第1話「二度目の人生を」
何かを極めようと邁進する人生は楽しい。
私はどうだったのか、と振り返ってみる。うむ、あながち悪くない。強いて言うなら壮年に入る頃合いで殺されてしまったことくらいだ。
あらゆる魔法は極めた。その代わり、多大な犠牲を払ってきた。私は別にそれを今も悪いことだったとは思わないが、かといって誰かがお前のせいだと言ってきたのなら、それを否定するつもりもなかった。
もし、お前を殺すのだと告げられたら、その権利はあるだろうと答える。そのくらい怨みを買ってきた自覚はある。なにしろ魔法を極める過程で命のやり取りはいくらでもあったし、私と敵対した人間は徹底して排除したから。
足を止めるのは嫌いだ。だから、邪魔をする人間は当然、嫌いだった。
ああ、そう。話が逸れた。今はそれどころではない。私は自分の見てきたものが全てだと信じてきたが、まだ極限の境地に至っていないと死んで初めて理解した。死者にしか見えない世界があり、死者にしか感じられないものがあると知ったから。
生まれ変わりなど信じたりはしなかった。人生は一度きりと誰かが言ったとき、私は強く感銘を受けたのを覚えている。死ねばそこで何もかもが終わると、それだけはどんな現実よりも信じた。────間違っていた、と死んで悟った。
誰かが魂には重さがあると言った。それは眉唾な実験の果てに得た解答であり、その証明をする手立てらしいものは未だに見つかっていない。
今もなお、私は重さなどあるとは信じていない。いや、完全に信じられなくなった。概念的なものに重さがあるなどとは下らない。ひとつの物質と定義づける方法がそもそもないのに、紛れもなくそこに存在する。意思を持つそれらは、限られた生者には対話という術が与えられた。あるいは視ることさえできた。
ああ、私はできない。できたら死んで初めて知るようなこともなかった。遠回りな物言いになってしまったが、つまり何が言いたいかと言うと、私は死んだ。そして、これまで存在について懐疑的であった魂とやらになってしまったわけだ。
生まれ変わるのか、はたまた消え去るのか。いずれにしても、死を通り過ぎてひとつ知識が増えたことは存外嬉しかった。忘れてしまうものだとしても、消えてしまうものだとしても。あらゆる知識を追い求め、誰よりも学びを極めたかった私にとっては、これほど素晴らしい最期があろうものかと感動した。
────なのに。なのに、あろうことか、私は転生を果たしてしまったらしい。神の悪戯か、それとも致命的なバグでも起きたのか。記憶は正しく、精神は安定。美しいものを美しいと例え、汚いものを汚いと忌避するまともな思考も持った。
ないものねだりは良くないが、いささか不満があるとしたら自分の体が幼い少女のものであること。何より不愉快なのが、孤児として生まれてしまったこと。
おお、神よ。私はあなたの観察対象となり得るモデルケースなのだろうか。だとしたら、何のための転生か。前世で言われる、およそ悪事であった行いを正すように贖罪の機会が与えられたのか。それとも、ただの嫌がらせか。
なんにしても、平穏に生きるのも吝かではない。私の見えない其処で眺めているというのなら、どうか最後まで見届けるといい。もはや自身がすべきと感じたことは前世で成し遂げている。今世を与えるというのなら、神とやらのために、少しくらいは善行を積んであげよう。
何が善行なのかなんて、よく分かっていないのだが。




