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崖っぷち令嬢は冷血皇帝の心を溶かします  作者: 雨音トキ


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17/26

17 身分の壁と政治的圧力

しかし、幸福は長くは続かなかった。

皇帝と平民の恋愛が宮廷に漏れ、大騒動に発展したのだ。朝の閣議で、貴族たちの激しい非難が始まった。

「陛下、これはあまりにも……」

「皇室の血筋を汚すおつもりですか!」

フォンテーヌ公爵が血相を変えて抗議する。昨日まではエミリアを認めていた貴族たちも、恋愛関係となると話は別だった。

「平民との結婚など、前例がございません!」

「帝国の威信に関わる問題です!」

貴族たちの怒号が謁見の間に響く。エミリアは「皇帝を誘惑した妖女」として糾弾され、宮廷内での立場が一変してしまった。

近隣諸国からも抗議文が届いていた。

「ヴェルディア王国より……『帝国の威信に関わる重大な懸念』との書状が」

外務大臣が震え声で報告する。政略結婚を前提とした外交関係が、根底から覆される可能性があった。

「僕は皇帝である前に、一人の男性だ」

アドリアンが反発するが、政治的責任の重さに苦悩していた。一国の君主として、個人的な感情だけで行動するわけにはいかない。

「国を背負う身として……」

皇帝の表情に迷いが浮かんだ。エミリアへの愛と、皇帝としての責務の間で揺れ動いている。

「私のせいで……陛下に迷惑をかけてしまって」

エミリアは自責の念に駆られていた。愛する人を困らせることになるなど、想像もしていなかった。

「弟よ、感情に流されてはならない」

ルシフェル大公が、表面上は心配するふりをしながら偽りの忠告を囁く。

「皇帝としての責務を忘れてはならないぞ」

宮廷の雰囲気は一変し、エミリアへの風当たりが強くなった。廊下を歩けば冷たい視線を浴び、陰口が絶えない。

「あの女のせいで……」

「陛下を惑わした罪は重い」

侍女のルナだけが、変わらぬ忠誠を示してくれた。

「エミリア様、お気を強く持ってください」

「どんなことがあっても、私はエミリア様のお味方です」

夜になると、アドリー人格が現れた。

「僕は君を守る……たとえ世界を敵に回しても」

しかし、昼の皇帝は政治的圧力に押し切られそうになっていた。閣議での激しい議論、諸外国からの圧力、宮廷内の反発。すべてがアドリアンの心を氷で覆い始めている。

「陛下……」

エミリアがアドリアンに近づこうとしても、側近たちが阻止する。

「陛下はお忙しい身です」

「平民の分際で……」

冷たい言葉が、エミリアの心を深く傷つけた。

貴族会議では、エミリアの追放を求める声が高まっていた。

「あの女を宮廷から追い出せ!」

「皇帝陛下の心を惑わした罪で、処罰すべきです!」

アドリアンは苦渋の表情で会議に臨んでいた。愛する人を守りたい気持ちと、国家の安定を保つ責務の間で、激しく葛藤している。

「私は……どうすれば……」

一人になったとき、皇帝は深く悩んでいた。エミリアを失うことも、国を混乱に陥れることも、どちらも耐え難い選択だった。

宮廷の政治的圧力は日増しに強くなり、二人の愛は厳しい試練にさらされることになった。春の兆しは再び雪に覆われ、氷の時代が戻ってきそうな気配が漂っていた。

エミリアの部屋の窓から見える空は、重い雲に覆われている。まるで彼女の心境を表すかのように、暗く冷たい色をしていた。


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