13 異次元料理の修行
深夜、宮廷が静寂に包まれる中、エミリアは初めて「愛の調味料庫」への扉を開こうとしていた。専用厨房の魔法陣に手を置き、心を集中させる。
虹色の光が立ち上り、気がつくと幻想的な異次元空間に立っていた。
「お帰りなさい、エミリア」
料理の精霊アモーレが温かく迎えてくれる。彼女の周りには色とりどりの調味料が宙に浮かび、甘い香りが空間全体を満たしていた。
「各次元の調味料には、対応する感情の力があります」
アモーレが説明する。愛の次元はピンク色の光に包まれ、その中で「心温スパイス」が柔らかく輝いていた。
「これを料理に使うと……」
エミリアが恐る恐る手を伸ばすと、温かな光が指先から全身に広がった。まるで母親に抱かれているような安心感に包まれる。
翌朝、皇帝の朝食に心温スープを提供した。アドリアンが一口すすった瞬間、その冷たい表情に微かな変化が現れた。
「このスープは……不思議だ」
十年ぶりの温かさが胸の奥で疼く。エミリアは小さく微笑んだ。
次に試したのは「絆ハーブ」を使ったサラダだった。宮廷の人々との関係改善を願い、心を込めて調理する。食事を共にした貴族たちの表情が徐々に和らぎ、エミリアへの風当たりも少しずつ弱くなった。
「あの平民の料理は……確かに何か特別なものがある」
囁き合う声にも、敵意より興味が勝り始めている。
主厨師長マルガリータとの料理対決では、エミリアの真価が試された。ベテランの料理人が作る伝統的な宮廷料理に対し、エミリアは「真実シュガー」を使ったデザートで勝負に出た。
「勝負!」
マルガリータの挑戦的な視線に、エミリアは怯まなかった。
異次元の砂糖は、食べる者の心に正直さをもたらす。皇帝がデザートを口にすると、普段は決して表に出さない本音が漏れ始めた。
「君の料理を食べると……忘れていた何かを思い出す」
その言葉に、宮廷全体がざわめいた。マルガリータは驚愕の表情を浮かべる。
「あなたの料理には……愛がある」
プライドの高い主厨師長が、ついに認めざるを得なかった。
「勇気ペッパー」を使った肉料理では、皇帝に積極性を取り戻させることに成功した。普段は部下任せにしていた政務に、自ら意見を述べるようになったのだ。
宮廷の食事が変わることで、全体の雰囲気も徐々に明るくなっていく。エミリアの料理は単なる食事ではなく、人々の心を癒す魔法のようだった。
しかし、異次元の調味料を使うたびに、エミリア自身にも変化が起こっていた。前世の記憶がより鮮明に蘇り、愛の女神としての力が少しずつ覚醒していく。
「私は……本当に普通の人間なの?」
鏡に映る自分の瞳が、時折神秘的な光を宿すことに気づいていた。




