表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
崖っぷち令嬢は冷血皇帝の心を溶かします  作者: 雨音トキ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/26

19 隠された陰謀の始動

料理バトルから三日後の深夜、ルシフェル大公の私室では密談が行われていた。

「やはり……あの娘は女神アフロディータの転生体でしたね」

ベラドンナが敗北の屈辱を噛み締めながら報告する。

「永遠愛の塩を使えるなど、普通の人間には不可能です」

ルシフェルの唇が邪悪に歪んだ。

「最初から知っていたよ。弟に呪いをかけたのも、すべては彼女を覚醒させるためだった」

「え……?」

ベラドンナが驚愕する。

「10年前、私が弟にかけた呪い……それは愛を封印するものだった」ルシフェルが立ち上がり、窓の外の夜空を見つめる。「しかし、真の目的は別にあった。女神の転生体を引き寄せるための餌だったのだ」

すべてが計算されていた陰謀だった。皇帝の冷酷さも、エミリアとの出会いも、料理バトルも……すべてルシフェルの手のひらの上で踊らされていたのだ。

「では、これからどうなさいますか?」

「彼女の神の力を完全に解放させる。そのためには……」

ルシフェルが振り返ると、その瞳には狂気の光が宿っていた。

「彼女の最も愛するものを奪えばよい」

翌朝、ベルクール辺境伯爵領に異変が起きていた。

城の周りを黒い甲冑に身を包んだ兵士たちが包囲している。ルシフェルの私兵たちだった。

「何事だ!」

エミリアの父、ベルクール伯爵が慌てて城から出てくる。しかし、兵士たちは無言で剣を構えた。

「お父様……」

病床の母親が窓から外を見て、青ざめる。

「エミリアは……エミリアは大丈夫なの?」

「心配ありません、奥様」

突然、執事のセバスチャンが部屋に入ってきた。しかし、その瞳は普段とは違う冷たい光を宿している。

「セバスチャン? どうしたの?」

母親が不審に思った瞬間、セバスチャンが懐から小瓶を取り出した。

「申し訳ございません。これもルシフェル大公様のご命令です」

小瓶から立ち上る紫の煙を吸い込んだ母親が、意識を失って倒れる。

そして駆けつけた伯爵も、同じように眠りの薬で眠らされてしまった。

一方、王都の宮廷では、エミリアが体調不良に苦しんでいた。

『永遠愛の塩』の副作用で、味覚が混乱している。料理を作ろうとしても、味がわからない。

「エミリア様、大丈夫ですか?」

侍女ルナが心配そうに声をかける。

「ありがとう、ルナ。少し休めば治ると思う」

しかし、エミリアの顔は青白く、明らかに普通の状態ではなかった。

その時、皇帝の使者が現れた。

「エミリア様、陛下がお呼びです」

謁見の間に向かうと、アドリアンが心配そうに待っていた。料理バトル以来、彼の中の愛情は確実に強くなっている。

「君の体調が悪いと聞いた。無理をしないでくれ」

「陛下……ありがとうございます」

エミリアの心が温かくなる。しかし、その幸せな時間は長く続かなかった。

突然、宮廷に緊急事態を告げる鐘が鳴り響いた。

「何事だ?」

皇帝が眉をひそめる。すると、ルシフェル大公が慌てたような演技をしながら入ってきた。

「弟よ、大変なことになった!」

「兄上……何があった?」

「ベルクール領が……何者かに攻撃されている!」

エミリアの血の気が引いた。

「そんな……お父様とお母様は……」

「残念ながら……詳細はわからない。しかし、相当危険な状況のようだ」

ルシフェルが偽りの心配を装いながら続ける。

「おそらく、君に恨みを持つ者の犯行だろう。平民出身の専属味覚師を快く思わない者たちが……」

「私のせい……」

エミリアが震え声で呟く。家族が危険にさらされているのは、自分が皇帝に近づいたせいだと思い込んでしまった。

「エミリア……」

アドリアンが彼女を慰めようとするが、ルシフェルが割って入る。

「弟よ、今は感情的になっている場合ではない。冷静に対処を……」

その時、宮廷に一羽の黒い鴉が飛び込んできた。足には小さな手紙が結ばれている。

アドリアンが手紙を読むと、顔色が変わった。

「何と書いてあるのですか?」

エミリアが震え声で尋ねる。

「『愛しい専属味覚師へ。君の家族は我々が預かった。彼らの命が惜しければ、神の力を解放せよ。場所は古い修道院の地下。一人で来ること。』」

エミリアの膝から力が抜けた。

「お父様……お母様……」

涙がとめどなく流れる。

「僕が軍を派遣する。君は宮廷にいてくれ」

アドリアンが決然と言うが、エミリアは首を振った。

「いえ……私が行きます。私のせいで巻き込んでしまったのですから」

「危険すぎる!」

「でも……家族を見殺しにはできません」

エミリアの瞳に、固い決意が宿る。

ルシフェル大公は内心でほくそ笑んでいた。すべては計画通り。エミリアは必ず罠にかかる。

「弟よ、あの娘の気持ちもわかる。しかし……」

「兄上は黙っていてください」

アドリアンが初めて兄に強い口調で言い返した。

「僕は彼女を守る。それが僕の役目だ」

「陛下……」

エミリアがアドリアンの手を握る。

「お気持ちは嬉しいのですが……これは私の問題です。私一人で解決しなければ」

夜になると、エミリアは密かに宮廷を抜け出す準備を始めた。

しかし、誰かが部屋をノックする。

「エミリア様?」

ルナの声だった。ドアを開けると、侍女が心配そうな表情で立っている。

「お一人で行かれるつもりですね?」

「ルナ……どうして……」

「お顔を見ればわかります。でも、危険すぎます!」

「でも……家族を助けるためには……」

エミリアが涙を拭う。

「それなら、せめてこれを」

ルナが小さな鈴を差し出した。

「緊急事態の時に鳴らしてください。きっと助けが来ます」

「ありがとう……本当にありがとう」

深夜、エミリアは宮廷を後にした。古い修道院へ向かう馬車の中で、彼女は家族の安否を祈っていた。

しかし、これこそがルシフェルの思う壺だった。

「ついに……女神の力を手に入れる時が来た」

大公の私室で、ルシフェルは勝利を確信していた。エミリアが神の力を解放すれば、その力を奪って世界を支配する。すべてはこの瞬間のための長い計画だった。

一方、皇帝アドリアンも密かに宮廷を出ていた。

「エミリア……必ず君を守る」

二人は同じ目的地へ向かっていたが、待ち受けているのはルシフェルが仕掛けた最後の罠だった。

愛する者を救うため、エミリアは自分でも知らない神の力と向き合うことになる。しかし、それは同時に、最愛の人との永遠の別れを意味するかもしれなかった。

古い修道院の鐘楼では、すべてを見守る黒い影がほくそ笑んでいた。長い計画の最終段階が、ついに始まろうとしていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ