20 すべてを失う瞬間
古い修道院の地下聖堂。石造りの壁に囲まれた薄暗い空間で、エミリアは愛する家族と再会していた。
「お父様! お母様!」
両親は石の祭壇に縛られ、意識を失っている。母親の顔は病気でやつれ、父親も衰弱している様子だった。
「家族思いの娘ですね」
背後から聞き慣れた声が響く。振り返ると、そこにはルシフェル大公が立っていた。
「ルシフェル大公……なぜあなたが?」
エミリアの心に嫌な予感が広がる。
「まだわからないのですか? すべては私の計画だったのです」
ルシフェルの仮面が剥がれ落ちる。その瞬間、聖堂の扉が開き、アドリアンが駆け込んできた。
「エミリア!」
「陛下! なぜここに……」
「君を一人で行かせるわけにはいかない」
アドリアンがエミリアの前に立ちふさがる。しかし、ルシフェルは冷笑を浮かべていた。
「弟よ、ついに来ましたね。これで役者が揃った」
「兄上……一体何を……」
「真実を教えてあげましょう」ルシフェルが祭壇の前に立つ。「彼女は愛の女神アフロディータの転生体なのです」
アドリアンの顔が青ざめた。
「そんな……まさか……」
「弟よ、10年前にあなたにかけた呪い……あれは愛を封印するためだけではありませんでした」ルシフェルの瞳が狂気の光を帯びる。「女神の転生体を引き寄せるための餌だったのです」
エミリアの心臓が激しく鼓動した。すべてが計画されていた……自分の恋も、皇帝との出会いも。
「違います! 私の気持ちは本物です!」
エミリアが必死に叫ぶ。
「確かに、あなたの愛は本物でしょう」ルシフェルが近づいてくる。「しかし、弟はどうでしょうね?」
「僕は……僕は確かに君を……」
アドリアンの声が震える。
「人間だと思っていたのに、神だったなんて」皇帝の瞳に絶望が宿る。「僕たちの愛は偽物だったのか?」
「そうです」ルシフェルが追い打ちをかける。「すべては運命に操られた偽りの愛。人間と神が本当に愛し合えるとでも?」
エミリアの世界が崩れ落ちた。最も恐れていた瞬間が現実になった。
「陛下……私は……」
「僕はまた騙されたのか」アドリアンが完全に心を閉ざす。「最初から嘘だったのか」
「さあ、選択の時です」ルシフェルが勝ち誇ったように言う。「神の力を解放して私に差し出すか、愛する家族の死を見届けるか」
「私は……私は……」
エミリアは完全に追い詰められた。愛する人からも見放され、家族の命も危険にさらされ、自分の正体まで暴かれてしまった。
すべてを失った絶望の中で、エミリアは膝から崩れ落ちた。




