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先駆者 ~ 天翔けるYAMATO-Ⅲ  作者: サクラ近衛将監
第四章 事業展開
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4ー11 事業の開始 その十一

 SAKAZAKI製作所でエルニット鋼材の加工はできるのだが、それほどの手間暇をかけるだけの人手が無いためにしていないだけである。

 現実にH字鋼などは、平板3枚を溶着して製造している。


 エルニット鋼材は、大型のものはトン当たり10万円で受注を受けている。

 尤も、小型部品などは手間がかかるので割高である。


 概ね100グラムで5百円ほどになる。

 比重は1.2ほどで水に沈むが、アルミニウムの半分の重量である。


 因みにエルニット鋼材の廃材は全て無料で引き受けることにしている。

 尤も、輸送費は向こう持ちになる。


 建設業界では盛んにエルニット鋼材の加工用機材の販売を要請してきているが、坂崎は断っている。

 一つは軍事産業への転換が容易であるためであり、会社設立の理念からそうした要請には答えられないとしたのである。


 SAKAZAKI製作所の秘密を探るためにかなりの数の工作員や産業スパイが暗躍し始めていた。

 それらの内で非合法の活動を試みる者もあったが、いずれも失敗していた。


 暗夜、会社の敷地内に潜入しようとした者は、原理不明のセンサーにひっかかり、その場で動けなくなった。

 その5分後に駆けつけた警備員により警察に突き出されたのである。


 男はロッシーア人であった。

 その後数回の試みが有って同様に捕縛されると、今度は社員の誘拐をたくらんだ。


 だが、彼らのアジトで尋問中に警察官に踏み込まれ、敢え無く御用となった。

 彼らは欧米系の白人であった。


 同様に帰宅途中の子供を誘拐して、その親である会社員に秘密の暴露を迫ろうとしていた者も、誘拐から僅かに30分で警察から追われる羽目になった。

 1時間ほどの追跡劇の果てに彼らも捕縛され、子供は無事に保護されていた。


 誘拐をたくらんだのは○△組系暴力団であり、その後、組は解散の憂き目に会った。

 彼らのほとんど全ての旧悪が何故か露見したのである。


 証拠も十分に揃っており、幹部を含め、大多数が刑務所に送られた。

 いずれも、SAKAZAKI製作所の調査室からの通報によるものであった。


 報復のためにダンプで会社の敷地に飛びこんだ者は、遮断機に激突して即死していた。

 壊れるはずの遮断機はまるで不動のようにかすり傷さえつけられなかったのである。


 ダンプは遮断機で上下二つに破断されながら慣性力で前進したが、直後に地面から浮きあがった高さ3mにも及ぶ24本のポールに激突して文字通り圧壊したのである。

 SAKAZAKI製作所の敷地は要塞にも似ていた。


 外部からは余程のことが無い限り手が出せないのである。

 このことがあってから、○△組の中ではSAKAZAKI製作所には手を出すなと言う回状が密かに廻っていた。


 次に試みられたのは懐柔策であった。

 現金や女を報酬に近づいたが、社員の結束は固かった。


 彼らは決して薄給ではない。

 標準を超える報酬をもらっているのである。


 北❆道の標準的な給与は高卒者で18万円ほど、年収にして250万円ほどであるが、SAKAZAKI製作所での平均報酬は、年間にすると500万円ほどになる。

 しかも、4月に採用された者は、10月で2万円の昇給が為されている。


 高校を卒業したばかりの若者にとって手取り400万円ほどの給与は極めて魅力的であるはずである。

 そうした若い連中が会社の秘密を知っているとは考えない連中であるから、当然に40歳前後或いはそれ以上の技術者に狙いをつけたのだが、無駄であった。


 彼らは、前職を辞めてまで自分の意思で入ってきたか、あるいは職が無くて拾われたものであった。

 秘密を話してくれれば10億円と部長職で迎えようと提示されても、笑って拒否したのである。


「SAKAZAKI製作所の従業員は皆仲間なんですよ。

 貴方がたに同じ仲間が提供できますか?

 似たようなものなら提供できるかもしれないですね。

 でも、私は、もう偽物はこりごりです。

 SAKAZAKI製作所には、本物が有ります。

 そうして誰に(はばか)る事なく社会に貢献できる仕事ができる。

 この喜びは、仮に100億円の金を積まれても交換できません。

 だから、お断りします。」


 狙われたのは社会的にもよく知られていた東❆大研究所出身の坂本と北❆大講師であった高木の両名である。

 だがその両名とも同じような答えをしたことで、懐柔策も無駄とわかったのである。


 その後も何度か別の者に懐柔を迫り、同様の結果が出たので最終的に諦められ、その代わり、翌年4月に行われるであろう採用に潜り込ませることを考えた。

 無論10月期の募集でもかなり優秀な人材を受験させたところもあるのだが、見事に採用から外されていた。


 一体どんな基準で採用者を決定しているか皆目見当もつかない状況であった。

 10月期の採用では、9月初旬に宇部広、浅井河(あさいがわ)里幌(さとほろ)箱立(はこだて)の4カ所で面接が行われた。


 また9月中旬に、青面里(あおめり)阿木多(あぎた)毛利尾加(もうりおか)千泰(せんたい)矢間方(やまかた)風串間(ふうくしま)の6カ所で面接が行われた。

 北❆道で6千人、東北6県で1万2千人が応募したのであるが、面接は僅かに一人当たり10分程度で済んでいる。


 とてもまともな人物評価ができるとは思えないのであるが、履歴書を見て幾つかの決まり切った質問を行っているだけの様である。

 北❆道では各都市で1日だけ、東北6県では各都市二日で行っている。


 特に千泰では4千人近くの受験者が集まったはずであり、面接は20カ所に分散して行われたようである。

 製作所から40人の人手が来て面接に当たったようだが、随分と若い連中が混ざっていたと聞いている。


 そんなおざなりの面接でこれほどまでの結束をどうして産むことができるのか、外部から見ると不思議で仕方が無かった。

 余程社内教育が徹底している所為かもしれないが、そうした関連情報は一切得られていないのである。


 工作員、産業スパイは、互いにけん制し合いながら為す術も無く、周辺を探るだけであった。


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