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先駆者 ~ 天翔けるYAMATO-Ⅲ  作者: サクラ近衛将監
第二章 飛翔
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2-3 斗夕峠

 そのうちに、坂崎の妻が声をかけた。


「あなた、後片付けが済みましたわよ。」


「おぅ、じゃぁ出かけられるかね。」


「ええ、そのコーヒーさえ片付けが済んだら出かけられます。」


 テーブルの上には古谷と篠崎のコーヒーが手もつけられずに残っていた。


「あぁ、すみません。

 これはもうよろしいですよ。」


 慌てて古谷が言う。


「新しくれましょうか?」


「いいえ、結構です。

 ご主人のいう特ダネが気になってそれどころじゃありません。

 現場に行ってみた方が余程早いでしょう。」


「じゃぁ、片付けますね。

 御二方おふたかたとも、もうちょっとお待ちください。」


「はぁ、待ちますが・・・。

 奥さんもいらっしゃるのでしょうか?」


「ええ、私も誠一も一緒にね。」


 古谷はますますわけがわからなくなった。

 坂崎が造った物を取材するのに、何故、奥さんや息子さんが一緒に行かねばならないのか?


 5分もしないうちに、坂崎の妻が片付けを済ませて台所から出てきた。

 坂崎が立ちあがった。


「じゃぁ、出かけようか。

 カメラは向こうで使うことになるよ。

 君たちは、君たちの車で後をついて来てくれ。」


 四人が連れだって家を出ると、ちょうど車庫から坂崎の息子が車を出していた。

 バンタイプの車である。


 家の戸締りをして、坂崎夫婦がその車に乗り込み、走り出した。

 嘉子の運転するカムリがその後をついて行く。


 運転しながら、嘉子が話しかけてきた。


「支局長、本当に特ダネなんでしょうか?

 ど素人の造ったものが何かは知りませんけれど、余程の大発明でもない限り、特ダネになるとは思えないんですけれど・・・。」


「まぁな、俺もそうは思うが・・・。

 坂さんは、あれで学者肌だからな。

 いわゆるど素人とは少し違うかもしれん。

 昔からとにかく、博学だよ。

 並みの大学教授以上に知識は有る。」


「だってぇ、そんな大先生がこんな田舎でひっそりと暮らしていると言うのもおかしいじゃないですか。

 そんなに能力がある人なら、東京で活躍していてもいいでしょう?」


「うーん、・・・。

 だが、本当に特ダネだったら、NFKウチが独占だぞ。」


「そうは言っても、町の発明家が何かを造ったからと言って、それが特ダネだなんてちょっと信じられませんよ。

 せいぜい、ニュースの隅っこに時間が空いたら入れるぐらいのネタにしかならないのじゃないんですか?」


「まぁ、そう言うな。

 せっかく美味うまい料理を食わせてもらったんだ。

 駄目元だめもとだよ。

 幸い事件も無かったことだし・・・。」


 そうこうしているうちに、20分ほどで件の脇道に先導車が曲がって行った。

 古谷の乗ったカムリの方は、対向車があってすぐにはついて行けなかったが、私道に入ってすぐに遮断機が有り、そこで坂崎の車が待っていてくれた。


 そこから緩やかにカーブする道を進むとトンネルに入った。

 トンネルの奥に照明がついていて、そこが終点であった。


 天蓋付きの広い屋内駐車場である。

 坂崎達は既に車を降りている。


 坂崎の妻と息子は、奥の金属製の扉に向かって歩いているが、坂崎は古谷達の車に歩み寄ってきた。


「カメラの準備はいいかな?」


「ええ、いいですけれど、屋内で撮るのでしょうか?」


「いや、今から案内するけれど、君たちは屋外だ。

 若干の照明はあるが、夜間撮影になる。

 撮れるかね?」


「ええ、まぁ、一応、照明用のライトも準備していますから何とかなるでしょう。」


 古谷と篠崎は機材を降ろし始めた。

 念のためハンディカメラと、ハイビジョンカメラの両方を持ってきているし、三脚や照明、バッテリーなどを手分けして持った。


「坂さん、どちらに行けばいいですか?」


「あぁ、ちょっと待ってくれ。」


 坂崎はそう言うと、バンから段ボール箱を降ろし始めた。

 全部で10個ほども降ろし、そのうちの一つを開けた。


 ちょっと見た目には何の変哲もないノートパソコンである。

 それを手に持って、坂崎は、息子達が入って行ったドアとは別のドアに向かった。


 広い通路を10mも進むと階段があった。

 それを登りきると、そこは庭園であった。


 ほのかな照明が周囲を照らしているが、足元だけを照らすように工夫がされている照明である。

 庭園のほぼ中央にベンチ付きの丸太で造られたテーブルがあった。


 坂崎はそこにノートパソコンを置いてから言った。


「さて、ここが君たちの撮影場所だ。

 そして、こいつは君たちの思っているようなパソコンでは無くて通信機だ。」


 坂崎は、ノートパソコンを開いた。

 唐突に画面が映り、息子誠一の顔が映った。


「誠一、受信状況はどうかね?」


「ああ、父さん、良好ですよ。

 あと、5分で準備完了です。」


「わかった。

 じゃぁ、私も今からそちらに行く。」


 坂崎は振り返って言った。


「君らの取材対象は、あと5分か10分で姿を現すことになる。

 方向は、君らの背後だ。

 取材はこの通信装置を介して行うことになる。

 それとそのカメラでの撮影時間は精々60秒ぐらいかな。

 チャンスを逃すなよ。」


 そう言って立ち去ろうとする坂崎を、古谷が呼びとめた。


「坂さん、一体何を映せと?」


「うん、あぁ、船だよ。

 空を飛ぶ船だ。

 ロケットじゃないから噴射は無いし、煙も出ない。

 今から家族で宇宙旅行に行く。

 出発時間は後で連絡する。

 通信装置を見ていてくれ。

 それとカメラを回すのを忘れるなよ。」


 そう言って呆気にとられている二人を置いて、坂崎は今出てきた階段を降りて行った。

 古谷と篠崎は顔を見合わせた。


       ◇◇ 続く ◇◇


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