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7 スライムシリウス君

「ぎゃああ!!シリウス君が死んじゃう!!!いやあ!!え?私がやっちゃた?うん、私が犯人だ!じゃあ、私、警察に行かなきゃ!!」


 もう、思い切り泣きそうになりながら潰れたシリウス君から飛びのくと、シリウス君は、ぼよぼよしながらゆっくりと立ち上がろうとした。


「マオちゃー」


「ひいいいいい!!!!」


 恰好良かったシリウス君が変な妖怪みたいな姿になってしまった。しかも私が犯人。両手を出して「私がやりました」って警察に行かなきゃいけないよね?


「マオちゃー、だーじょーぶ?」


「ひいい!あ、シリウス君、喋れるの?」


「うー。なーだか、しゃべりにくーけど」


「無理しないで!わ、私は大丈夫だけど、シリウス君は大丈夫じゃなさそうだよ。見た目が、なんていうか、ぼよぼよしてちょっと、スライムって分かる?あんな感じになってるし。あれ?小さくなってない?」


「あー。すらーむ?ちょと、とびちって。かたちがまーだむずかしー。まー、もーちょっとで、もどるーよ」


「そ、そう?シリウス君が大丈夫ならいいけど。病院とか、行かなくていいのかな。私、犯人になっちゃったけど」


 私はゆっくりとシリウス君に手を貸して起き上がらせると、シリウス君は手を振って、飛び散った自分の欠片を吸収し出した。


 キラキラのシリウス君の欠片がしゅーっとスライムシリウス君に吸い込まれていく。


「もーすこし、ぼく、がんじょーだったら、マオちゃーをだきとめたー」


「ううん。シリウス君のおかげで私は怪我がないよ。私がシリウス君をお尻で潰しちゃったけど。べしゃって」


「ぼく、だいじょーぶ」


 ぼよぼよしたままのスライムシリウスくん。ちょっと変だけど、にこにこしてくれて優しい。そして、シリウス君の言う通り、少しずつ元の顔に戻っていった。


「ぼくのこと、こわくない?」


「うん。怖くはないよ。不思議だけど。大分戻ったね。よかった」


「うん。僕もよかった」


言葉はちゃんと喋れるようになったみたい。でも、まだ少しスライムっぽいシリウス君に「シリウス君、コレ、紙」と、言って私はシリウス君に紙を見せた。


「うん、間違いない。コレは……。マオちゃん、そのまま持っていてね」


「分かった」


 まだ、完全に顔が戻っていないシリウス君がちょっとキリっとした顔をして、ゆっくりと紙に息を吹きかけた。


「ふー」


 スライムシリウス君が紙に息を吹きかけたとたん、また、夜の時のようにキラキラと紙から不思議な(もや)が飛び出していった。


「ふわあ」


 思わず、声を出していると、続けて、『アンタレス』とシリウス君が呟いた。そして、その不思議な靄は綺麗な赤色になって空に吸い込まれていった。


「うん、出来た。よかった」


 私が真っ白な紙に目を向けるとは不思議な文字が前の紙と同じように浮かび上がっていた。


「有難うマオちゃん」


「うん。シリウス君、よかったね」


 気が付けばシリウス君の顔は完全に戻っていて、私が渡した紙を手のひらから吸収した。ちょっと間抜けな顔のシリウス君も可愛かったのに、今はもう、前の恰好良い顔に戻ってしまっていた。


「あっという間に二枚も集まった。魔法書から消えた紙は全部で十枚。あと八枚集まればいいんだ」


「八枚かあ。なんとかなりそうな気がしてきたよ」


「うん、そうだね」


 公園の日陰にあるベンチに二人で座ると、シリウス君は私の(ひざ)に手を置いた。


「マオちゃん、膝、怪我(けが)してる」


「え?あ、すりむいちゃったのかな。木を登るときも下りる時もべたーって木に引っ付いて、ずりずりしちゃったから」


「ごめんね。痛い?」


「ううん、痛くはないよ。ちょっとかゆいけど」


 シリウス君が置いた手は冷たくて気持ちいい。


「シリウス君の手、気持ち良いね。あれ?」


 私の膝の上に置いたシリウス君の手に私は自分の手を置いた。ちょっと前までゼリーみたいにぷよぷよしていたのに、今はこんにゃくゼリー位の(かた)さになってる。


 まだ、(やわ)らかいけど、確かに硬くなってる。


「うん、やっぱり硬いよ」


 ツンツンついてシリウスくんの硬さを確認する。


「うん、二枚になったからね。僕の身体も少し丈夫になったんだよ」


「あ、じゃあ、全部魔法書が揃うと、シリウスくん、ゼリーじゃなくなるんだね?」


「ゼリー?うん。どんどん身体を作りやすくなるかな」


「そっか。じゃあ、シリウス君が元気になるってこと?」


「まあ、そんな感じかなあ」


「うん、分かった!」


 私達はその後、夕方になるまで、シリウス君とカブトムシを探したりしたけれど、結局見つける事は出来なかった。でも、家に戻って、朝、起きると、窓を開けて寝ていたおじいちゃんの顔にオスのカブトムシがくっ付いていて、おばあちゃんが捕まえてくれた。


 私はそのカブトムシを飼う事にした。


「カブトムシの名前、どうしようかな。よし、ナポリタンにしよう。おーいナポリタン」


 この間、食べた夜ご飯を思いだしたんだけど、私はこの夏休みの間、毎日カブトムシ(ナポリタン)の世話をシリウス君とする事になるのだ。




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