5 夏休み中にしたいこと
「おい、マオ。お前、今日は何するんだ?」
朝ごはんを食べながらおじいちゃんが私に聞いてきた。
「いいか、マオ。夏休みは有限だ。遊びまくる為には予定をいれろ。ダラダラ過ごすのはもったいないぞ」
「おじいちゃんって、変な所で真面目だね」
お味噌汁を飲んで、おばあちゃんを見ると、おばあちゃんは「不真面目ってやつだよ」と返事をして、おじいちゃんの話には返事もしなかった。
「よし、夏休みの間にしたい事を紙にでも書いておけ。で、明日からそれをしていけばいい。で、それをだな、自由研究にしろ。やりたい事やりまくった夏休み。そんな題名で、感想を書けばいいだろ?遊びまくってついでに宿題も出来る。一石二鳥ってやつだ」
「やっぱりおじいちゃんって真面目」
なんだかんだ私の宿題の事を考えるおじいちゃんは、不真面目ではない。多分、本当に真面目だ。
キュウリの漬物をポリポリ食べていたらおばあちゃんが麦茶をいれてくれた。
「マオ。やりたい事を書くのはいいかもね。あと、コレ、うちの前のバス停の時刻表。児童館の方に行きたい時はバスで行ってもいいわよ。そこの財布にカードも入っているから。バス乗る時は運転手さんに声掛けて乗るといいわよ」
「分かった」
「ああ、そうだな。俺がいつでもいるわけでもないしな。今日は散髪に行ってくるか」
私は朝ごはんを食べ終わると、ノートを持って、縁側に座って考えた。
朝早いのに、もう蝉は煩く鳴いている。
「やりたい事か」
何だろう、うーんと考えながら、ノートに書きこんでいった。
『夏休み中にしたい事』
・魔法書を完成させる
・スイカ割り
・お化け屋敷に行く
・虫取り
・お菓子作り
・バーベキュー
・キャンプ
・花火
・宿題を終わらせる。
ここまで書いていると、ノートに影が落ちた。
「マオ、ここ、暑くない?」
「おばあちゃん。日が入ってきたから中に入る」
「やりたい事、決まった?」
「うん」
「よかったわね。沢山、遊びなさい」
おばあちゃんはそういってキッチンの方へと歩いていった。
ふー。
魔法書なんて書いてたの、見られなくて良かった。
本当にシリウス君と会ったんだよね?
自分の小指を見ながら昨夜の事を思い出す。
どうやって、残りの紙を探したらいいんだろう。シリウス君は私が分かる力をくれたって言ってたけど。
「マオー。おじいちゃんも、おばあちゃんも出掛けるわね?もし出掛ける時は鍵を掛けて出て頂戴。川の方は行っちゃだめよ?出掛ける時はスマホ持ってね?」
「はーい」
「おい、マオ、楽しめよ。ガキは思い切り遊べ。それが仕事だ」
「はーい」
「じゃ、夕方には戻るから」
おじいちゃんとおばあちゃんが出掛けて行き、私はスマホと財布、水筒を持ち、帽子を被ると家を出た。
「神社の裏に行くかな」
おじいちゃんちから少し離れた所にある大きな神社は有名ではないけれど、多分、凄く古くてまあまあすごい神社なんだと思う。大きな楠木があって、立派な鳥居があって、ちょっと怖い像なんかもある。
神社の下には小さなカフェがあって、そこはほとんどの日が休みなんだけど、空いてる日はドーナッツやクッキーも売っている。小さな紙コップに入れて売ってくれて。安くておいしくて私は時々買いに行く。
神社の裏には山もあって、男の子達がカブトムシを採りによく行くと聞いた。
私もカブトムシかクワガタを捕まえたい。犬や猫を飼うのはお母さんに反対されるだろうけど、カブトムシとクワガタならきっと飼ってくれると思う。
「捕まえれるかな。まあ、今日は様子を見るだけでもいいか」
虫かごも、虫取り網も見つけられなかったからとりあえず手ぶらで神社まで行く事にした。
カフェは運よく開いていて、お店に入ると、クッキーとドーナッツと、夏限定の白玉が売っていた。
大人の人は奥の席でコーヒーやランチを静かに食べたりするんだろうけど、私達はここまでしか行ったことがない。
クラスの女の子はお母さんと奥の席で「お茶」をしたと言っていた。
「レモンを入れたら色が変わったジュースを飲んだの。アイスも食べて美味しかった」
「色が変わるの?凄い」
「なんだっけ、なんとかピーとかそんな名前」
「ピー?レモンピーみたいな?」
「うん、そんな感じ。マオちゃんも今度、注文したらいいよ」
そんな話を思い出して、なんとかピーってなんだろう?とか、白玉だんごにするか、ドーナッツにするか悩んでいると、お店のお姉さんがやってきた。
「こんにちは」
「あら、いらっしゃい。今日はお友達も一緒?」
顔なじみのお姉さんに挨拶をすると、お姉さんは私と私の後ろの方を見て挨拶をした。
私が後ろを振り向くと、「マオちゃん、こんにちは」と言って笑うシリウス君が立っていた。