伝わらない世界感
警視庁にはギフテッド対策本部が設けられていた。私は深田部長に案内され扉を開く。
「ダルさん・・・?」
ギフテッドブックに記載されていたAランク、支援対象ギフテッドの姿があった。
「初めまして今年配属になった天月です。よろしくお願いします。」
気だるげな表情と同心円状の黄色い瞳が私に向いた途端、全身が見張られているような感覚に陥り、冷や汗が落ちる。足が震えているのだ・・・
「やぁ、私はダル。ミディアムショートに美しい茶色の髪・・・瞳も大きくスタイルもいいねぇ。」
どうなっているんだろうか?彼女は私の容姿を正確に言い当てたのだ。疑いの目を向けてしまう。
「深田部長・・・見えてないなんて本当なんでしょうか?胡散臭すぎます。」
「私も最初はそう思ってたんだがな・・・まぁわかるさ。」
そんな、アホらしい。私の中で疑念が募る。後ろを振り返りデスクに戻るダルに対して私はある行動を起こそうとした途端・・・
「好奇心旺盛だね。発砲許可はおりているのかな?」
からかうつもりで抜こうとした拳銃。ダルの言葉に全身が硬直した。
「色や思考まで認識できるっておかしいと思うだろ・・・? わかるんだよ。」
何が起きた?マジックやメンタリズムではない・・・!おかしすぎる。
そんな思考が私の中で渦巻く中、ダルは話を続ける。
「コウモリは色覚がないと言われているが本当だろうか?」
「目が見えないんだからそりゃ・・・」
「人は光の波長の長さで色を判別し、長いものは『赤』短いものは『紫』と認識しているらしい。そしてコウモリは超音波で対象物との距離を判別してるんだとか・・・。それなら遠くにあるものを『赤』近くにあるものを『紫』と認識してもおかしくない・・・。私はそう思うんだよ。なぜ自身の感覚が他の生物や人と同じだと決めるのか私には理解できないねぇ」
反論しようのない内容に私は絶句した。さらに不適な笑みを浮かべ、ダルは自身の見える世界を話す。
「私はね、服の擦れ、骨のきしみ、表情筋等で発せられる小さな音から姿勢や感情を知覚しているんだよ。鼻もよく効く・・・髪染めてるね」
「どれくらい知覚できるんですか?」
「半径10キロくらいまでかな?前も後ろも関係ない。音や香りが君たちで言う『視覚』であり、私の世界なんだよ」
ダルは孤高の怪物の行方を追うのに有力なギフテッドだった。