9 危険な契約の提示
謁見の間での正式な面会は、まるで氷の世界に迷い込んだような厳粛さに満ちていた。エミリアの平民としての身分の低さに、貴族たちが眉をひそめている。
「君の料理は興味深い」
玉座から見下ろすアドリアンの声が、大理石の壁に反響した。
「専属味覚師にならないか?」
「専属味覚師とは?」
エミリアが戸惑いながら質問すると、皇帝は冷酷な微笑みを浮かべた。
「三ヶ月間、僕の心を動かすことができれば、望む報酬を与える」
宮廷がざわめいた。しかし、次の言葉でその場の空気が凍りついた。
「しかし失敗すれば……命を差し出してもらう」
あまりにも過酷な条件に、貴族たちの間に動揺が走る。エミリアの心臓が激しく鼓動を打った。
「陛下、それは……」
「弟よ、そんな平民に期待するのは無謀では?」
ルシフェル大公が口を挟んだ。表面上は弟を案じる兄の顔をしているが、その瞳の奥に密かな期待の光が宿っている。
「兄上は黙っていてください」
アドリアンが初めて兄に反発する態度を見せた。この変化に、ルシフェルは内心で笑みを浮かべる。
エミリアの内心では激しい葛藤が渦巻いていた。家族を救えるかもしれない千載一遇の機会。しかし、失敗すれば命を失う。
「お時間をいただけませんでしょうか」
震え声で猶予を求めるエミリアに、皇帝は冷たく答えた。
「三日間待つ。それまでに決断を」




