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賢者の猫、かく語りき  作者: おやまの
1/3

0. 目覚め

長く眠っていた物語です。

まさかの語り部『猫』を得て、ようやく芽吹きました。


拙いですが、よろしくお願い致します。

 目を開けたら、視界いっぱいの肉球。

 ぷにぷに。眼福。


 ・・・いやいやそうじゃない。どういう状況なんだ?

 我が家はペット禁止のマンション住まいで、犬も猫も飼っちゃいない。

 それに、視界の下方からチラチラのぞく・・・舌?

 なんだか自分で自分の肉球を舐めているような・・・


 妙な感覚だ。

 ーーああ、そうか。この肉球()も舌も、自分の意志で動かしてない。見ているだけなんだ。


 なんで?夢なのか?

 夢ってこんなにリアルなものか?

 動物を飼ったことのない俺には、猫(推定)の視界に自分のヒゲが入るなんて想像したことすらない。そんなことまで夢で見られるのか?


 ーー夢なら自分の体くらい動かせないかな

 ふと思いついて左前肢とおぼしきそれにグッと力を込める。

 グッ、グッと強い抵抗を受けながら、左前肢(仮)が顔から離れる・・・のもつかの間。あっという間に肉球舐め再開。

 どうやらこの本体(ネコ)の意志の方が強いようだ。


 ーーどうしたもんかな。

 悩んでみても、まさに手も足も出ない。

 しばらく状況を観察してみることにする。


 しかし、観察に徹してみるとなかなか面白い。「VR毛づくろい」とかがあったらこんな感じなんだろうか?

 ・・・なんて考えている内に、触覚までが繋がってきた。

 舌が撫でる肉球は、思っていたより少し固い。

 周りの毛が鼻先をくすぐる。

 肉球(てのひら)に伝わるザリザリとした舌の感触。

 ーーそういえば猫の舌はザリザリしてるんだっけ?


 それに色々な匂いがする。

 知っているような、知らないような・・・なんていうか、田舎のお祖母ちゃんの家のような?

 ・・とは言っても実祖母の家は同じく都内の団地住まいで、田舎の家なんて画面越しにしか知らない。

 普段より強く感じる土や草の臭い。それに薬っぽさが加わる。それが、不思議と不快さや異物感がなくて、なぜだか懐かしいように感じた。


 「VR毛づくろい」は続いていた。

 どうやら猫で間違いないらしい。

 肉球はピンク。毛色は白・・いや、ブチ?黒に茶に・・じゃあ三毛かな。

 毛づくろいは前肢、顔、首から背ときて、柔軟体操のように後肢を抱えはじめた。ぴーんと張った両後肢の間に、ふよふよ揺れる尻尾が見える。

 ーーへぇ、自分の尻尾が動くのってこんな感じなんだ。


 だんだん自分(おれ)の五感が身体(ネコ)に馴染んできているみたいだ。

 ーーこれ、大丈夫なのか?

 とふと不安になった。

 ーーもう、戻れなく、なる?

 母と妹の顔を思い出して、胸をギュッと掴まれたような焦りを感じた。


 もはや、夢じゃない確信があった。

 無理だ。こんなに知らないことを夢で再現できる想像力は俺にはない。

 夢以外にこの状況に説明をつけるとしたら?

 ーーまさか、転生した(うまれかわった)

 他に可能性を捻り出そうとしてみたが、俺の知識と想像力では限界だった。


 はぁ〜〜〜

 猫のくせに大きなため息が出た。・・・傍目にはあくびに見えたかもしれない。

 同時に、もはや意識と身体が完全に連携しているのを自覚した。

 ーーやっちまったなぁ〜

 思わず額に手を付くと、ぷに。と弾力ある現実が応える。・・・脱力して、その場に大の字になって目を閉じた。

 ーー「へそ天」とか言うんだ。この体勢(ポーズ)

 そんなどうでもいい事を思い出した。


 人間の、高校生だった俺は、死んだんだろうか?そんな記憶は全く無いけど。

 最後の記憶は・・・高二の二学期、文化祭が終わって、定期試験の初日の朝、少し寝不足で単語帳なんかチラ見しながらの通学路。

 塀の上に、猫がいたんだ。くわぁ〜と豪快なあくびをして、ティッシュ箱みたいな形になってる体に首を埋めて、気持ち良さそうにウトウトやり出した。

「猫は気楽でいいよなぁ」

 そんな事を呟いた。そこまでは覚えている。


 でも別に、飛び出してきたトラックに轢かれたとか、突然足元に妖しい魔法陣が発生したりしてない。異空間で神様っぽい人に会ったりとかも無かった。

 ・・・なかった、はずだ。

 何しろ肝心の記憶がないのだから、確信の持ちようはない。

 でもまさか・・・まさか、な?


『猫は気楽でいいよなぁ』


 あれのせいってことはない・・よな?

 そんなんでほいほい生まれ変わってたら、人生どこが落とし穴だか分かったもんじゃない。


 ーーはぁ。

 でもまぁなんにせよ、どうもこれだけは確らしい。

 どうやら俺は今、猫である。



 いや、ここは言わねばならぬ。

 ーー吾輩は猫である。名前はまだ(知ら)ない。


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