5ー4 動力炉 その四
これらの製品は、受注に合わせて生産を行って行くことと、最大製造数が、Ⅰ型は月産で千台ほど、Ⅱ型は月産で一万台ほど、Ⅲ、Ⅳ、Ⅴ型は月産で五万台ほど、Ⅵ型は月産十万台になる見込みである。
さらなる増産を行うためには、さらに1年を待たなければならず、その場合でも最大数が倍程度になるだけと予想しているとのことであった。
経❆産業省は4年と言うバッファを取った。
その上で、電力会社は毎年15%の電力料金の引き下げを行うこと。
無論、動力炉の導入を優先して与えるが、販売を制限するものではない。
一方で、SAKAZAKI製作所については、当該製品の価格を現在の電力会社の三分の一の料金に見合う設定にすることを求めた。
本来のコストよりも高い分は6割ほど税金となって国庫に入る。
ために、その分を補助金として電力会社各社に交付することにしたのである。
そのための猶予が最大4年ということである。
電力会社は4年しか補助を受けられないが、一方でSAKAZAKI製作所は10年間の価格据え置きとなった。
10年据え置きの後に最大10%刻みで価格を下げることができるし、下げなくてもよい。
価格を上げるには経❆産業省の許可がいるようになる。
いずれにしろ、電力会社は種々の面で工夫をしなければならなかった。
もはや存続は有り得ないが公益事業を行う会社として最後まで事業を行わなければならないのである。
経❆産業省は、電力会社が勝手に送電を止めることを許してはいない。
電力供給を止めるには経❆産業省と協議しなければならないのである。
4年以降も存続をしなければならない部分もある筈である。
その代わり1年間に限り優先的に動力炉を導入できる。
各電力会社の規模により動力炉I型の配分が決定されることになるのだが、基本的に100万キロワットにつき2基の動力炉が配分されることになった。
この計画が公開されるに及んで、従来の化石燃料をエネルギー源とする自動車生産は下火になった。
各自動車会社が一斉に電気自動車へと模様替えを始め、購入する方も新型電気自動車の出現を待ちかまえている。
何しろ、燃費に極端な影響が出ることになる。
普通乗用車でハイブリッド仕様でも燃費は35キロ程度であり、非ハイブリッド車両よりも100万円ほど高値である。
だが、SAKAZAKI製作所の動力炉を搭載すれば、乗用車が壊れるまで走っても燃料代金はただなのである。
原価計算をもの好きが行ったところによると、当初15万円ほどの卸価格が経❆産業省の指示で、およそ4倍ほどになると言う。
その価格は今後10年変わらない。
だがそれでもメリットは十分にあるだろう。
年間1万キロ走る車では、仮に燃費が40キロでも年間250リットルのガソリンを使う。
ガソリンは値下がり傾向にあるが、それでもまだ1ℓ当たり100円を切ってはいない。
年間2万5千円以上の燃料代金がかかるのである。
大した額ではないが10年使い続ければ25万程度になるのである。
従って電気自動車がどの程度の値段になるかは不明であるが、少なくともハイブリッド車両より安ければ、その安い分と燃料代金が完全に浮くことになるのである。
そうして、反応が一番早かったのはス❆キであった。
軽車両ではあるが、80万を切る値段を発表していた。
次いで❆ンダが150万を切るニューア❆ードを発表した。
残念ながらいずれも生産台数は少ない。
SAKAZAKI製作所の動力炉生産台数が、自動車用で月産4万個から5万個であり、自動車会社各社が入手できる数量が限られているのである。
尤も、SAKAZAKI製作所は、半年後には増産体制に入り、月産で20万個を生産するようになるという。
いずれディーゼル車は無論のこと、ガソリン車とハイブリッド車も生産中止になる筈である。
尤も、世界中で年間に7千万台以上も自動車は生産されている。
年間240万個では焼け石に水の様であるが、徐々に生産を増やして行く計画は発表されており、しかも廃車となった車両から動力炉のみをリサイクルすることも可能である。
自動車用の動力炉は、例えフル稼働であっても最低で50年は使用可能なのである。
それだけの耐久性のある材料で構築されている動力炉なのである。
一方で、ガソリン価格は半年経たずに80円台を割った。
産油国が徐々に値下げを行っているのである。
O❆ECは遂に破たんしていた。
申し合わせでは各国財政が持たなくなってきていたのである。
原油の購入量そのものが目に見えて落ちてきていた。
既に日本の発電所は火力発電所を全て停止していた。
原子力と動力炉だけで十分に電力を賄うことができるからであり、原子力発電所も既に後4年で廃止が決まっている。
❆ヶ所村の原子力燃料再処理工場も廃止が決まっている。
使用済み核燃料は、SAKAZAKI製作所が放射性廃棄物最終処理施設を六ヶ所村に建設して全ての放射性廃棄物を処理することになっている。
既に試験的な処理も終わっており、六ヶ所村に処理場が建設されれば本格稼働が始まる予定である。
同最終処理場は世界各国の放射性廃棄物を受け入れることになっているが、厳格な輸送基準があり、SAKAZAKI製作所で製造したキャスクに格納されたものでなければ受け入れられないことになっている。
輸送は専ら建造後10年未満の専用船舶で行われ、キャスクが沈んでも放射性物質が漏れることは決してない。
エルニット鋼材で作られたキャスクは放射線も熱も通さず、ジェット旅客機に搭載して1万メートルの高度から墜落しても無傷と言う保証付きである。
更に水深1万mを超えるチャレンジャー海淵に落ちても十分に水圧に耐えることができ、推定で500万年以上でも経年変化が無いだろうと言われている。
SAKAZAKI製作所は、2年目にして年間売り上げが1兆円を超えていた。
今後も増えこそすれ減少する可能性は少ないだろう。
少なく見ても10万人を雇用できるだけの収入はあった。




