2 夏休みの始まり
「あー。家の中も暑いなあ」
「クーラー。クーラーつけて。扇風機も回して。もう!窓開けたら、余計暑いわね!」
ピピピとおじいちゃんがクーラーのリモコンを操作して、足で器用に扇風機のボタンを「おらよ」と言いながら押した。
「もう!行儀悪いんだから!」
おじいちゃんが足でつけたのを見て、おばあちゃんが怒ったけど、おばあちゃんも何かもぐもぐ食べながら、お盆に麦茶が入ったコップを三つ持ってきた。
「おい、よくばりババア。お茶かよ。ビールは?」
「まだ日が高いわよ。もう少し待ちなさいよ。マオがいるんだから。何かあったらどうするのよ」
「ああ、そうだなあ。じゃあ、マオ、乾杯」
そう言って、勝手に私のグラスにカチンと自分のグラスを合わせると、おじいちゃんは一気に麦茶を飲み干した。
私もカランと氷が入っている麦茶に手を伸ばして、飲んだ。冷たい麦茶が、ツーっと口から喉を流れて行くのが分かってぶるるっとくる。
「ぷはー。美味しいね、おじいちゃん」
「くううううう。あー。麦茶でも美味いな。ビールは夜に取っておくか。な。マオ」
私の頭をぐりぐりと撫でると、自分で冷蔵庫までいって、かき氷のアイスを二本持ってくると私に一本くれた。
「ホラ、マオ。食え。熱中症に気をつけないとな」
「ありがと」
苺のかき氷のアイスバーを食べながら、扇風機に当たってリュックサックから宿題を出した。
「おい。マオ。まだ、夏休み初日だぞ、なんで宿題なんて出してるんだ?」
「うん、早く片付けた方がいいかと思って」
「はー。マオ、いいか。夏休みは遊ぶためにあるんだぞ。宿題をする為の休みじゃない。夏にしか出来ない事をする為の休みだ。その遊びが終わってから宿題はするもんだ。夏休みしょっぱなから宿題を取り出すな。病気になるぞ」
「病気にはならないよ、おじいちゃん。絵日記とか、作文とか、自由研究とか、時間が掛かりそうな物があるから、早めに取り掛かった方がいいと思うんだけど」
「そういうのは、パパっと何か写せばいいんだよ。テレビとか、ほら、今流行りのネットとかでカタカタっと打ったらなんか出てくるだろ?先生も真面目に見てねえよ」
「そうかなあ。今は、AI禁止とか、インターネットを写したりするのダメだって先生言ってたよ?使った資料もちゃんと書かないといけないんだから。タブレットを使って宿題するのもあるから」
「なんだよ。タブレットで宿題?はー?」
「おじいちゃん、この前、道徳の授業で、勉強は絶対役に立つって習ったよ?知識は荷物にならない。努力は自分の為になるんだよ」
「マオ、いいか。役に立たない事もあるんだ。鉄棒があるだろ?逆上がり。俺はあれが出来ん。でもな、出来なくて困った事は今までない。という事はだ。夏休みの宿題を適当にやってもこうやって無事に大人になれるって訳だ。いいか、役に立たない事もあるって事だ」
おじいちゃんが宿題をさぼるように力説するのを私は適当に受け流した。もう、真面目に聞いてる方が疲れちゃう。おじいちゃんはこういう事には一生懸命にサボれサボれって言うから、悪い人ではないけど、ちょっと面倒な人だ。
「マオ。宿題するならジジイがいないとこでしなさい。この人、邪魔しかしないから」
「うん、分かった」
「なんだと。お前ら、碌な大人にならないな。いいか、真面目がいいんじゃないんだぞ。人間はな、応用力が大切なんだ」
「ほら、マオ。そこに筆記用具あるから。この間、地区の廃品回収に参加したら蛍光ペンのセット貰ったのよ。マオにあげようかね」
「わ。ありがとう」
私がおばあちゃんちの自分の部屋となっている、居間の隅っこのスペースに移動をすると、お祖母ちゃんが折り畳み式の、お洒落なパーテーションを立ててくれた。
小さな机にタブレット。布団を敷いて、本棚で囲ってある二畳程の狭い空間。入口は折り畳み式のパーテーション。
そこが私のおばあちゃんちの部屋。
客間があるんだけど、なんだかそこは広くて、居間からも遠いし、私は好きじゃないからこうやってここを区切って部屋にしている。
こうやって狭いけど、秘密基地みたいな感じが私は好きだ。
おじいちゃんがキャンプ用のランプを持って来て私の秘密基地の上に釣るしてくれたり、おばあちゃんがこまめに掃除してくれてたから、いつ来ても、綺麗にされている。
「なんだか、マオはネコみたいだなあ」
私が狭い場所を好んでゴロゴロしていると、おじいちゃんはそう言ってたけど、私はネコも犬も好きだから悪い気はしなかった。
夕方になり、私が算数の宿題をしていると、ピザが届いた。
「マオ!パーティーを始めるよ!」
「はーい」
そうして、おばあちゃんとおじいちゃんと一緒に悪い事をする、夏休みが始まったのだ。
本日、続けて投稿しました。
最終話迄予約投稿します。朝、7時10分、昼、12時10分、夜、19時10分に投稿予定です。