランチェスカはつまらなそうに答えた。


「あ~。その話なぁ。二年と三年は殆ど実技中心だからだよ。一年は基礎学習も含めて総合的な担当はネイロンだけど、基礎学習は分野ごとに別の教授が就く。んで、ネイロンはアタシらの実技担当だったわけ。それが欠けちまったんじゃあ困るってんで、魔塔との人材交渉も含めて会議が長引いてた、ってカエデから聞いたぜ」


 ヴィルヘルミナとの決闘の後、魔塔内部でも大きな問題として取り上げられた。結果、ネイロンは解任。魔塔からも追放されることになり、新たな人材として学院からも実技の面で相当の実力を持つ者が欲しいと交渉があった。


 そのため誰を送るかで話が長引き、数日の休日が学徒には与えられた。


「誰が来るかはアタシらも知らねえんだけどな。お前らの方が先に分かるんじゃねーの? 一年の総合担当になるわけだから、ホームルームはそっちだろ」


「私は誰が来ても構わんが。興味もない」


 教わることなど社会の現環境くらいなもので、知ったところで意味のない歴史を学ぶ気にもならない。誰が来たところで魔法に関しては明らかに自分の方が優れているという自負を持っていて、実際に間違ってもいなかった。


「私は気になるけどねぇ。ネイロン教授は毒が強かったじゃないか。偉い人いわく、『魔塔は異常者の集まり』なんて言われるともあるそうだよ?」


「誰が言ったか知らんが、そいつはきっと賢いのだろうな。気が合いそうだ」


 ウォルターのことが頭を過り、気に入らなさそうにふふんと鼻を鳴らす。


「ま、変なのじゃなきゃいいな。じゃあ、アタシは第二校舎だから、また帰りに」


「ああ。先に終わったら門の前で待っていよう」


 軽い挨拶を交わして別れたあと、ヴィルヘルミナとアレックスは第三校舎へ向かう。同室だからと仲良くなった二人に、アレックスが少しばかり嫉妬する。


「私とは仲良くしてくれないくせに、彼女とは随分懇意だねぇ?」


「距離感の壊れてる奴と仲良くする方が難しいのでな」


「なんだと~! 私も君には良くしてるのに! 贔屓だ、ぶーぶー!」


「うるさい。教室まで文句を聞かせるつもりか、耳が潰れる」


 結局、その後も席に着いたあとさえアレックスの小言が止まることはなかった。最初に声を掛けた、ヴィルヘルミナの最初の友人という立ち位置をどうしても譲りたくない。仮に本人に認められなかったとしても。


 しかし、そのしつこさゆえに認められることはまったくなかった。


「うえ~ん。ミナが私のことを無視する」


「嫌われてもいいのなら永遠にほざいてろ」


「……! つまり、今は嫌われていないんだね!」


「急に機嫌を良くするな」


 頬を擦り寄せようとするアレックスの顔面を手で抑える。ここまでの馬鹿は見たことがないと久しぶりにイライラした。


 そんな中、とうとう新しい教授がやってきた。扉が開いた瞬間、その厳かな雰囲気と趣のある振る舞いは、好奇心旺盛な生徒たちの口を自然と閉ざす。


 しん、と静まり返った広い教室の中に響くのは、革靴が床を叩く音。教壇の前に立った魔法使いの男は、豪奢な装飾の白いローブを着こなして教壇に立った。


「初めまして、皆様」


 涼やかだがふわっとしていて掴みどころのない、雲のような声。まるで聞き入るように魔法を掛けられているのでは、と誰もが呼吸も忘れるほど魅入った。……ただひとり、微かな煙草の臭いに顔を顰めたヴィルヘルミナを除いて。


「私が新たに魔塔から皆様を担当する教授として選任されました────ウォルター・フィッツウィリアムと申します。以後、お見知りおきを」

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