魂の行方
俺は不死川。『孤高の怪物』の行方を調査し、殺害を命令された支援対象ギフテッドだ。ダルはギフテッド間でも顔が広い。なんせ千里眼の持ち主だ。俺のような能力者はすぐ見つけられる。警視庁は藁にもすがる思いで大金をチラつかせてきた。
名前の通り俺は死なない。ギフト名は『超再生』 なんで俺が選ばれたかって? どうしようもないからさ。 『孤高の怪物』は消息不明じゃない。ダルによって足取りは掴めているが、捜査に向かった奴が誰1人帰ってこないからそう言われている。国のお偉いさんは隠蔽が大好きだねぇ本当。
目の前にたたずむ廃病院。人の気配を全く感じない。
「本当にいんのかよぉ〜こんなとこぉ〜」
ダルの能力に疑念を抱きつつ、足を踏み入れ指定された一室へと忍び寄る。
「ビンゴだねぇ〜ダルちゃん」
椅子にもたれかかり、足を組む男性。本を片手に2.5Lのコーラをラッパ飲みしていた。
思ったよりずっと細身だな。ホッキョクグマ並みの奴かと思ったが、少し体格のいい普通の男じゃないか。両手も塞がってる。ずいぶんと余裕ぶっこいてんじゃねぇかぁ!?
忍ばせていたサブマシンガンの照準を男に合わせる。
「最近誰かによく見られている気がしてな・・・でもお前じゃない」
なんだとぉ!?
体がずっしりと重くなるのを感じた。息をひそめる俺に気付ける感の良さ・・・狙われ慣れているな。
そんなことを考えていた途端・・・身体中に響くものすごい衝撃に飛び散るコンクリート壁。ぶち壊された壁から鋭い眼光が俺を見下ろしていた。人殺しの目だ・・・
尻もちをついた状態から立ちあがろうとする俺の下半身に容赦なく大振りの蹴りをかまして来た。廊下の床ごとエグり取られた俺の足は瓦礫と一緒に窓ガラスを突き破り吹き飛んでいった。
俺はすぐさま下半身を再生し、サブマシンガンを放ちながら後方へ走りだす。
男は弾丸を腕でなぎ払いながら廊下に飛び散った瓦礫を拾い上げ、俺の顔面に目がけて投げつける。
「うぉお!?」
間一髪、腕で防御する。失った腕を再生しながら、柱の後ろに隠れるが無駄に終わる。男の振り抜く拳で、柱がへし折れるのを感じた。腹部に猛烈な衝撃、しかし俺は折れた柱から男の目元目掛けて弾丸を打ち込む。その弾丸は奴の頬をかすりながら髪を散らした。
冷たい表情で俺を見つめ、立ち尽くす男。
「ギフテッドだな」
その言葉にこう返す。
「噂通りの怪物じゃんよ・・・」
男との間合いを離しつつ、俺は腹部を再生する。そしてこう言い放った。
「俺は殺せない、何をしても無駄だ!お前が『孤高の怪物』だとよくわかったぜ・・・増援を要請した。このまま俺が足止めしてりゃ俺の勝ちなんだよ!!馬鹿力じゃ不死身の俺は殺せないぜ〜?」
間合いを維持しつつリロード。雨あられのように放つ弾丸をまたも腕でなぎ払いながら男も言い返す。
「テセウスの船というパラドックスは知ってるか?」
「は?」
弾丸の雨が止む。
「その名の船のパーツを新しく入れ替えた時、それはテセウスの船と呼べるだろうか?」
そりゃ呼べるだろ、実際に俺は何度も体を新しくしている。それでも俺のままだ」
「本当は気づいているだろ?お前は何か隠している」
「何を言ってる?お前は体の一部を交換するだけで本人じゃ無くなると言っているのか?臓器移植はどう説明する!」
「入れ替えるのが頭だったら?」
血の気が引いた。男の言いたいことの本質に気づいたからだ。
男は続けてこう言い放つ。
「何事にも限度がある。船のパーツも半分以上入れ替えれば、もうその名の船とは呼べないよな?残った古い部品で船をまた作り直したらどうなる?どっちが本物かわからないだろ?」
今まで俺もわからなかった。恐ろしくて考えることを放棄していたのだ。魂の存在について・・・
男は続けて話す。
「自分が自分である証明には自分という観測者が必要だ。故にお前は意識が遮断されない手足や腹部の損傷は許容しているな・・・新しい細胞による再生が行なわれても、お前自身の意識がそれを観測できるからだ。しかし首を飛ばせば別だ・・・再生される頭を意識の途切れたもう一つの頭は観測できないこと、再生される頭に今ある頭の意識が移動するという保証がないから恐れている。だから顔への損傷を避けているんだろ?」
「やめてくれ」
「俺が思うに・・・首を再生したお前は記憶を引き継いだ別人だ。お前は何度も死んでいるんじゃないのか・・・? 」
「やめろ!!!!」
男は拳を床に叩き込み、大穴を開ける。
衝撃でよろつく俺の首に男は手をかけた。
「寝てろよ、首よりマシだろ?」
そうして俺の意識は穴の中へと消えていった。