聖女と会うことになった青年は自分の研究のせいだとおじけづく
「聖女様が今教会に来てるぜ!!!」
扉を何度もたたき、僕の名前を呼ばれたので、扉を開けた瞬間、いあや開け始めたころにはアレンのでかい声が聞こえた。
「そうなんだ」
僕は寝ぼけまなこをこすりながら、あくびをこらえながら答える。アレンは興奮冷めやらぬといった様子であった。
聖女様、この国にたった一人の存在。神様の力の一端を使い、瘴気を払い、あらゆる怪我や病気を治す尊い存在。
その聖女様がどうやら、この村に来ているようだ。
何もない村なのに。
なにか理由があるのだろうが、僕には興味なかった。
「カイト、聖女様だぞ、聖女様」
「わかってるよ、見に行ってくればいいじゃん、見れるかどうかは知らないけどね。僕は寝るよ」
僕はそう言って、扉を閉めようとするが、アレンが扉をつかむ。
「いやいや一緒に見に行こうぜ。せっかくの機会だぞ、もうこの機会ないかもしれないだろ」
「僕は眠いの」
それだけ言って、僕は扉を閉めるのを諦め、ベッドへと向かおうとする。アレンが閉めてくれると思ったので。
だが、アレンは僕の腕をつかむと、「いいから行くぞ」といって引っ張る。
僕はアレンの力にかなわないのを知っているので、諦めて引きずられるように歩く。
「どうせ会えないよ、時間の無駄だよ」
「わかんねえだろそんなの、一目でも見たいだろ」
「一目みてどうすんだよ」
「一目でも見られればなんか加護有りそうだろ、それにすっげえ美女らしいぞ聖女様」
僕は呆れてため息をつく。何を言っても無駄なようだ。
夜遅くまで作業をしていて、寝落ちしただけなので、ほとんど僕は寝れていない。睡眠の取れてない頭はまったく機能しない。眠気がほとんどなので、もう諦めて黙ってついていくだけにする。
教会の近くは多くの人でごった返していた。ぱっと見でこの村のほとんどの人間が集まっているようだ。聖女様を一目でも見ようと集まっているようで、僕はすごいなぁと他人事に思ってしまう。
聖女様はすごい存在だ。それは確かだが。別に会いたいという感情は湧いてこない。
今の僕は自分の研究のためのことをするほうが大事だ。今であれば睡眠だ。研究のための、活力を得るための睡眠が必要だ
この騒がしい中、立ったまま寝られるかなと思って、目を閉じてみる。
その時さらにあたりが騒がしくなる。どうやら何かあったようだ。アレンは「なんだなんだ」と言って、アレンは教会の方へと向かった。僕を連れて行こうとはしなかった。
今なら帰れるかなと思いながらも、騒がしい中だが、どうやら立ったまま寝れそうだとも感じる。ここで寝ようかと思う。勝手に帰るとアレンがうるさそうだと思って、目を閉じる。
立ったままでもまどろみに囚われ、寝ていると、誰かに肩を揺さぶられる。僕が目を開けると、肩を揺さぶっていたのはアレンだった。かなり焦った様子であった。僕が「どうしたの?」と声をかけると。
「聖女様が話があるからお前来いって」
「は?」
どうやら夢のようだ。僕はそう思いながら、もう一度目を閉じようとする。
「お前がカイトか?」と鎧を着た兵士に問われる。明らかにこの村の外の人間に。
僕はどうやらこれは夢ではなく、現実のようだと思う。だが、同時に僕みたいな人物に聖女様がなんのようなのだろうと思ってしまう。
自分の研究が関係しているかもしれないと思う。なぜなら僕の研究は正直異端だからだ。だが、あの程度で聖女様が会おうとするだろうかとも思う。
まあ会ってみるしかないと思う。断ってもろくなことにならない。行ってもろくなことにならないかもしれないが、少しでもろくなことにならない可能性があるのはついていくほうだ。
そう思いながら、ひどくびくびくしながら兵士に連れられ教会の中へと入る。そのまま、教会の一室へと連れられる。
その部屋に入ると、聖女様らしき人物と護衛の騎士らしき人と村長がいた。
聖女様は噂に疑わず美人だった。
黄金の輝きを放つ長髪。宝石のような碧の瞳。すべてが煌びやかに見えるような存在であった。
「カイトで間違いありませんね、村長」
村長はびくびくとした様子で「はい」とうなずく。聖女様は村長に退室を促す。村長は即座に退室し、聖女様とその護衛の騎士と僕だけがこの部屋に残ることとなる。
護衛の騎士からは物凄く圧を感じた。僕はこれからどうなるんだと思っていると、聖女様が問うてくる。
「カイト、いきなり呼びつけてごめんなさい。少し聞きたいことがありまして」
「いえ、お気になさらず、ください」
自分の中で最大限敬うような言葉をする。今間違った気がするが、下手なことを言えないと思った。緊張で口の中がからからになってきて、おなかがきりきりと痛んでくる。
「落ち着いてください。本当にちょっとしたことですので」
聖女様は微笑む。柔和なほほえみはこちらの気分を少し落ち着かせる。人前で申し訳ないが、大きく息を吸って吐く。さらに落ち着いた気がした。僕の様子を見て、「少し落ち着きましたか?」と問うてくる。僕は「ええ。少し」とうなずく。
「では、聞きますね。魔物の研究をしていますよね?」
僕はドキッとしながらもゆっくりとうなずく。下手に誤魔化すことはできない。ここは正直に答えるしかないと思ったのだ。
「実は神託がありました。あなたの研究について」
「僕の研究で!?」
僕は非常に驚く。大した研究じゃないはずだ。それに神託があったなんて有り得ないとも思ってしまう。
「あなたの研究がこの国を救う一助になると、ですが研究の詳細はわかりませんでした。そこで、研究の詳細を聞かせてもらってもいいですか?」
彼女の言葉は柔らげだが、どこか圧を感じた。僕は誤魔化しても仕方ないと思い、正直に話す。僕の研究を。
僕の研究は魔物を食べるようにするための研究だった。
魔物を食べると、人体に悪影響を及ぼす。だが、魔物を食べれるようになれば食料問題が解決する。この村では食料がそれほど多くない。広大な畑も作れず、土壌も悪い。
5年前、飢饉がこの村を襲った。天候不良で作物がほとんどできなかったのだ。
あの時の村のことは今でも思い出せる。
誰もが殺伐として、仲が良かった村の人たちは自分たちが生き残るために他人を陥れる人物も現れた。
自分だけが助かろうと皆が動き、一部では食料のために殺人を犯すものもいた。
村の状態は混乱と狂気に満ちていた。
僕の両親はその混乱の中で亡くなった。
だから、その悲劇をなくすために、魔物を食べる研究を僕は始めた。
作物が取れなくても、皆が食料に困らないように。
といっても金もほとんどないので、ほとんど研究と呼べるものとは言えないものであったが。
「なるほど、魔物を食料にすると?」
「ええ、いくつかはほぼ悪影響なしで食えるようになりました。僕に耐性がついただけかもしれませんが」
聖女様はそれを聞いて、思案する素振りを見せる。
僕はこれからどうなるんだろうと思う。魔物を食べるなどいくら神託があっても許されないとされ、研究を止められるかもしれない。運が悪ければ殺されるかもしれない。
僕がびくびくとしていると、聖女様はよしといってうなずく。
「カイト、私がその研究を支援するように、国に話します。支援が始まるまでに研究成果をまとめてください。手伝ってくれる人を何人か私の指示で送ります。信用する人物を選びます」
「え?!」
あまりの突然なことに僕は驚く。
「驚くかもしれませんが、あなたの研究はきっとこの国の多くの人を救います。ですので、支援させてください」
いきなりそう言われても、僕は驚くだけだ。
聖女様は立ち上がり、僕の手をつかむ。僕がさらに驚くと、
「あなたの研究を応援します。頑張ってください」と聖女様は言う。
僕は悩んだ。
ここまでされても研究をするべきかどうかを。
この研究を国の援助のもとに進めるとなると、もしかしたら僕は恨まれ、ねたまれるかもしれない。厄介ごとに巻き込まれるかもしれない。
だが、脳裏に浮かぶのは、5年前の村のこと。
自分の今まで生きてきた中で最も辛かった時の記憶。
悩みはすぐになくなった。
「必ずや成果をあげます」
僕は聖女様に宣言した。聖女様は微笑んだ。
そして、僕は聖女公認、国公認のもと魔物を食べる研究を進めた。
数年後、魔物を食べる研究は大きな成果をあげ、この国の食料事情を大きく変化させた。最初反発はもちろんあった。だが、飢饉に陥った村がこの研究のおかげで飢饉を脱する例が増えるにつれ、反発は減った。
そして、この国での飢饉で多くの人が亡くなるということは大いに減った。僕はそれを嬉しく思いながら、あの時、いくら神託であっても僕の研究の援助を決めた聖女様に感謝するのであった・・・