第14話「同室の先輩」
「さっさと開けろよ、邪魔くせえな」
後ろから伸びてきた手が、ヴィルヘルミナの手に重なった。勢いよく扉を開けさせられて振り返ると、金髪のショートヘアをした目つきの悪い少女がいる。ヴィルヘルミナに対して、些か敵意にも似た視線が送られていた。
「……お前が私の同室のアランデル?」
黒いマスクで口元を隠す少女の冷たい声が響く。
「入れよ、立ち話なんかしたかねぇ」
最悪だ、とは思ったものの、アレックスやカエデに比べると関わり合いになる必要もなさそうで安心する。とはいえ険悪な態度は、あまり好ましくはない。上下関係をハッキリさせるといった下らない行為に興味はないが、見下されていること自体は許容の外側。同格として見てもらわなくては、部屋の空気を支配されるからだ。
「おい、顔ばっか見てねえで入れって。アタシの部屋でもあるんだけど?」
「あ。それはすまない。あまりに偉そうだったもので」
ふいっ、と顔を逸らして部屋に入る。挑発的な言動とは裏腹に感情が籠っていないので、金髪の少女が眉間にしわを寄せて、気に入らなさそうに言った。
「ンだよ、アタシも大概だけど、お前も大したモンだな。先輩によくも偉そうなクチ利けるじゃねえか」
脅しでもかけて来るか、とトランクを床に置いて振り返った瞬間。
「かーっ、やっぱそれくらい気合入ってねえと同室は楽しくねえよな!」
ニカッと笑って顔を目と鼻の先まで近づけられたので、ヴィルヘルミナも流石に驚かざるを得ない。さっきの一触即発な空気はなんだったんだ、と目を丸くする。さらに、少女は遠慮もなく小柄なヴィルヘルミナを抱きしめた。
「前の同室はチキン野郎で、なんもしてねえのにアタシを見てビビるから気に入らなかったんだよなぁ! お前は本当に良い後輩だ、同室で良かったぜ!」
「あ、あぁ……うん。私は別にどっちでも良かった」
突き放すような言葉も、気分の高揚している少女の耳には入らない。
「アタシはフランチェスカ・アランデル。平民出身なんだ、そっちは?」
「ヴィルヘルミナ・デヴァル。デヴァル子爵家の人間だよ」
「へえ、あの生活魔法の祖っつうデヴァルの。そりゃ肝が据わってるわけだ!」
ばしばしと背中を叩かれて、ヴィルヘルミナはげんなりする。これならアレックスが同室だった方がまだマシだったかもしれないと思うほど騒がしかった。
「いいよなぁ、名門から来るお嬢様ってのは。態度はナメくさってるが、かといって別にアタシを見下してるわけでもねぇ。仲良くなれそうだな!」
「……うん、そうかもな」
もう、諦めていた。どうせ何を言っても聞いていないタイプだと、はっきり分かる。アレックスよりもタチが悪いと認めて、受け止める方向に舵を切った。
「そうだ、部屋の整理をしなくちゃな。アタシも最初は三階だったんで、荷物を二階に持ってきたとこなんだよ。そっちは何持って来たんだ?」
「最低限の着替えと、ノートと鉛筆」
トランクの中身は一切の無駄がない。学業に専念するというよりは自身の魔導書を執筆するための道具も、学生の身分では真面目で立派な優等生スタイルだ。
「へぇ。勤勉だねえ、お前。アタシも似たようなもんだけど。着替えと新品のマスクと、それから教科書とか筆記用具は当たり前だな。後は……おっと」
取り出そうとしたものを、さっと隠したが、ヴィルヘルミナはハッキリと見ていた。彼女のトランクから出てくるメリケンサックを。
「魔法学院の不良グループでも束ねるつもりか?」
「ンなわけねえだろが。コイツはアタシの魔法に使う道具だ」
「メリケンサックが魔道具になるのは聞いたことがないが」
睡眠中に殴られたりしないだろうか、とフランチェスカへの不安は拭えない。なにより、自身が過去に弟子による予想していない奇襲で命を落としているので、なんとなく嫌な気分にすらなった。
憎まれることには慣れている。仕方ないとも思える。だが殺されていい理由ではないし、殺されたいと思うことは昔も今も思っていない。
「そう怖がんなって。アタシの専攻は対邪流魔法使い特化型戦闘術……邪法使いって連中をぶっとばすための戦闘技術を学んでるんだよ」
「邪法使い……。聞いたことがないな、悪人ということか?」
片付けるほどのものもないので、ベッドに座って話を聞く。フランチェスカは持つを整理しながら知る限りの邪法使いについて語った。
魔法都市が創られる際に魔法使いたちが定めた法を破り、動物や人間を使った非人道的な実験などの行いに手を染めた、自分たちが真理へ辿り着くための手段を厭わない者たち。彼らは徒党を成し、あるひとつの目的のために活動している。というのが今のところ判明している全容だ。
「────ま、そんなところかなあ。魔法都市も魔物避けはしてるけど、人間ばかりは素通りしちまうように出来てるから侵入を防ぐのが難しいんだよな。それで感知系の魔法とか戦闘特化の講義があるわけよ、二年からは」
自分は結構強い方だと言って、腕をパシパシ叩いて自慢げにするフランチェスカを、ヴィルヘルミナは鋭く見つめて────。
「でもお前、成績悪いだろう」




