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秘術使いの理想郷─ヴィルヘルミナの物語─  作者: 智慧砂猫


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第11話「歴史に刻まれた名前」

 新たな感情の兆し。これまで感じたことのない、何か。それをはっきりと捉えるまでは、まだ時間が掛かる。そして、楽しい時間も長くは続かない。


 急いで学院に辿り着き、集合場所であった第二校舎にある屋内訓練場に走ると、既に解散ムードで、新入生たちはそれぞれの寮について説明を受けた後だ。想像以上の人数にヴィルヘルミナも言葉を失った。


「魔法使いの卵はここまで数がいるのか?」


「身分に関係なく試験は受けられるし、魔力は血統に依らない部分もある。全ての人にチャンスが与えられてるから、皆が死に物狂いで此処に来るんだ」


 だから自分も来た、とアレックスが自信に満ちた顔をする。


「誰にでもチャンスが……。平和な時代だな」


「だよねえ。大昔はもっと魔物も蔓延っていたらしいけど」


 話しながら、きょろきょろと周囲を見渡す。教師がいれば自分たちの寮がどこになったのかを訪ねようとアレックスも目を凝らすが、人が多過ぎて、保護者が入学式と卒業式だけは来ているので、誰が教師なのかも見分けがつかない。


 それを見かねたように、ひとりの生徒が二人の元へやってくる。


「お前ら、遅刻組だな? のんびりした奴らだよ、遊びにでも来てんのか?」


 目つきの悪い男子生徒。金髪のつんつん頭が、不良っぽく見せながらも制服を正しく着ているところは魔法に関わる人間としての真面目さが垣間見えた。


「なんだい、嫌な言い方だな。生きてれば遅刻だってするさ」


 わざとらしく不貞腐れ気味に返すアレックスに男子生徒ががくっと肩を落とす。


「それを入学当日にするなっつってんだよ」


 尤もな返しにアレックスが薄っすらと恥ずかしさに顔を紅くして、ヴィルヘルミナはそれを呆れた顔で横目に見た。


「遅刻する気はなかった。それで、お前の名前は?」


「新入生のくせに口悪いな……。俺は一応先輩だぞ、分かってんのか」


「ふむ、先輩なら私より偉いのか。知らなかったな」


 媚びる気の一切ない新入生の姿に、男子生徒は戸惑った。大きなため息を吐いて、頭をがりがりと掻きむしって腹立たしさを発散しつつ────。


「まあなんでもいいけど。お前ら、それで成績が俺より悪かったら恥ずかしいぞ。他の連中は陰口を叩いたりすんのが好きだからよ」


「魔法使いのくせに陰湿なことをするのだな」


 素朴な疑問のつもりで口にしたことを、男子生徒はぴたっと顔を強張らせた。


「魔法使いだから陰湿なんだろ。お前が俺にする態度の方がマシだ」


「ほう。つまり実力で捻じ伏せろということか」


 そうではないのだが、そうでもあるというのが言葉を返しにくかった。


「……ま、忘れろ。俺は三年のエリアスだ。遅刻組はお前らだけだぜ、お二人さん」


「ヴィルヘルミナ・デヴァル」


「アレックス・ド・トゥールだよ、よろしく」


 まったく先輩を立てる気のない後輩だな、と二人の自由ぶりにはエリアスも呆れた。しかし反面、嬉しい気持ちもある。彼女らのように特異な風を吹かせる生徒など見たことがなかった。


「ついてきな。寮のある通りまで案内してやるよ」


 エリアスがローブの裾を勢いよく翻して前を歩く。先輩風を吹かせているのだろうな、とヴィルヘルミナとアレックスは顔を見合わせた。


「じゃあついて行こうか、ミナ!」


「……ああ、そうだな」


 歩きながら、エリアスは二人を退屈させまいと話をする。それは、今の時代がどう作られたかという歴史の話から始まり、ヴィルヘルミナは既に退屈だった。


「この町は魔法使いのためのもんでさ。作られたのは今から五百年も昔なんだ。なんでも、千年前は今より魔法が発展してたけど、ある魔法使いが死んだことで、馬鹿でかい戦争が起きちまったんだとか。んで、色々と衰退した結果、時を経て魔法使いたちが今のままじゃ良くないからって、この魔法都市を作った」


 話が途切れてしまうと空気も悪くなると思ったのか、ヴィルヘルミナの様子を見たアレックスが、せっかくなら深堀りしてみようと尋ねる。


「そういえば、この都市の名前も、その千年前に死んだ魔法使いの名前を使ってると聞いたよ。先輩は歴史に詳しいんだろ、そのあたりはどうなんだい?」


 ふふん、と自慢げにエリアスが話を続けた。


「俺も歴史の授業で習ったからよく覚えてるぜ。────大魔法使いアルベル・ローズライン。最強の魔法使いの名前を取って、魔法都市アルベル」


 そのとき、初めてヴィルヘルミナがピクッと僅かな反応を見せた。


「どうかしたかい、ミナ。もしかして知ってたとか?」


 それなら退屈も仕方ないな、というふうにアレックスもエリアスも受け止める中で、これまで表情が殆ど変わらなかったヴィルヘルミナが、ふっと笑った。


「────ああ、よく知ってる」


 生まれは千年前。最強など大したことのない称号を背負ったつもりはなかった。だが、それは個人の話。誰もが憧れ、誰もが敬意を抱き、誰もが憎んだ魔法使い。大魔法使い、アルベル・ローズライン。


「良いことを教えてやろう。その魔法使いは昔、異名を持っていた。本人は大して気にも留めたことはなかったが────秘術使いのアルベルと呼ばれていたんだ」

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