第15話「絶対に許せない言葉」
突然の言葉にフランチェスカが固まった。動揺と怒りに震えて、今にも炸裂しそうな勢いでぎろっとヴィルヘルミナを睨む。
「今なんつった? アタシの成績が悪いって?」
無意識に全身を纏う魔力が、バチバチと弾けて、電気を帯びるように光りを放つ。明らかな怒りを向けられてフランチェスカを恐れない人間はいないだろう。だが、ヴィルヘルミナは平然と、淡々と────。
「魔力の制御ができていない。無意識というより、自動的に魔力が雷電に変換されて身にまとっているんだな。そのマスクのおかげで多少はマシなんだろう」
冷静な分析はフランチェスカの煮え滾った感情を鎮めた。言われたことは全て図星で、実際に身に着けている黒いマスクは魔力を制御するための魔導具になっている。決して風邪の予防のためではない。腹立たしさは拳の中に握り潰された。
「……そうだよ。アタシは魔力の制御がヘタクソだ。度々、そのことで注意を受けてる。周りに影響しかねないってよ。なんせアタシは人間が持つ魔法の属性の、雷しか扱えない落ちこぼれだ。だから戦闘の分野で努力してんだ。このままじゃ卒業もできないって言われたうえに、今朝なんか担任に魔法使いになる才能がないとまで言われたんだぜ。ったく、本当に最低な気分だった」
だから機嫌が悪かったのか、とヴィルヘルミナはいつものように半ば聞き流す。知ったところで、同情心すら湧いてこない。決してフランチェスカに将来性がないからではない。むしろ、その逆だったからだ。
「お前には魔法使いとしての才能があるのに、見抜けない人間がいるとは。この学院はお遊戯会を開いているだけではないかと呆れてしまうよ」
特大の溜息に、やれやれと首を振った。
「ハッ、なんだよ。遠回しな慰めでもしてるつもりか?」
「いいや。お前もお前だ、と思っていたところだ」
ベッドから立ちあがり、フランチェスカの前に立ってまっすぐ見つめる。
「見たところ魔力量が通常の人間とは桁外れだ。それから魔力が雷の属性を自動的に持つというのは特異体質としては有能だと言える。それはそもそも扱いの難しい属性だから、今のお前が使いこなせなくて当然だろう。まして、」
とん、とヴィルヘルミナが胸に手を置くと、弾けていた魔力が消えていく。同時にフランチェスカは、いつもどことなく重たかった体が軽くなるのを感じた。
「その身に宿すには魔力の量が多過ぎだ。肉体の防衛本能として自動的に雷電に変換することで、定期的に発散するしかないから、そうなってる。人にモノを教える魔法使いがそんなことも分からないのでは三流もいいところだな」
ことが済んだらヴィルヘルミナはぱんぱんと埃を払うように手を叩く。
「どうだ、楽になっただろう。マスクを外してみろ、もう魔力が噴出して周囲を焼き焦がすこともあるまい」
「マジで言ってんのか? これ外したら、お前が怪我するかも────」
不安を口にするも、ヴィルヘルミナの強い視線に遮られた。
「黙って外せ。少なくとも、お前より私の方が魔法についてはよく知っている」
力強い言葉を前に、反論の言葉は消し飛んだ。おそるおそるマスクに手を掛ける。指が震えている。いまいち喧嘩腰になりがちではあるが、だからといって意図的に誰かを傷つけようと思ったことはない。守るために魔法を学びたかった。
「ちくしょう、どうなっても知らねえからな」
ぐっと目を瞑って、マスクを勢いよく取っ払う。
「……ん」
ゆっくり目を見開いたとき、フランチェスカを待っていたのは、何も起きていない、何も変わらない部屋と傷ひとつないヴィルヘルミナの姿だった。
「気分は晴れたか。私も少しは役に立ったようだ」
「なんだこれ、どうなってんだ? アタシの魔力は?」
「魔力が体内に溜められるようにしてやった」
ヴィルヘルミナはまたベッドに座って、フランチェスカの体を見る。
「お前の体は子供であるがゆえに不完全だ。いくら魔力量が優れていても、子供の体で蓄えられる魔力など、神にも匹敵する素質でもなければ非現実的だ」
まさにそのモデルケースが自身とは皮肉なものだが、と内心で自嘲する。
「……でも、どうやって? アタシの体は魔塔の魔法使いたちにも見てもらったけど、根本的な改善ってのはできなかった。だからマスクを作ってもらったんだ。大人になるまでの一時的な療法のひとつだって」
今の技術では、多少はマシになる程度の改善はできても、根本的な解決はできていない。何度も検査を繰り返し、投薬や魔法による治療を試みてきたが何ひとつ効果はなく、マスクという目立たない形で魔力を抑制する拘束具をつけた。
成長したからといって規格外の魔力量に見合うかどうかは分からない。封印魔法は本人の可能性を完全に閉ざすものとなって、魔法使いとしては生きていけない。なんにしてもリスクが高い状態で過ごすしかなかった。
それが、たった一度触れただけで。
「治したってのか。学院に来たばっかの、一年が?」
「問題があれば私に言いに来い。それと直った代金として聞かせろ」
ずっと気に入らないことがある。ただの善意でもなく、治したのはひとつの才能が開花する道を作るため。そしてもうひとつが────。
「お前に才能がないと言ったのは誰だ?」




