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第21話 幻想器【風乗征破(ウンディゴ)】

 ガンガンとナニかがぶつかる音が聞こえる。


 暗闇の中で縮こまる俺たちは、まるで穴倉(あなぐら)の中のウサギだった。アースが生成した土のドームは敵の攻撃を防いでくれるが、防戦ばかりで事態は解決しない。


「私たちは奇襲を受けたのですわ。笑いながら空を往くもの。毒と酸を降らすもの、青白き人魂……」


 俺たちが到着する前の話。

 深淵(アビス)入りしたシノンちゃんを含むDDDMの調査隊はクリーム色の空の下、周辺地形の調査をしていた。淡い光を放つ深淵の空は狂気を呼ぶ。意識に蓋をするような、得体のしれない不安感の中作業は進んだ。


 あくまで迷宮宝具のテスターとして参加していたシノンちゃんは、迷宮魔物(クリーチャー)の襲撃を警戒していた。腰に下げた銀の剣。にぎる手が武者震いを起こしながら。


「最初は、笑い声が聞こえてきたのです」


 生ぬるい湿気がまとわりつく。

 首筋を撫でられているような質量をもった風が吹いていた。

 その風に乗って


 ひそひそ

 くすくす


 どこかで誰かが嘲笑している。そんな声が聞こえた。


「私は生まれた時から曽我咲。社長令嬢ですから、誰かに後ろ指をさされることもありましたわ。嫉妬もありますわよね。小学生のころはいじめられたことも。金持ちだから威張っていると……。つらかったです」


 耳から侵入(はい)った声は頭蓋の中で反響する。

 過去のつらかった思い出が掘り起こされて、嫌な気分になったという。


「私はその程度でした。でも、ひとによって影響が違うのでしょうね。調査隊の職員のおひとりの様子が変わりました。ぶつぶつと、うわごとを言い始めて、最後には、大声をあげて銃を乱射し始めましたの。明らかに怯えてしましたわ」


 味方の銃撃で調査隊は浮足立った。

 精神に異常をきたした職員を取り押さえるために隊列がくずれた。

 

 その隙を奴らは襲う。

 黄金と薄青に輝く触腕を備えた火の玉。背後から取りつき操ろうとする、遊行する毒霧。光の浸食。頭の上に振ってきて口をふさぐ。


「霧……、霧が出ましたのよ……、口と、頭の周りに……。吸ってしまって、それで苦しくて、息ができなくて……目の前が暗くなって」


 シノンちゃんの気道からヒューヒューと狭窄音(きょうさくおん)が漏れる。汗が額ににじんでいた。体の傷は癒えても、心の傷は残っている。

 

『アサヒ、奴らは星の風精、遥か昔、星間嵐(スターストーム)に乗り飛来した生粋の(ロイガーとかツァール)風の化身(と呼ばれるモノ)です。空を自由に飛び回り動きが素早い。私とは相性が悪い』


「確かに。土で打ち上げても、あそこまでお前の刃は届かないもんなぁ」


「ほかの探索者さんたちも迷宮宝具を持っていましたし、応戦したのですわ。けれど、ヤツラはあまりにも早くてとらえきれなくて。一人また一人と宝具を砕かれ……。どうしようもなくなって私たちはあの洞窟に逃げ込んだ。そしてツァトゥグアに襲われたのですわ……」


 ―――――――――――――――――――――――

 -シノンちゃん怯えてるかわいそう……

 -深淵の敵、精神攻撃きつすぎへん? 標準装備でメンタル削ってくるやん

 -アサヒニキが脳筋になるのわかるな

 -よっぽど図太くないとすぐ発狂しそう

 -画面越しでも、不安定になったわ

 ――――――――――――――――――――――


 腰に下げた剣を握る手がカタカタと震えていた。

 シノンちゃんの迷宮宝具も……近接型っぽいしなぁ


「だけどよ、ドクター。ドクターアンデルセン。あんたなら戦えただろうに」


「え……、し、しかしドクターは見ての通り、首だけの方です。迷宮宝具もないので……」

「いや、持ってるよ。自分の迷宮宝具。しかも生産される模造品じゃない。迷宮で発掘される本物を。なのにそのおっさんは、君らが襲われてるのを黙ってみてたんだよ。自分なら奴らに対抗できるのにな」


 じろりと睨むと、白髪交じりの中年の生首はへらへらと笑った。


「そ、それは本当なのですか?」


 ふふふ、ははは。ひひひひ、と

 ひとしきりのうすら寒い哄笑(こうしょう)のあと、ドクターは止まった。


「――まぁ隠していたのは謝りますよお嬢。ただ、私が手を出しても、お嬢の成長にならないと思ったまで。あなたがその新型を使いこなせるようになるのが、私の願いでしたからな」


「だが、彼女、死にかけてんじゃねぇか。工程に固執して全部台無しにするのあんたの悪い癖だよ」


「くふふ、弁解(べんかい)のしようがありませんな」


 ―――――――――――――――――――――

 -生首博士鬼畜(おにちく)

 -調査隊が襲われてるのに、何もせず見てたってこと?

 -でも、生首じゃ何もできないだろ

 -アサヒニキの知り合いだろ。そうは限らんて

 -シノンちゃんがかわいそう。師匠なら何とかすべき

 ――――――――――――――――――――


「ドクター、今の話は本当なのですか? もしそうなら、私は……」

 

 シノンちゃんの顔がゆがむ。

 弟子と言いながらも、今までドクターのこういう側面は知らなかったのかもしれない。このおっさん性格が最悪だからな。


 ぐすぐすと、泣き出してしまったシノンちゃん。

 おいおっさん、何とかしろよ。そう思い睨む。


「――まぁ、いいでしょう。今回だけ力を貸しましょう」

「当然だ。外に出すぞ」

「ええ、お願いしますね。アサヒ坊」


 俺はアースに指示を送り、土壁にドクターの首が通れるだけの穴をあけた。外は濛々(もうもう)とした霧が立ち込め、たちまち侵入しようとしてくる。


 急いで外に投げ捨てた。ぼてぼてと転がる生首。荒っぽいがどうってことない。なんせあのドクターだからな。


 毒霧の中、へらへらとした笑みを崩さず空を眺める。

 この環境の中、首一本でドクターはどう戦うのか?


「――開始(スタート)


 ドクターの首の周りに風の渦ができた。

 ふわりと浮き上がる生首。風は次第勢いを増し、毒霧を散らし小規模から始まった竜巻が拡大していく。


「――環境の掌握。周辺大気(エア)解析(アナライズ)完了(コンプ)。気圧操作、下降下降下降アンダー・アンダー・アンダー


 ドクター・役野(えんの)アンデルセン。

 深淵時代の俺のチームメイト。

 怪物に襲われて首だけになった終わってる博士。


 でもあの人は、戦闘員としても一流だった。 

 ドクターが持つ迷宮宝具の名は【幻想器:風乗征破】(ウンディゴ)という。


 ()()()()()()幻想器(ファンタズマ・グリモ)だ。


 それは、曽我咲やアルキメデスが作る既製品じゃない。深淵層でまれに発掘される原始の迷宮宝具。出自不明・制作方法不明、ただ使い方だけは分かる。搭載された人工知能が教えてくれる。


 ドクターの迷宮宝具は、口の中にあった。

 彼がにぃと笑うと、人工歯に加工された迷宮宝具に翠光が走る。趣味の悪い【風・乗・征・破】の4文字が刻印された入れ歯。だがそれは、風と冷気を操り、空を切り刻む、破滅の牙だ。


「さぁ、風と共に征きますよ、風乗征破(ウンディゴ)

『OK、ドクトルアンデルセ』


 俺たちが見守る中、生成された強烈な上昇気流に乗って、ドクターの生首は、遥かな空に打ち上がる――。


読んでくださりありがとうございます。

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楽しいお話を書いていくつもりですので、今後ともご贔屓に。

千八軒

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