嘘つきは泥棒(初恋)の始まり⑬
ある日、私は違和感を感じた。いつもより体が熱く、気持ちが悪い。頭も重く、フラフラする。温度計で測ると37.5度。微熱である。
「熱ある……」
「学校休むんだろ?」
「そうする」
彼が私に「欲しい物あればメールしてくれ」と言ってそのまま学校へ行く。病院に関しては「普通の病院へ行くリスク」があり、総統に連絡した。
「総統、微熱です」
「君が熱で倒れるのは恐ろしいな。普通の風邪であればいいが……もしも、酷いようなら。私の知る病院へ行くといい。なに『怪人』だろうと見てくれる場所だ」
怪人は身体能力が高く、その怪人の感染症は未知数である。総統の縁の力に安心し、私はお礼を言う。
「ありがとうございます」
「ふむ、マンションの『爆弾魔』との戦いで疲れていたのだろう。じっくり休むといい」
「学校あります……出席日数減ります」
「君はマメだな。記憶を喰えばいいじゃないか?」
「先生の不手際での出席確保は嫌です」
「そうか、わかった。私が聞いたのが悪かった。必要な物を用意しよう。メールしてくれ」
私は悩み、「彼が居ます」とは言えなかった。なので必要と思われる物をメールする。
「怪人に聞く薬はある、持っていくとの事だ」
「はい、どちら様が来られるのでしょうか?」
「ドラゴンを送るからよろしく」
「はい?」
「なに、彼女は病院の経営者だ。まぁ、難しい事は言わないが色々とやっているよ」
「え、え、え?」
「人間では過重労働で倒れるからね。怪人で怪我をした怪人や、人間を治療する。いい仕事だ」
私は彼女が本当に本当のお嬢様だと言うことがわかって驚く。病院も聞けば大手であり、世間の狭さを感じた。そして、待つこと数分。ドラゴンがインターホンを押して顔を出す。ガスマスク姿のドラゴンをお迎えする。
「お、おはようございます」
「おはよう、オブリビオン。お薬持って来たわ。市販品だけど、分量は怪人用にまとめたメモも入れてる。胃が荒れる副作用は胃薬も入れてるから一緒に飲んで。あと、絶対に家から出ないで、あなたの風邪は怪人特攻かもしれないから」
重武装から私は喉を鳴らす。非常に怖くなり聞いてしまう。
「し、死んでしまうんです?」
「私は医者じゃないわ。でも、気を付けて……しっかりとエネルギー補給、発汗後水分補給。あとは自分の怪人の体力を信じて、公安は『怪人用の細菌兵器研究』を他国でしてるから。感染源が見つかったらおしまいよ」
私は軽く、恐怖する。ドラゴンは目がニヤニヤしておりその事で苛められる事を理解する。
「酷い!! 人が苦しい時に不安煽って最悪!!」
「怪人でしょ? こんなのへっちゃらで胸を張りなさい。大丈夫よ、オブリビオンは強い」
「うぅ、ドラゴンのバカ。でも、ありがとう。助かったよ」
「早く元気になって彼氏を安心させなさい。じゃぁ仕事に戻るから……バイバイ」
ドラゴンがそのまま玄関を去り、私はそのまま薬とゼリー状の食事を取る。うどんは入っておらず、レトルトお粥が入っていた。メールでも再度、お礼を送信し、お金に関しては無料だった。本当に暖かい仲間だ。
そんな、午前中を寝てすごし。高熱になったときに解熱剤を飲んでいた時に連絡が来る。気付けばお昼休憩だ。
「もしもし……ヒメちゃん」
「大丈夫? ヒムちゃん」
「ちょっと熱出て解熱剤飲んでる所。ごめん……寝るね」
「うん、こっちこそ……しんどい時にごめん……」
電話を切る。すると今度は違う方から連絡が来る。
「もしもし、聞こえてるか? カンバラ」
「うん、ヤマダ、こんにちは」
「大丈夫か?」
「大丈夫。何かあった?」
「いや、ただ、嫌いな奴が寝込んでるのザマァしようとしてな」
「安心して、ドラゴンが来たから」
「ああ、あいつらと会ったんだってな。色々あってキャパ越えたんだろ。ゆっくり休んでさ、帰って来いよ」
「うん、ありがとう。ねぇ、地方大会いつ? ベンチでしょ」
「ああ、6月末だな。なに、応援来るの?」
「行くよ、絶対に。だからスタメン頑張ってね」
「お前と同学年な事を忘れてないか?」
「実力主義だよ野球は。プロ野球って球場に年功序列ある?」
私は発破をかける。電話越しに鼻で笑う彼女の声が心地いい。
「わかった。みてろよ……絶対」
「うん、ありがとう電話」
「ああ……野球好きなんだな」
「好きだよ、だから厳しい事言う。四球出したらヤジるからね」
「はいはい、じゃぁ……また学校で」
「うん……バイバイ」
電話を切り、私は不在着信履歴を見る。彼氏からも電話があって寝かせてくれない。しかし、私からかける。
「もしもし、聞こえてる?」
「ああ、聞こえてる。大丈夫?」
「うーん、熱出て解熱剤飲んだの。お姉さんが持ってきてくれて……しんどかったけど。なんとかなってる。ただ、すごく一人で怖いし、寂しくて……泣いちゃった。いつ帰ってくるの?」
大嘘である。
「学校終わってからすぐに帰るよ。必要な物は?」
「ない。うん、早く帰ってきてね……」
「ああ、わかってる」
私は最悪な最低で大嘘つきな怪人である。
*
私は緊急会議として同志を集めた。同志達の姿は全て黒い○として表現されて身分を隠す。目の前に置かれた危険物を同志たちは眺めて不思議そうな雰囲気を出す。怪人として公安員を狙った爆弾魔が処理された。その、きっかけを作ったある学校に仕込んだ爆弾は全て「Error」と表示されて無力化されており、そも一個をなんとか回収した私はそれを支援者の研究所に送り、その報告をする。
「研究機関に送った結果、同志が学校に仕込んだ爆薬は全て、初期状態化されていただろう事がわかった。特に酷い物は出荷前状態と思われるほど、初期化されている」
「それはどういう事かな?」
一人の同志が言葉を発する。それに私は答える。
「学校内にこれを行える怪人か公安が居たことを示す。また、驚くべきなのは初期化されたものでは時間逆行しているとしか思えない物があった。そして、目の前にある危険物から強力な『現実改編粒子』を検知。そして研究所が導き出した答えは『時間逆行能力者』がいる」
ざわつく同志に私は「静かに」と伝えて黙らせる。
「同志たち。そして、驚く事にこの能力者は我々を感知しているのか、この時にも攻撃を行っている。この会議室を出た瞬間に『全て忘れる』。研究所は既に忘れてしまった。私も忘れてしまうだろう」
会議室にある物を用意する。それは記憶を保持するための薬物である。
「怪人の能力を無効化する武器だが、それを我々も飲むことで耐える事が出来る。しかし、元々はこの世に満足した愚か者たちへの水銀弾だ。服用するものではない。毒性はご存知だろう、皮肉な物だ。怪人を仕留める銀の弾が我々に向けて撃たれるのだから」
同志達が一人一人退室する。何も言わずとも、彼らは何を行うべきか理解する。
「我々は手に入れる。奴らより先に、同志の悲願のために」
弾は込められた。そして、私は自分自身に撃ち込む。苦しい戦いだが『なかった事にし、代替の世界観を作る』能力を手に入れるために私たちは聖戦に身を落とすのだった。