15 宮廷での地位確立
エミリアの料理に感動した貴族たちの態度は、日を追うごとに変化していった。
「あの平民の娘が作る料理は……確かに格別だな」
フォンテーヌ公爵が、昨夜の晩餐を思い出しながら呟いた。エミリアが「感謝の塩」を使って調理した魚料理を食べた後、公爵は久しぶりに家族への愛情を思い出していた。
「エミリア様」
いつの間にか、宮廷の人々の呼び方が変わっていた。最初は軽蔑を込めて「あの平民」と呼ばれていたが、今では敬意を込めて「様」付けで呼ばれるようになっている。
皇帝の食事に関する権限も、段階的に獲得していった。最初は朝食のみだったが、昼食、そして重要な晩餐会へと範囲が広がっていく。
「陛下のお食事は、すべてエミリア様にお任せしましょう」
宮廷長が正式に提案したとき、誰も異議を唱えなかった。それほどまでに、エミリアの実力は認められていた。
しかし、すべてが順調だったわけではない。
ある朝、エミリアは異変に気づいた。いつものように「愛の調味料庫」から持ち帰った「優しさのハーブ」が、妙に苦い味がする。
「誰かが……私の調味料に手を加えている」
エミリアの直感は正しかった。調味料の保管庫に細工が施されており、異次元の調味料の効果を打ち消す魔法の粉が撒かれていたのだ。
「これは……高度な魔法知識が必要な術式です」
カイル隊長が調べた結果、犯人は相当な実力者であることが判明した。
「宮廷内に、エミリア様の活動を妨害しようとする者がいる」
ベルナルド毒味官の顔が険しくなった。皇帝の食事に関わる妨害工作は、重大な犯罪行為である。
エミリアとカイルは連携して犯人を突き止めることにした。夜中に厨房で張り込みを行い、ついに黒い影を発見する。
「そこにいるのは誰だ!」
カイルが剣を構えると、影は慌てて逃げ出した。しかし、現場に残された魔法の痕跡から、犯人の正体が明らかになる。
「これは……ルシフェル大公の魔法印です」
カイルの顔が青ざめた。皇帝の兄が、エミリアの活動を妨害していたのだ。
「なぜ大公様が……」
エミリアには理解できなかった。しかし、ルシフェルには明確な理由があった。弟が感情を取り戻すことは、自分の野望にとって都合が悪いのだ。
宮廷の政治的駆け引きに巻き込まれながらも、エミリアは料理で解決策を見出していく。
「信頼のスープ」を宮廷の人々に振る舞い、疑心暗鬼に陥りがちな宮廷内の人間関係を改善した。また、「真実のパン」を使って、隠された悪意を暴き出すことにも成功する。
皇帝からの信頼は日に日に厚くなり、ついに宮廷晩餐会での料理を全面的に任されることになった。
「各国の大使をもてなす重要な晩餐会です」
宮廷長が説明する。失敗すれば国際的な恥となり、成功すれば帝国の威信が高まる。
エミリアは「友好の香草」「平和のスパイス」「理解の調味液」を組み合わせた特別なコース料理を準備した。異次元の調味料の力を最大限に活用し、各国の代表者たちの心を一つにする料理を作り上げる。
晩餐会当日、エミリアの料理は予想以上の成功を収めた。
「帝国の宝だ!」
隣国ヴェルディア王国の大使が絶賛の声を上げる。
「この味は……故郷の母を思い出します」
厳格で知られるノルディカ公国の代表が、涙を浮かべながら語った。
各国大使も絶賛する料理の腕前に、宮廷内でのエミリアの地位は不動のものとなった。しかし、この成功が新たな危険を招くことになる。
「あの娘は危険だ……」
ルシフェル大公だけは、エミリアの活躍に警戒を強めていた。彼女の影響力が強くなればなるほど、自分の計画に支障をきたす可能性が高くなる。
「少しずつだけど……陛下の心が開かれている」
エミリアは手応えを感じていた。昼のアドリアンも、以前より表情が柔らかくなり、時折人間らしい感情を見せるようになった。
しかし、三ヶ月の期限まで残り一ヶ月という時点で、焦りと希望が交錯していた。皇帝の心を完全に溶かすには、まだ時間が足りない。
「私にできることは……もっとあるはず」
夜空を見上げながら、エミリアは決意を新たにした。愛の力を信じて、最後まで諦めずに戦い続けると。
宮廷の窓から見える星々が、まるで彼女を応援しているかのように輝いていた。




